成績概要書                            (作成  平成11年 1月)
課題の分類
研究課題名: 葉いもち圃場抵抗性検定のための真性抵抗性遺伝子型別基準品種の策定
予算区分:経常
担当:北農試 作物開発部 稲育種研、道立中央農試 稲作部 育種科、
             道立上川農試 水稲育種科、道立道南農試 作物科
研究期間:平8〜10年度
協力・分担関係:
 

1.目 的
 北海道におけるいもち病は平成7年以降、全道的に多発傾向が続き、特にこれまで耐病性が「やや強」とされてきた基幹品種の「きらら397」(Pi-iおよびPi-kを有する)の多発化が顕著である。この現象の主要因としては「きらら397」の作付けの拡大により、この品種を侵害するいもち菌のレ−ス(037菌)が従来存在していた033菌に置き換わって優占してきたことが挙げられる。さらに、037菌の中にPi-iを有する品種に対して強力な病原力を有する変異菌系が出現した可能性も否定出来ない。菌系の変動に対して安定とされる圃場抵抗性の検定のためには常に崩壊の可能性のある真性抵抗性の影響を除く必要がある。本試験は、レ−スの変動および新たな菌系の出現に対応し、真性抵抗性遺伝子の影響を除いた圃場抵抗性の検定を可能にするため、真性抵抗性遺伝子型別の葉いもち圃場抵抗性基準品種を策定することを目的として行われた。

2.方 法
1)供試材料:北海道品種27品種、道外基準品種18品種 
2)検定方法:畑晩播法
3)接種方法:北農試は037菌(研60-19)の接種によって作成した接種源および前年の罹病藁の散布の併用、中央農試は037菌の噴霧接種および前年の罹病藁散布の併用、上川農試および道南農試は前 年の罹病藁散布により行った。
4)調査および評価方法:罹病程度の調査は浅賀らの方法(0〜10の11段階)によった。北農試、中央農試、道南農試は基準品種としての「北海112号」、上川農試は「農林20号」の罹病程度を100とした発病指数を基に判定した。圃場抵抗性の判定は各真性抵抗性遺伝子型グル−プごとに道外の圃場抵抗性基準品種と北海道品種の発病指数を比較することにより行った。グル−プ分けは問題となるPi-iを有する品種群と有しない品種群に分け、前者については道外のPi-iを有する基準品種との比較によって判定した。後者については日本在来の遺伝子であるPi-aよりも外来の遺伝子であるPi -kについて重きを置いて判定した。試験の反復ごとに比較による判定を行い、その判定を基本として各品種の圃場抵抗性の判定を行った。試験地ごとに年次ごとの総合判定をまとめ、各試験地の総合判定を基にして最終判定を行った。 

3.結果の概要
平成8年から平成10年の3カ年に渡る連絡試験の結果を表1に示した。北農試において平成5年より道外基準品種の北海道での適用性を検討してきたが、各真性抵抗性遺伝子群とも北農試での検定結果と従来の強弱の序列に大きな矛盾は生じなかった。しかし、強の基準である「ヤマビコ」と「タツミモチ」は各強弱の序列において発病程度が強としてはやや大きく、やや強の基準として判定に用いるのが適当と判断した。北海道品種の抵抗性はPi-aおよびPi-kのグル−プについては従来の評価に対して、半ランクほど最終判定が上下する程度であったが、Pi-iのグル−プにおいては従来、やや強および中とされていた品種がやや弱および弱に判定される場合がほとんどであった。真性抵抗性遺伝子型別の北海道における基準品種を策定し表2に示した。基準品種は現在普及されている品種を中心に選定した。Pi-kの系統および品種の評価は、北農試における成績や東北地域および愛知農試での評価法を参考にしてPi-aの基準品種群で対応しうると判断した。

4.成果の活用面と留意点
1)本試験で策定した真性抵抗性遺伝子型別基準品種を圃場抵抗性の検定に利用する。
2)本試験で再評価された「きらら397」、「ほしのゆめ」等普及品種の圃場抵抗性を防除対策上の参考に供する。

5.残された問題とその対応
  1) 穂いもち圃場抵抗性検定についても基準品種の策定が急がれる。
  2)Pi-kPi-a群の中レベル、Pi-kPi-a,k群の強レベル等基準品種が欠けている部分については、この判定基準に適応する新品種が育成された時点で基準品種群に順次組み入れる必要がある。

表1.葉いもち圃場抵抗性検定連絡試験結果(平成8〜10年)
品種名 真性遺
伝子型
判定基準
および従
来の評価
北農試 中央農試 上川農試 道南農試 総平
最終
判定
発病
指数
平均
総合
判定
発病
指数
平均
総合
判定
発病
指数
平均
総合
判定
発病
指数
平均
総合
判定
黄金錦
ササミノリ
日本晴
農林29号
コシヒカリ
Pi-k
Pi-k
Pi-k
Pi-k




57.4
56.7
73.6
88.3
86.4
                 
たんねもち
はくちょうもち

しおかり
風の子もち
ゆきひかり
Pi-a
Pi-a
Pi-a
Pi-a
Pi-a
Pi-a
(や強)
(中)
(弱)
(中)
(中)
(中)
53.4
81.1
118.2
71.2
75.7
86.4

