1997905

成績概要書(作成平成10年1月)

課題の分類:北海道 草地・畜産 畜産
研究課題名:牛乳タンパク質と疾患の遺伝子型同時判定法
予算区分:経常・場特定
研究期間:平8〜12年
担当研究室:北海道農試・畜産部・家畜育種研
担当者:山本直幸、佐々木修、富樫研治
協力・分担関係:北農試・畜産部・家畜管理研

1.目的

 乳用牛の泌乳特性に関連する遺伝解析を効率よく行い、個体毎の遺伝的特性を早期に把握することは、乳生産性を高める上で重要である。乳タンパク質の一種であるカッパーカゼイン(κ一CN)は牛乳品質の重要な成分であり、チーズ製品の加工特性に関連している。
 ウシ白血球粘着不全症(BLAD)は病原体に対する抵抗性が著しく低下する疾患で、個体損失につながる常染色体性劣性遺伝病である。乳タンパク質のみならず疾病も考慮した適正な交配計画の策定、実施を可能とするために、本研究ではκ一CNとBLADの遺伝子増幅から制限酵素消化までを1本の試験管で行い、短時間でかつ簡易に遺伝子型を同時判定する方法を開発する。

2.方法

 石狩東乳牛検定組合加入の酪農家5軒の牛群(ホルスタイン種、合計500頭)と北海道農業試験場の牛群(ホルスタイン種、99頭)の合計6牛群を用いた。尾静脈あるいは頸静脈より採血を行い、全血からDNAを抽出した。GenBank(NCBI)に登録されているκ一CNとCD18(BLADの原因遺伝子)の塩基配列データよりプライマーを設計した。PCR法でDNAの目的領域を同時増幅した後、2種類の制限酵素で同時消化を行い、遺伝子型はポリアクリルアミトゲル電気泳動法で同時検出した。

3.結果の概要

①κ一CNとCD18(BLAD)の遺伝子型を短時間でかつ簡易に同時判定するための最適なPCR-RFLP法の条件を確立した(図1、表1)。

②κ一CNの遺伝子型頻度には6牛群間でばらつきが見られた。チーズ生産に適したB/B型の頻度はいずれの牛群も低かったが、W牛群のB遺伝子頻度は29.03%と高く、B型ホモ個体割合を高める改良は比較的容易ではないかと想定できる(表2)。

③CD18の解析では、4牛群でBLADキャリアーが確認され、そのうちの2牛群は8%以上の頻度で存在した。種雄牛ではBLAD遺伝子の排除が進められているが、雌のBLADキャリアーは生産され続けている実態が明らかとなった(表3)。

④雌側からのBLADキャリアー排除を目的とする検査は行われていないため、本法は生産現場での利用が可能と思われる。

表1 κ一CNとCD18(BLAD)の遺伝子型同時判定のためのPCR-RFLP法条件
プライマー κ一CN:F-AAATCCCTACCATCAATACC R-CTTCTTTGATGTCTCCTTAC
CD18F-TCAACGTGACCTTCCGGAGG R-.CCCAGCTTCTTGACGTTGAC
PCR溶液 DNA:100ng、プライマー:各5pmol、dNTPs:200μM、Taq:1u,Mg:1.5mM、Tota1:10μ1
プログラム 95℃一10min:1サイクル
94℃-15sec 54℃-30sec 72℃一15sec:40サイクル
7℃-10min:1サイクル
制限酵素 κ一CN:PstI-10u,CD18:HaeⅢ-10u,37℃-60min〜
電気泳動 7%アクリルアミドゲル、100V-80min

表2 κ一CNの解析結果
牛群 頭数 遺伝子型 遺伝子頻度
A/A A/B B/B A B
YM 55 76.36 20.00 3.64 86.36 13.64
FM 56 64.29 35.71 0 82.14 17.86
WY 62 45.16 51.61 3,23 70.97 29.03
KS 173 67.05 32.37 0,58 83.24 16.76
TD 144 72.22 25.69 2,08 85.07 14.93
HNAES 99 56.70 41.24 2.06 77.32 22.68

表3 CD18(BLAD)の解析結果
牛群 頭数 BLADキャリアー 遺伝子頻度
頭数 頻度
YM 55 3 5,45 2,73
FM 56 5 8.93 4.46
WY 62 0 0 0
KS 173 11 5,20 2,60
TD 143 12 8.39 4.20
HNAES 99 0 0 0

4.成果の活用面と留意点

①本法は一般半群での適正な交配計画を実施するための一助となり、チーズ生産に関連する優良遺伝子であるκ一CN・B型の集積と感染病関連の不良形質BLADの排除に利用できる。

②遺伝子増幅装置によってはPCRプログラムの最適化が必要となることもある。

5.残された問題とその対応

 他の乳タンパク質や遺伝性疾患も含めた遺伝子型の同時判定を行うための検討が必要である。これについては、「DNAマーカーによる乳牛の生産性関連形質の解析:経常、平8〜12年」のなかで対応していく予定である。