成績概要書(作成 平成10年1月)
課題の分類
研究課題名:チモシー基幹草地の集約放牧技術と牛乳の栄養成分
      Ⅳ.放牧利用形態と牛乳の栄養成分
       (ゆとりある酪農経営をめざした放牧による低コスト生乳生産技術)
予算区分:国補
担当科:根釧農試 研究部 酪農第二科
研究期間:平7−9年度 協力・分担関係:なし

1.目 的

 生乳の乳成分率、脂溶性ビタミン、脂肪酸組成などの栄養成分は、飼料構成など飼養条件の影響を受けやすい。そこで、放牧飼養が生乳の栄養成分に与える影響を明らかにするため、農場の放牧利用形態と生乳の栄養成分の関連を検討する。

2.方 法

 放牧利用形態など夏期の粗飼料構成が異なる17農場を選定し、1996年7月から1997年8月までの期間、旬別の生乳生産量および乳成分率を調査するとともに、月1回づつ各農場の農場バルク乳を採取して栄養成分を測定した。生乳の栄養成分に対する放牧飼養の影響は、放牧利用形態別の季節推移や夏期および冬期の栄養成分値を比較して検討した。

  調査地区と農場数 釧路管内浜中地区、昼夜放牧3農場、制限放牧7農場、放牧なし7農場

  調査項目 乳成分率、Lab系色彩値、ビタミンE、ビタミンA、β−カロチン、脂肪酸組成、カルシウム、マグネシウム、リン

3.結果の概要・要約

(1)乳脂肪率は、放牧なし群に比べ制限放牧群および昼夜放牧群で夏期の低下量が大きかった。7〜9月期の旬別乳脂肪率は年間平均に比べて平均でそれぞれ0.05、0.24および0.17、最大で0.12、0.29および0.25ポイント低下した。

(2)生乳の色は放牧草の利用により黄色味が強くなり、この傾向は制限放牧群に比べ昼夜放牧群でより大きかった。生乳の黄色味は、11月の放牧終了期に最大となり放牧終了後も1ヶ月間持続した。生産月別にみた生乳の色とβ−カロチン含量には高い相関がみられたが、異なる生産月の間では色彩値b値とβ−カロチン含量との直線回帰式の傾きに明らかな差異がみられた。

(3)生乳のビタミンEおよびβ−カロチン含量は放牧草の利用により増加した。7〜9月期の放牧なし群、制限放牧群および昼夜放牧群の生乳のビタミンE含量はそれぞれ0.68、0.87および1.04μg/mlで、β−カロチン含量は0.20、0.33および0.37μg/mlであった。これらの含量は、8月あるいは9月期に最大となった。この放牧利用農家群で高い含有量を示す傾向は放牧終了後も1ヶ月間持続した(図1)。生乳中のビタミンAの含量には放牧草利用の影響はみられなかった。

(4)生乳のカルシウム、マグネシウムおよびリン含量には放牧草利用の影響はみられなかった。1〜4月期のそれぞれの平均は1055、97.6および869ppm、7〜9月期のそれぞれの平均は1023、96.3および847ppmで、いずれも冬期に高く夏期に低くなる傾向があった。また、農場単位の泌乳成績と生乳ミネラル含量では、リン含量と乳蛋白質率(r=0.62、p<0.01)あるいはSNF率(r=0.61、p<0.01)との間に有意な相関が認められたが、経産牛一頭当たりの乳生産量を含むその他成績とミネラル含量の間には有意な相関はみられなかった(表1)。

(5)生乳の脂肪酸組成は、放牧草の利用によりC18以上の脂肪酸割合が増加した。また、この傾向は制限放牧群に比べ昼夜放牧群でより顕著で、7〜9月期のC18以上の脂肪酸割合の平均は、放牧なし群、制限放牧群および昼夜放牧群でそれぞれ42.8、44.5および49.3%であった。これは、生草中に含まれるC18以上の脂肪酸が、サイレージあるいは乾草への調製過程で減少するためと考えられた。


表1 農場の泌乳成績と生乳ミネラル含量との相関
項目 平均値±SD 最小値 最大値 相関係数
乳量/
経産牛
乳脂肪
蛋白質
SNF Ca Mg
乳量/経産牛(Kg) 7907±1068 6535 9953  
乳脂肪(%) 3.89±0.12 3.64 4.1 0.05  
乳蛋白質(%) 3.22±O.06 3.12 3.33 0.42 O.12  
SNF(%) 8.70±0.09 8.54 8.86 0.60** 0.07 0.82**  
Ca(ppm) 1045±14 1027 1071 0.2 0.07 0.17 -0.08  
Mg(ppm) 97.4±2.8 91.2 102.4 0.35 -0.41 0.25 0.2 0.51*  
P(ppm) 858±15 829 901 0.39 0.06 O.62** O.61 O.40 0.54*
 17農場の各平均値を使用、*;p<0.05,**;p<O.O1

4.成果の活用面と留意点

5.残された問題とその対応

 1)放牧草の摂取量と牛乳の栄養・機能性品質との関連。