成績概要書(作成 平成11年1月)
課題の分類
研究課題名:穂ばらみ期耐冷性に及ぼす稲体栄養条件の影響と不稔軽減対策
      (耐冷性向上生産技術早期開発事業 1.水稲の冷害対策研究 2)不穏籾発生の軽減技術)
担当科:上川農試研究部水稲栽培科
    上川農試研究部土壌肥料科
    中央農試稲作部栽培第一科
予算区分:道費
研究期間:平成6〜10年度


 穂ばらみ期稲体栄養と不稔の関係から茎炭水化物の重要性を示した.各種資材の不稔軽減効果を検討した結果,ケイ酸資材は,ケイ酸/窒素比・茎炭水化物含有率・葯長を増加させ,アミノ酸資材はプロリン比率の向上を,植物調節剤は葯長を伸長させそれぞれ不稔歩合を軽減させる.

1 目的
 葯長を迅速・簡便に測定するため画像解析を活用した簡易測定方法の開発を行い,穂ばらみ期耐冷性に及ぼす稲体栄養条件の影響を明らかにするとともに,各種資材の不稔軽減効果を検討する.

2 方法
(1)画像解析を活用した葯長の簡易測定法の開発
真空ポンプによる葯採取器で葯を採取し,高解像度デジタルカメラFUJIX HC-2500,マクロレンズFUJINON,MAF75/BMDで葯を撮影し,画像解析ソフトNIHimageで解析した.
(2)穂ばらみ期耐冷性に及ぼす稲体栄養条件の検討
上川農試では1995〜98年にポット試験と圃場試験により,ケイ酸・窒素用量試験,稲作部では,1993年に直播播種量・施肥試験,1995〜98年に冷害実験ドームの膜を用いた遮光試験から,穂ばらみ期耐冷性に及ぼす稲体の窒素・ケイ酸・炭水化物含有率の影響を解析した.
(3)不稔軽減を目的とした各種資材の検討
ケイ酸資材(シリカゲル,ケイカリ,ケイカル,液体ケイカリ等),アミノ酸資材(総合アミノ酸等),植物調節剤(5-クロル-3(1H)-インダゾリル酢酸エチル,アブシジン酸s-ABA等)の不稔軽減効果を検討した.処理時期は,幼穂形成期〜止葉期,ケイ酸資材の追肥は土壌表面に施用,その他は溶液を葉面に散布した.

3 結果の概要
1)葯長の測定を迅速・簡便に行うために,真空ポンプ吸引式の葯採取器と画像解析装置を用いて測定するシステムを開発した(図1).
2)冷害実験ドームの膜を用いた遮光試験により,葯長の短縮および充実花粉数が減少し不稔が増加した(表1).
3)不稔発生に及ぼす止葉期の葉身窒素含有率と茎の炭水化物含有率の影響を解析した結果,不稔歩合に及ぼす影響は窒素含有率よりも炭水化物含有率で大きかった(表2,図2).
4)茎の炭水化物含有率は止葉期における茎葉のケイ酸/窒素比と密接な関係にあった(図3).また,本試験の行われた圃場条件下では茎葉のケイ酸/窒素比が3.5以上の場合に,葯長は1.8mm以上(図4),不稔歩合は20%以下となった.
5)ケイ酸資材の施用により止葉期における茎葉のケイ酸/窒素比,茎の炭水化物含有率および葯長が増加し,不稔歩合が低下した(図5).不稔軽減を目的としたケイ酸資材の追肥は,幼穂形成期1週間後に20kg/10a程度が適当と考えられた.
6)葉身中の各種アミノ酸と不稔歩合の関係を検討した結果,全アミノ酸に対するプロリン比率と不稔歩合の間に密接な関係を認めた.また,プロリンを含んだアミノ酸資材を幼穂形成期1週間後〜2週間後に葉面散布した結果,葉身中のプロリン比率が向上し,不稔歩合は低下した(図6).
7)冷水田において,穂ばらみ期に各種の植物調節剤を葉面散布した結果,アブシジン酸や数種の植物調節剤の処理により,葯長が伸長し不稔歩合が低下した(図7).


4 成果の活用面と留意点
(1)本試験の成果はきらら397を用いたものである. 
(2)画像解析法による葯長の測定は,不稔歩合の早期予測に活用する.本システムはMacintoshに対応する.
(3)不稔軽減を目的としたケイ酸資材の追肥は,幼穂形成期1週間後に20kg/10aを目安に行う.このとき,従来の深水管理を合わせて行う.
(4)アミノ酸資材および植物調節剤は未登録である.

5 残された問題点とその対応
1)障害型不稔の発生プロセスの生理化学的な解明
2)冷害気象条件下における実証試験
3)水稲炭水化物栄養条件の簡易判定法の開発