成績概要書 (作成 平成10年1月)
研究課題名:セレン補給による牛の感染防御機能の増強と胎盤停滞の予防 (セレン補給による牛の生体機能増強に関する試験) 予算区分:道 単 担当科:新得畜試 生産技術部 衛生科 研究期間:平4〜8年度 協力・分担関係:な し |
1. 目 的
牛におけるセレン(Se)レベルと感染防御機能との関係を明らかにするとともに、Se補給による胎盤停滞および乳房炎の予防について検討する。
2. 試験研究方法
(1)Se含有固形塩によるSe補給効果
1)放牧牛に対するSe含有固形塩の給与
2)繋留牛に対するSe含有固形塩の給与
(2)Se補給が牛の白血球機能に及ぼす影響
1)Se・ビタミンE合剤(ESE)の注射が子牛の白血球機能に及ぼす影響
2)Se高含有酵母(Se酵母)の給与が牛の白血球機能に及ぼす影響
3)母牛に対するSe酵母の給与が母・子牛の白血球機能に及ぼす影響
(3)Se補給が牛の抗体産生に及ぼす影響
(4)Se補給による乳用牛の胎盤停滞および乳房炎の発生の低減効果
1)分娩前におけるESE10ml注射による効果
2)分娩前におけるESE20ml注射による効果
3. 結果の概要・要約
(1)-1)放牧中の肉用牛に対するSe含有固形塩(Se:15mg/kg)の給与では、舐食量が少なかったため、母・子牛とも血清Se濃度の上昇は十分でなかった。
(1)-2)繋留飼養した乳用牛に対するSe含有固形塩の給与は、個体によって舐食量に差はあったが、血清Se濃度(図1)および血液グルタチオンペルオキシダーゼ活性には十分な上昇がみられた。
(2)-1)ESE(Se:2.5mg/ml、ビタミンE:68IU/ml)を分娩前の母牛に15ml、出生子牛に2ml注射することにより、子牛における血清過酸化脂質の上昇が抑制された。
(2)-2)育成牛に対するSe酵母の給与(Se:0.5mg/体重100kg/日)により、好中球殺菌能の指標となる化学発光指数値およびリンパ球幼若化能が高まる傾向がみられた(表1)。
(2)-3)分娩2-4週後の肉用牛に対するSe酵母の給与(Se:0.525mg/体重100kg/日)により、その子牛における好中球殺菌能およびリンパ球幼若化能が高まる傾向がみられた(表2)。
(3)母牛へのSe酵母給与と子牛へのESE注射によるSeレベルの上昇により、Haemophilus somnusワクチン接種後における子牛の抗体価を持続する傾向がみられた(図2)。
(4)-1)分娩前の血清Se濃度が低かった経産牛(30ppb)では、分娩3週前におけるESE10mlの注射により、胎盤停滞の発生率(表3)および乳汁体細胞数(図3)が低減する傾向がみられた。血清Se濃度がきわめて低かった初産牛(20ppb)では、効果が発揮されるまでには至らなかった。
(4)-2)分娩前の血清Se濃度がやや低かった初産牛(40ppb)では、分娩3週前におけるESE20mlの注射により、乳汁体細胞数の低減効果(図4)、すなわち、潜在性乳房炎の発生を抑える効果が認めされた。血清Se濃度が高かった経産牛(50ppb)では、効果が認められなかった。
表1 Se含有酵母入飼料給与による育成牛の好中球およびリンパ球機能の推移
試験開始時 | 4週後 | 8週後 | 12週後 | ||
全血化学発光反応 | |||||
好中球化学発光指数値 | 給与群 | 18.9±6.2 | 44.0±33.2 | 49.2±26.4 | 50.6±32.0 |
対照群 | 20.5±16.6 | 27.7±24.5 | 31.9±15.9 | 44.4±23.8 | |
ピーク時間(秒) | 給与群 | 323±173 | 672±47 | 570±227 | 662±201 |
対照群 | 411±216 | 606±155 | 606±207 | 666±210 | |
リンパ球幼若化能 | |||||
PHA刺激による指数値 | 給与群 | 3.5±0.2 | 3.6±0.4 | 2.2±0.4 | 2.8±1.3 |
対照群 | 3.1±0.9 | 2.7±0.6 | 1.7±0.1 | 2.2±0.3 | |
ConA刺激による指数値 | 給与群 | 8.6±0.9 | 10.5±2.5 | 5.2±1.1 | 5.7±1.4 |
対照群 | 6.6±1.5 | 7.5±0.3 | 3.7±0.4 | 4.7±0.7 | |
PWM刺激による指数値 | 給与群 | 2.5±0.4 | 3.0±0.7 | 2.1±0.4 | 2.0±0.2 |
対照群 | 2.2±0.4 | 2.6±0.2 | 1.8±0.3 | 1.9±0.3 |
表2 母牛へのSe含有酵母入飼料給与による同居子牛の好中球およびリンパ球機能の推移
試験開始時 | 5週後 | 10週後 | ||
全血化学発光反応 | ||||
好中球化学発光指数値 | 給与群 | 32.4±29.1 | 3.55±2.32 | 3.21±4.55 |
対照群 | 14.8±11.3 | 1.46±1.11 | 4.52±3.36 | |
ピーク時間(秒) | 給与群 | 498±35 | 536±71* | 568±128 |
対照群 | 560±99 | 709±143 | 761±190 | |
分離顆粒球化学発光反応 | ||||
好中球化学発光指数値 | 給与群 | 58.0±8.9 | 62.1±14.2 | 71.5±9.0 |
対照群 | 70.6±12.4 | 64.1±11.3 | 72.2±16.8 | |
ピーク時間(秒) | 給与群 | 278±38 | 192±53** | 298±78 |
対照群 | 260±19 | 303±58 | 243±55 | |
リンパ球幼若化能 | ||||
PHA刺激による指数値 | 給与群 | 5.9±4.0 | 5.8±2.9 | 3.8±1.1 |
対照群 | 6.2±1.5 | 3.2±0.6 | 3.4±0.5 | |
ConA刺激による指数値 | 給与群 | 11.2±5.2 | 8.6±1.8* | 7.4±2.1 |
対照群 | 11.2±3.7 | 5.9±1.8 | 6.1±2.2 | |
PWM刺激による指数値 | 給与群 | 4.0±2.9 | 2.3±1.0 | 2.2±0.9 |
対照群 | 3.4±1.6 | 1.8±0.3 | 1.8±0.4 |
4. 成果の活用面と留意点
(1)感染防御機能の増強および胎盤停滞の発生の低減を図るためには、血清Se濃度が50ppb 以上あることが望ましい。
(2)Se補給の具体的方法としては、①Se含有固形塩の継続的な給与、②分娩3週前における ESE(1ml/体重45kg)の注射、③分娩1カ月前〜分娩時におけるSe酵母の飼料添加給与(Se量 として1日0.2-0.4mg/体重100kg)等がある。また、Se含有固形塩を利用する場合、牛が十分舐食できるように設置場所や個数等を配慮する必要がある。
(3)初産牛は経産牛に比べ、Seが欠乏しやすいことから、分娩前のSe補給について配慮する 必要がある。
5. 残された問題とその対応
(1)Seレベルと繁殖性との関係の解明