成績概要書(作成:平成11年1月)
課題の分類:北海道 基盤研究
研究課題名:黄橙肉色ばれいしょ新系統「島系575号」の食品化学成分の特徴 
      (ばれいしょ塊茎中のカロチノイドの特性解明) 
予算区分:大型別枠「新需要創出」
担当研究室:北海道農試・地域基盤・品質生理研
担当者:石井現相
研究期間:平成6〜9年度
協力・分担関係:畑作センタ−・ばれいしょ育種研

1.目  的
 ばれいしょは緑黄色野菜ではないが、南米の2倍体栽培種の中には肉色が黄橙色でカロチノイドを含むものがある。その流れをくむ「島系 575号」は休眠性が浅く、小粒で収量が低いという欠点はあるものの、食品の機能性などの特徴に期待されている新系統である。そこで、本課題ではカロチノイド含量・種類・組成及び調理・加工適性、活性酸素消去機能などの食品化学的性質について解明する。

2.方  法
 黄橙肉色の2倍体品種「島系 575号」は、ばれいしょ育種研究室が芽室圃場で9月上旬に収穫したものを、比較対照品種として「男爵薯」と「キタアカリ」は当場園芸センタ−圃場で8月下旬収穫した塊茎を供試した。分析前まで室温〜約5℃で貯蔵した。
 1)酵素活性:各品種の5塊茎を選びストロンと頂芽を軸として2cm幅にスライス、輪切り円柱片を作成した。コルクボ−ラまたは包丁で同心円上の4部位から試料10gを採り、20 mlの5mMアスコルビン酸と1gのPolyclarATを含む50mM NaPi緩衝液(pH6.8)に入れ、氷冷して摩砕、遠心分離後、90%飽和硫安沈澱を同緩衝液で希釈して粗酵素とした。ポリフェノ−ルオキシダ−ゼ活性は5mM catecholと1mMのtyrosineを基質とした。パ−オキシダ−ゼ活性は100mM Guaiacolと0.1%過酸化水素の存在下で分光光度計で生成物の吸光度上昇速度を測定した。
 2)活性酸素消去活性:化学発光検出器(CL−110I、東北電子製)を用いてYoshiki&Okubo(1995)の方法(アセトアルデヒドとFenton反応(1.5%過酸化水素とFeCl)による・OHの存在下での300-650nmの発光量)に準じて、塊茎の水可溶性タンパク質の化学発光強度を測定した。また島系575号からMeOH抽出したカロチノイドのtert-BuOOH由来の活性酸素に対する影響は化学発光強度パタ−ン(ルミノ−ル法)を測定して無添加と比較した。

3.成果の概要
 1)塊茎中に含まれるカロチノイド組成はβカロチンが1%以下で、約40%がゼアキサンチン(zeaxanthin)である(図1)。カロチノイド含量は市販「キタアカリ」品種の約7倍(zeaxanthin換算、530〜741μg/100gFW)である。
 2)本色素の活性酸素消去能は化学発光法(図2)で検出され、また同量のβカロチンよりもリノ−ル酸メチルの過酸化物生成を抑制する能力が高く、活性酸素消去能に優れる。
 3)「島系575号」は蛋白質含量が「男爵いも」よりも多く、その水可溶性蛋白質に活性酸素種の *OH(ヒドロキシルラジカル)消去能が高い(図3)。特に皮層部で高く、また同量の牛血清アルブミンよりもその蛋白質含量あたり消去能が高い。
 4)「島系575号」は切断後の褐変が「男爵いも」より抑制される。これは塊茎中心の髄部で顕著で、ポリフェノ−ル酸化酵素活性(デ−タ略)と基質のチロシン含量が共に低い。またクエン酸は「男爵いも」よりも多く、還元糖グルコ−スは少ない(表1)。
 5)低温(2〜3 ℃)貯蔵中に還元糖が増加せず、シュクロ−スが増加する性質がある。この抽出色素の紫外線耐性は弱く、ブタノ−ル中の耐熱性は比較的高い。


図1 島系575に含まれるカロチノイド組成のHPLCパタ−ン
 注)450nm検出,Zorbax ODSカラム,40℃,0.8ml/min溶離液(アセトニトリル:塩化メチレン:メタノール,7:2:1)


図2 島系575のカロチノイドによるtert-Butyl hydroperoxide由来の活性酸素消去能
注)化学発光強度が低いほど活性酸素消去能が高いことを示す(ルミノ−ル発光法)

化学発光強度 (総光子数/10μL)

「島系575号」(左)              「男爵いも」(右)
図3.塊茎蛋白質の活性酸素ヒドロキシルラジカル(*OH)消去能
注)ピ−クとその面積が大きいほど*OH消去能が高いことを示す(Yoshiki&Okubo,1995の方法)

表1.切断後の変色とそれに関与する化学成分の品種間比較(各5塊茎)
品種 色素含量
Zeaxanthin
切断直後の色調 切断3hr
後色差
チロ
シン
クロロ
ゲン酸
mg/100gFW
クエ
ン酸
リン
ゴ酸
蛋白質
SucGlcFru
μg/100gFWL*a*b*ΔΕ*abmg/100gFW
SH575530-74171.89-1.0654.862.601.7449.32491518936291960
男爵薯---77.98-3.1115.938.243.7139.420329231236 681670
 注)L*a*b*は 明度、赤色度、黄色度;ΔΕ*abは色調の変化の程度を示す。

4.成果の活用点と留意点
 食品としての機能性成分を多く含む新形質を持ったばれいしょ成分育種に寄与できる。本系統は低休眠及び小粒という特徴を生かした用途開発を行う必要がある。

 1)ポテト塊茎蛋白質の極微弱発光 平成10年8月 日本食品科学工学会、第45回講要
 2)Food chemical properties of a new potato with orange flesh 平成11年2月
   In Agri-Food Quality Ⅱ,Ed.by M.Hagg et al,The Royal Society of Chemistry,UK

5.残された問題点とその対応
 低温貯蔵中のシュクロ−ス増加生理機構は新需要創出プロジェクト第3期において検討される。