1997916

成績概要書             (作成 平成10年1月)


課題の分類:根釧農試 研究課題名:チモシー基幹草地の集約放牧技術と牛乳の栄養成分
        Ⅲ.昼夜放牧における乳牛の養分充足と繁殖性
        (ゆとりある酪農経営をめざした放牧による低コスト生乳生産技術)
予算区分:国補
研究期間:平7−9年度
担当科:根釧農試 研究部 酪農第二科、酪農第一科
協力・分担関係:新得畜試 研究部 酪農科

1.目的

 高泌乳牛を昼夜放牧した場合には、泌乳前期のエネルギー不足あるいは蛋白質の過剰摂取から繁殖性の低下や生産病の発生が懸念される。そこで、放牧期間中および早春に分娩した乳牛を昼夜放牧して、養分充足状況、繁殖性および生産病の発生を明らかにする。

2.方法

 供試牛は1995〜1997年の放牧期間中に分娩した経産牛23頭(5月22日〜8月1日分娩)及び1995、1996年の早春に分娩した経産牛9頭(2月21日〜4月9日分娩)を用いた。放牧期間中の飼養は試験Ⅱ-2と同様であるが、早春の舎飼期は粗濃比50:50の混合飼料を給与した。発情発見はスタンディング発情等の外部兆候、ペイントスコアー及び乳中プロジェステロンの測定により行い、体重、ボディコンディションスコアーの測定および血液検査は分娩前後1〜2週間隔で実施した。 

3.結果の概要 

1)放牧期および早春分娩牛の放牧期(10・13週)は乾物摂取量が23kgあり、TDN充足率も100%以上を越え、放牧飼養においても養分は充足していた(表1)。これは放牧草摂取量が12〜13kgと多く、濃厚飼料(メイズ、大豆粕、ビートパルプを含む)の給与量を9.7kgに増加したことによるものと考えられた。 

2)乳量は分娩後2〜16週の平均で放牧期および早春分娩牛各々37.8、35.3kg/日、乳蛋白質率は3.09、3.05%と高かったが、乳脂肪率は放牧期分娩牛が3.38%と低かった(表2)。 

3)繁殖成績では初回発情日数が放牧期および早春分娩牛各々35、40日、初回授精日数が56、63日、授精回数が2.4、2.4回、空胎日数が113±72、103±41日と、授精回数を除き全道平均に比べ良好であった(表3)。繁殖障害は放牧期分娩牛が卵巣疾患2頭および低受胎1頭、早春分娩牛が卵巣疾患1頭および低受胎2頭であった。生産病は放牧期分娩牛で起立不能症1頭、早春分娩牛では発生がみられなかった。これらから、放牧飼養が特に繁殖性および健康に影響しているとは判断されなかった。 

4)初回発情後の性周期から推定される発情の発見率は、スタンディング発情等の外部兆候では84.2%、ペイントスコアーの低下では84.2%であり、両方の組み合わせで97.2%と高くなった。

5)分娩後1週から8週の体重低下は、放牧期および早春分娩牛各々19、46kg、ボディコンディションスコアー(BCS)の低下は各々0.5、0.3であった(表4)。 

6)血液検査では遊離脂肪酸が両分娩時期とも泌乳初期やや高かったが、その他の血液成分はほぼ正常範囲内であった。放牧飼養では蛋白質過剰で尿素窒素が高まり繁殖性の低下が懸念されたが、併給飼料からエネルギー補給により低く抑えることが可能と考えられた これらから、乳量水準9000kg程度の泌乳牛を昼夜放牧した場合にも、養分充足、繁殖性、体重、BCSおよび血液成分は、ほぼ良好であることが明らかとなった。 

表1.放牧期および早春分娩牛の飼料摂取量と養分充足率
分娩時期 供試頭数 分娩後週 乾物摂取量 養分含量 養分充足率
放牧 サイレージ 濃厚 総量 CP TDN CP TDN
  ───kg/日─── ────%────
放牧期 23 4・7w 13.0 1.0 9.5 23.5 19.0 77.4 127.6 104.2
10・13W 12.3 1.2 9.7 23.1 19.7 76.0 135.2 103.7
早春 9 4・7w 11.2 11.1 22.3 16.2 76.7 94.4 92.6
10・13W 13.0 1.0 9.7 23.7 17.0 77.5 116.5 106.2

表2.泌乳成績
分娩時期 分娩後週 乳量 乳成分
脂肪 蛋白
  kg
放牧期 2〜8 39.4 3.39 3.03
9〜16 36.4 3.36 3.16
2〜16 37.8 3.38 3.09
早春 2〜8 36.3 4.06 2.92
9〜16 34.3 3.62 3.16
2〜16 35.3 3.82 3.05

表3.繁殖成績および生産病の発生
分娩時期   初回発情 初回授精 授精回数 空胎日数 繁殖障害 生産病
   
放牧期 平均 35 56 2.4 113 3 1
SD 10 18 1.1 72    
早春 平均 40 63 2.4 103 3 0
SD 8 34 1 41    
全道* 平均   92 2 134    
*北海道乳牛検定成績(1996年)

表4.体重、ボディコンディションスコアー(BCS)および血液成分の推移
  -2w 1W 2W 4W 8W 12W 16W 1/8W差
体重(kg) 放牧 702 615 600 599 596 603 599 19±30
早春 738 648 631 630 616 611 627 46±34
BCS 放牧 3.64 3.33 3.18 3.01 2.8 2.75 2.71 0.5±0.3
早春 3.63 3.25 3.19 3.14 3 3.03 3.06 0.3±0.4
遊離脂肪酸
(μEq/L)
放牧 210 721 525 319 215 151 151 (126〜375)
早春 157 724 680 466 199 138 124  
血糖
(mg/dl)
放牧 63.8 52.9 53.6 57.9 59.1 59.8 61.8 (56.1±7.5)
早春 62.6 52.5 55 54.2 61.5 56.9 58.3  
尿素窒素
(mg/dl)
放牧 11.8 9.8 9.6 10.6 14.1 14.2 14.1 (13.9±4.3)
早春 8.8 10.3 11.2 12.3 17.2 15.4 14.8  

4.成果の活用面と留意点 

1)本試験はCP摂取量の過剰を軽減するため、CP含量の低い濃厚飼料(平均乾物中13.6%)を用いた成績である。

2)本試験の供試牛は乳量水準9000kg程度であり、さらに泌乳能力の高い牛群を昼夜放牧する場合は養分充足、繁殖性などに留意する必要がある。 

3)根釧地域は冷涼であり暑熱の影響が少なかったが、夏期高温となる地域での昼夜放牧は、暑熱による繁殖性の低下を考慮する必要がある。 

5.残された問題とその対応 

1)放牧形態別に乳牛の泌乳能力と繁殖性との関連を検討する。 

2)放牧牛の発情を簡易に発見するための機器およびシステム開発が望まれる。