課題の分類:北海道 家畜衛生 豚 微生物感染共通 − 滝川畜試 研究課題名:既存養豚場のSPF変換方式 (既存養豚場のSPF変換方式の確立) 予算区分:共同研究(民間) 研究期間:平7〜9年 担当科:滝川畜試 研究部 衛生科 協力・分担関係:ホクレン農業協同組合連合会 |
1.目的
低コストで高品質かつ安全な豚肉の生産が可能なSPF養豚は、生産者および消費者のニーズに合致した養豚方式であり、今後SPF豚農場が増えていくことが予想される。
養豚場のSPF変換方式のうち、既設豚舎を利用する一括変換方式は、SPF変換における施設コストの削減が可能な手法で普及が期待されている。
しかし、変換前の農場に浸潤していた病原体を洗浄・消毒により清浄化しなければならないことや、この方式による変換事例が道内にないことなど、技術的に不明な点も多い。
そこで、本方式によるSPF変換事例をもとに洗浄消毒などのSPF変換作業における諸問題を検討し、変換マニュアルを作成した。また、SPF変換による疾病清浄化および生産性改善効果を明らかにした。
2.方法
1)豚舎の洗浄消毒法
(1) 高圧洗浄と消毒による消毒効果
(2)低温の消毒効果への影響
2)SPF変換における洗浄消毒効果と変換コスト
(1) SPF変換作業
(2) 洗浄消毒による環境由来細菌数の変化
(3) SPF変換コスト
3)SPF変換による改善効果
(1) 疾病清浄化効果
(2) 生産性改善効果
(3) 経済効果
4)SPF変換マニュアルの作成
3.結果の概要
1)-(1) 豚房を高圧洗浄機で洗浄し、トリメチル塩化アンモニウムメチレン500倍希釈液で消毒することにより、床、壁面ともに一般細菌数は102個/cm2以下、腸内細菌数は検出限界以下にまで減少し、十分な消毒効果が得られた。
1)-(2) 塩化ジデシルジメチルアンモニウム500倍希釈液は、20℃と比較して5℃での消毒効果の低下が明らかとなり、消毒液の温度に留意する必要があると考えられた。
2)-(1) 母豚約40頭の小規模養豚場において、一括変換を行った。変換作業は、1名で約1ヶ月間を予定したが、作業員を増員しても約2ヶ月間を要し、洗浄作業の効率化の必要性が示された(表1)。
2)-(2) 変換農場における豚房の床、壁面および通路の細菌数は、洗浄消毒の過程を経るに従い減少し、壁面を除いて最終的に一般細菌が10〜102個/cm2、腸内細菌がほぼ検出限界以下となった(表2)。
2)-(3) SPF変換に要した経費は、消毒薬などの資材費が約9万円、洗浄消毒作業などに関わる労働費が約72万円、防疫設備がフェンス76万円、管理棟120万円であった。また肥育豚の出荷開始までに、約150万円の逸失利益があった(表3)。母豚1頭あたりの変換コストは約12万円であった。
3)-(1) 変換前に高度な浸潤があったSPF指定疾病のマイコプラズマ肺炎と萎縮性鼻炎は、SPF変換後の病変検査および病原分離成績により陰性であることが確認され、同時にグレーサー病、アクチノバチラス症も陰性となった(表4)。また、と畜場における内臓廃棄も大きく減少し、疾病清浄化の効果が示された。
3)-(2)母豚1頭当りの年間離乳頭数は、SPF変換前の19.6頭から変換後の22.6頭に増加し、離乳時育成率も85.1%から88.4%へと改善した(表5)。
3)-(3)農場は変換前に種豚販売をしており、経営について変換前後の単純な比較はできないが、肥育豚1頭当りの診療衛生費および労働費の減少がみられた。一方、豚売上高は、肥育豚の出荷頭数増により大幅に増加した。これらのことから、SPF変換コストも短期間で償還できるものと考えられた(表6)。
4) 以上の成績をもとに、一括変換方式によるSPF変換マニュアルを作成した。
表1 洗浄消毒作業と時間および作業効率
作業過程 | 作業時間1) | 単位面積当たりの 作業効率2) |
清掃、除糞 | 85.5時間 | 0.11 |
第1回洗浄 | 121時間 | 0.15 |
第1回消毒 | 18時間 | 0.02 |
第2回洗浄 | 51時間 | 0.07 |
第2回消毒 | 18時間 | 0.02 |
燻蒸用目張り | 32時間 | |
