成績概要書                     (作成 平成11年 1月)
課題の分類 総合農業 作物生産 稲
        北海道 作物 稲作 育種
研究課題名:水稲の開花期耐冷性検定法の確立
          (耐冷性向上生産技術早期開発事業 1.水稲の冷害対策研究 1)耐冷性品種の開発)
予算区分:道費
担当研究室:上川農試 研究部 水稲育種科
研究実施年度・研究期間:平成 6〜10年
協力・分担関係:  

1.目的
 水稲の開花期耐冷性検定に必要な冷温処理条件を明らかにするとともに、簡便で、多数の品種、
系統を扱える育種に利用可能な検定法を確立し、育成系統の評価に適用する。
 

2.試験方法
1)検定条件について
  試験年次:1996〜1998年の3ヶ年
  供試品種:長稈穂重型の「赤毛」「はやゆき」や短稈穂数型の「きらら397」他6〜14品種
  材料養成:縦15×横5×高さ10cmのポットを用い、主稈8本/ポット。肥料は窒素成分で0.13、
       0.19g/ポット施用。播種は5月6〜17日。処理前にはガラス室、人工気象箱で保温
  冷温処理:50%遮光幕付人工気象室で15℃8日間の短期処理と17.5℃15日間の中期処理
  処理開始日:出穂日を0とし1日毎に短期処理は0〜6日(1996年)と0〜3日(1997年)、
        中期処理は0〜1日(1997年)と−1〜2日(1998年)
  処理ポット数:3〜6ポットとし、調査穂数は6穂以上
  調査:穂毎に出穂日の札付け、触手で不稔調査を行い、出穂日からの日数で稔実歩合を整理
  普通株植区:1998年に8品種を1/5000aポットに2株2本植。肥料は窒素成分量0.44g/ポットと
     した。処理区、無処理区各4、2ポット。各ポットの出穂最盛日に中期冷温処理を行った。
2)検定に必要な標本数の決定について 
  1998年の8品種の中期冷温出穂日処理データにより検定に必要な調査穂数を算出した。
3)遺伝資源の評価と検定基準品種の選定について 
  1998年に北海道の新旧品種、耐冷系統を主とする96品種、系統を供試し中期冷温出穂日処
  理による検定を行った。供試ポット数は処理区、無処理区それぞれ3、2ポット
 

3.成果の要約
1)人工気象室を利用した簡便で精度の高い開花期耐冷性検定法を新たに考案した。
2)冷温処理の条件は、出穂日より17.5℃15日間の連続処理とし、出穂日が処理開始日となる
  穂の稔実歩合で開花期耐冷性を判定することから、この方法を中期冷温出穂日処理とした。
3)本法は従来の15℃8日間の短期処理に比べ、出穂以降に処理した穂では稔実歩合が最低とな
  る日が各品種とも処理開始日であり、調査に必要な穂数が少なく、省力的であった(図1)。
4)稔実歩合の年次による変動は少なく、年次間の相関もr=0.912**(n=9)と極めて高く、既往
  の刈屋の12℃6日間処理結果とも高い正の相関関係が認められた(r=0.880**、n=13、図2)。
5)材料の養成方法は、縦15×横5×高さ10cmの小型ポットを用いた直播による土耕栽培とし、
  供試個体数はポット当たり8個体(分げつを切除し主稈のみを残す)とした。
6)本法の養成稲体はかなり小型となったが、一般の圃場栽培に類似する1/5000aポット栽培での
  開花期耐冷性と高い相関を示した(r=0.922**、n=8)。
7)稔実歩合で15%の差を5%水準で有意と判定するための必要最低標本数は、得られた誤差分
  散から約9穂と推定され、1品種当たり3ポット(24個体)供試すれば十分であった。
8)これまで未調査のものを含む96品種、系統の開花期耐冷性を検定し、極弱から極強まで7段
  階に判定した。極強と判定された2系統(「永系88223」、「北育糯87号」)は穂ばらみ期耐冷
  性も極強であり、育種母本として有用と思われた(表1)。
9)開花期と穂ばらみ期耐冷性の間に0.508**(n=85)の正の相関が認められたが、その程度は密
  接でなく(図3)、穂ばらみ期耐冷性とは独立した開花期耐冷性検定の重要性が再確認された。
10)従来の開花期耐冷性検定にあたっては必ずしも基準品種が明確ではなかったが、今回、以上
  の試験成績に基づいて暫定的な12の基準品種を選定し、当面の試案とした(表2)。  

4.成果の活用面と留意事項
1)本検定法は奨励品種の開花期耐冷性の評価に活用する。
2)品種育成において、生産力本試験以降の開花期耐冷性選抜に利用する。
 

5.残された問題点とその対応
1)開花期耐冷性の構成要素となる冷温下の開花受粉能力、花粉発芽能力の検定。
2)外国品種、府県品種などの多様な遺伝資源の評価と遺伝様式の解明。
3)さらに簡便な開花期耐冷性検定法の開発。