や弱
極弱

や弱
や弱
43.3
57.2
108.7
47.6
61.2
76.0

や強
極弱

や強
や弱
70.4
87.1
148.6
81.4
93.1
104.4

や強
極弱
や強
や強
72.9
85.4
108.4
85.8
84.6
92.2

や強
極弱
や強
や強
60.0
77.7
121.0
71.5
78.7
89.8

や強
極弱
や強
や弱
トヨニシキ
ヤマビコ
金南風
愛知旭
Pi-a
Pi-a
Pi-a
Pi-a

や強

50.5
69.9
69.2
101.3
  46.4*
69.9
71.1
91.4
  71.1*
83.0
106.4
131.2
  73.0*
84.2
95.3
98.7
  60.2
76.7
85.5
105.6
 
ハヤカゼ
新雪
かちほなみ
あきほ
ほのか224
しまひかり
はやこがね
はやまさり
きたいぶき
ゆきまる
空育125号
きらら397
ほしのゆめ
上育394号
Pi-a,i
Pi-a,i
Pi-a,i
Pi-a,i
Pi-a,i
Pi-a,i,k
Pi-i,k
Pi-a,i,k
Pi-a,i,k
Pi-i,k
Pi-a,i,k
Pi-i,k
Pi-a,i,k
Pi-a,i,k
(強)
(強)
(や強)
(や強)
(や強-中)
(や強)
(や強)
(や強)
(強)
(強)
(強)
(や強)
(中)
(強-や強)
54.0
70.0
97.5
84.7
77.2
80.0
98.0
93.4
83.2
75.1
74.7
86.6
91.5
98.0
や強


や弱

や弱


や弱


や弱

22.2
43.3
64.9
69.0
62.3
85.2
77.3
79.6
63.0
51.4
57.7
67.3
80.1
74.7



や弱


や弱


や強
や強
や弱

や弱
28.2
37.3
62.2
58.6
60.2
81.0
81.9
86.2
69.4
46.3
68.6
67.3
90.9
57.8





や弱
や弱
や弱
や弱

や弱
や弱

68.9*
73.3
85.3
88.9
77.9
91.4
95.0
98.3
86.2
75.0
87.3
90.2
95.1
92.0

や強
や弱
や弱




や弱
や強
や弱
や弱

や弱
43.3
56.0
77.5
75.3
69.4
84.4
88.1
89.4
75.5
62.0
72.1
77.8
89.4
80.6

や強
や弱
や弱

や弱


や弱
や強

や弱

や弱
トドロキワセ
サチイズミ
ヨネシロ
奥羽341号
たかねみのり
藤坂5号
あさあけ
イナバワセ
Pi-i
Pi-a,i
Pi-i
Pi-i
Pi-i
Pi-i
Pi-a,i
Pi-i


や強
や強
や強

や弱
47.9
62.5*
72.1
54.4
62.6
62.4
92.3
98.9
  44.5
31.6*
57.5
38.4
45.2
61.4
74.6
84.2
  47.3
41.1*
45.6
50.5
45.3
54.0
80.8
83.0
  68.7
68.7*
73.1
70.7
68.3
79.2
91.8
92.6
  50.6
51.0
62.1
53.5
55.3
64.2
84.9
89.7
 
キタアケ
イシカリ
ともゆたか
キタヒカリ
ユ−カラ
上育393号
マツマエ
Pi-a,k
Pi-a,k
Pi-a,k
Pi-a,k
Pi-a,k
Pi-a,k
Pi-k
(中)
(や強)
(中)
(中)
(弱)
(中)
(や強)
64.4
66.3
80.3
76.3
98.9
62.0
64.0
や強
や強



や強
や強
41.3
50.9
64.9
68.5
82.7
55.3
53.4

や強
や強
や強
や弱
や強
や強
55.1
78.9
92.4
105.7
144.3
80.3
73.3

や強
や強


や強
や強
63.6*
77.3
80.0
84.8
104.1
75.2
72.9*
や強
や強
や強
や強

や強
や強
56.1
68.3
79.4
83.8
107.5
68.2
65.9
や強
や強
や強


や強
や強
ヒメノモチ
タツミモチ
サカキモチ
ムツニシキ
マンゲツモチ
クサブエ
Pi-k
Pi-k
Pi-k
Pi-k
Pi-k
Pi-k

や強
や強
や強

31.5
65.0
66.2
44.3
85.3
120.5
  10.9*
60.4
52.5**
13.4**
79.6
106.4
  36.0*
80.2
76.7**
49.9**
108.5
153.0
  31.6*
74.0
79.3**
41.8**
95.0
109.3
  27.5
69.9
68.7
37.4
92.1
122.3
 
 *は平成9年および10年2カ年の平均値。**は平成10年の成績のみ。( )は従来の評価を示した。

表2.葉いもち圃場抵抗性検定基準品種(案)
   
真性遺伝子型
グル−プ
品種名 判定
基準
真性遺伝子型
グル−プ
品種名判定
基準
真性遺伝子型
グル−プ
品種名 判定
基準
ks,aたんねもち
はくちょうもち
風の子もち
ゆきひかり

や強
や強
や弱
極弱
i,ai ハヤカゼ
ほのか224
あきほ


や弱
k,ak キタアケ
上育393号
マツマエ
キタヒカリ
ユ−カラ
や強
や強
や強

ik,aik ゆきまる
空育125号
きたいぶき
きらら397
ほしのゆめ
や強

や弱
や弱