ホルマリン燻蒸 | 3日間 | |
石灰乳塗布 | 3日間 | |
全過程 | 60日間 | 0.46 |
表2 変換作業過程と一般細菌数の推移
洗浄前 | 第1回洗浄消毒 | 第2回洗浄消毒 | ホルマリン 燻蒸後 |
|||
洗浄後 | 消毒後 | 洗浄後 | 消毒後 | |||
豚房床 | 7.81) | 6.4 | 4.8 | 4.4 | 1.6 | 1.0 |
7.8 | 6.7 | 5.3 | 4.5 | 3.1 | 2.0 | |
8.5 | 6.8 | 5.7 | 6.1 | 3.2 | 2.1 | |
豚房壁 | 6.5 | 4.7 | 4.4 | 5.0 | 5.0 | 2.2 |
7.0 | 5.5 | 4.9 | 5.0 | 5.5 | 3.8 | |
7.6 | 6.7 | 5.3 | 5.8 | 7.0 | 5.6 | |
豚舎内通路 | 8.0 | 3.8 | 3.2 | 4.3 | 3.2 | 1.3 |
8.4 | 5.5 | 3.9 | 4.7 | 3.5 | 1.5 | |
8.4 | 6.3 | 4.4 | 5.0 | 4.3 | 1.9 |
表3 SPF変換に伴う経費と損失
費目 | 内 訳 | 数量等 | 金額(円) |
消毒剤 | トリメチル塩化アンモニウムメチレン | 20 l | 11,600 |
塩化ジデシルジメチルアンモニウム | 40 l | 28,000 | |
生石灰 | 100 kg | 6,000 | |
ホルムアルデヒド液 | 60 l | 16,500 | |
過マンガン酸カリ | 60 kg | 27,000 | |
労働費 | 変換作業(賃金8,000円/日) | 89日 | 712,000 |
施設 |
フェンス | 760,000 | |
管理棟 | 1,200,000 | ||
逸失利益 | (変換前の利益2,374,000円/年) | 8ヶ月 | 1,582,700 |
合計 | 4,343,800 |
表4 変換前後の慢性呼吸器病浸潤度
病原菌 | 陽性率(%)1) | ||
変換前 |
変換後 |
||
6ヶ月 | 15ヶ月 | ||
M. hyopneumoniae2) | 40 | 0 | 0 |
P. multocida3) | 35 | 0 | 0 |
B. bronchiseptica3) | 80 | 0 | 0 |
H. parasuis3) | 85 | 0 | 0 |
A. pleuropneumoniae4) | 0.5 | 0 | 0 |
表5 SPF変換前後の繁殖成績
変換前 | 変換後 | 後−前 | |
母豚常時飼養頭数(頭) | 36.1 | 36.6 | 0.5 |
分娩腹数(腹) | 73 | 85 | 12 |
母豚回転率 | 2.02 | 2.32 | 0.3 |
離乳時育成率(%) | 85.1 | 88.4 | 3.1 |
離乳頭数/母豚/年(頭) | 19.6 | 22.6 | 3.0 |
表6 SPF変換前後の費用及び収益(円)
平成9年−平成6年1) | |||
総額 | 肥育豚1頭あたり | 母豚1頭あたり | |
生産原価(a) | 3,068,336 | -1,145 | 63,281 |
豚売上高(b) | 5,260,658 | 513 | 118,829 |
売上総利益(c=b-a) | 2,192,322 | 1,658 | 55,548 |
その他経費(d) | 248,917 | -832 | 2,048 |
その他収入(e) | -114,819 | -873 | -6,189 |
経常利益(c+e-d) | 1,828,587 | 1,618 | 47,311 |
4.成果の活用面と留意点
1)変換農場の規模、豚舎の状態および疾病状況を考慮して、変換計画を立てる必要がある。
2)高圧洗浄機の台数、作業者の配置および変換作業の進行管理を的確に行う。
3)洗浄消毒作業は低温下では行わない、発泡消毒法を使用するなど、十分に効果がでるように作業する。
5.残された問題とその対応
1)大規模養豚場の豚舎毎の段階的な逐次変換方式の検討
2)SPF豚に対応した飼料給与体系の検討