成績概要書(作成 平成11年1月)

課題の分類
研究課題名:DNAマーカーを用いた大豆耐病性遺伝子の解析
予算区分:国費受託
担当科:中央農試 畑作部 畑作第一科
            生物工学部 遺伝子工学科
研究期間:平成6〜10年度
協力・分担関係:生物研、STAFF、千葉大

1. 目 的

 ダイズわい化病抵抗性に関するDNAマーカーを開発することにより、大豆のDNAマーカー選抜法の確立を目指す。

2. 方 法

供試材料:わい化病抵抗性の異なる両親間の分離集団2組合せ、「中交0505(「ツルコガネ(強)」×「トヨムスメ(弱)」)」および「中交0506(「ツルコガネ(強)」×「トヨコマチ(弱)」)」。

わい化病抵抗性検定:伊達市に設置した現地選抜圃場に個体または系統で栽植し、自然感染による発病度等を調査した。

DNAマーカーの探索:F2集団、2組合せを対象にRAPD分析を行い、F3系統で実施した抵抗性検定結果から、抵抗性に有意なマーカーを選抜した。

DNAマーカーの評価:F5種子、1組合せ(中交0505)351粒を播種前にRAPDマーカーにより遺伝子型を検定し、その後伊達市の現地選抜圃場に播種して評価した。

連鎖地図の作成とインターバルマッピング:F6系統、1組合せ(中交0505)を対象にRFLP解析を行い、連鎖分析にはMAPMAKER/EXP3.0を、インターバルマッピングにはMap Manager QTb24を使用した。また、RFLP解析用に生物研よりPublic Soybean Probesの提供を受け、連鎖地図の作成には千葉大学の協力を得た。

3. 結果の概要

1) 検定の結果、わい化病の発病度は量的形質(QTL)であることが示唆された。また、RAPD分析より連鎖群G2の3つのマーカーが、わい化病の発病度について有意となり、この領域に発病度に関するQTLが存在するものと思われた。

2) 得られたRAPDマーカーにより、播種前にF5種子の遺伝子型決定を行った。その結果、OPJ06について「ツルコガネ」型は「トヨムスメ」型に対して発病程度がやや低い傾向にあったが、このマーカーによる抵抗性の選抜は困難と判断された。

3) 以上の結果から、G2領域に関する連鎖地図を作製し、インターバルマッピングを行うこととした。千葉大学の協力により、G2領域はUSDAの連鎖群Gに相当することが明らかとなった。

4) F6系統について、連鎖群Gに関するプローブを用いたRFLP解析の結果、全長72.6cMに10個のマーカーが座乗する地図が作製できた。わい化病の発病度に関するインターバルマッピングを試みたところ、RFLPマーカーA073の付近に小さなQTLが1つ、A112の上方にさらに大きなQTLの存在が示唆された。この2つのマーカーを組み合わせてF6系統を群別した結果、発病度の分離はやや大きくなったが、連鎖群GのA112より上方の解析が進み、より効果の大きなマーカーが得られれば、発病度の分離が明瞭となることが期待される。


  図1. F3世代の発病度

 表1. わい化病発病度の有意差検定(t値)

マーカー

中交0505

中交0506

OPD10

OPE01

OPJ06

3.168**

2.600*

3.168**

3.799**

3.864**

1.906

 注)マーカーの有無により群別し、平均値の差を検定した。
RAPDマーカーは完全優性のため、ヘテロが区別できない。


  図2. F5世代の発病度

 


  図3. F6世代の発病度

 


  図4 インターバルマッピング

4. 成果の活用面と留意点

 1)DNAマーカーを用いると量的形質(QTL)の解析が可能となる。マーカー解析(RFLP、RAPD)に必要なプロトコルを提示したので他の作物、形質に適用できる。
 2)供試材料は組換え自殖系統(RILs)として養成中であり、わい化病の他に伸育型や線虫抵抗性等の解析に利用できる。
 3)得られた成果をわい化病抵抗性の選抜に適用するには、連鎖群Gの未解明領域の解析が必要である。

 

5. 残された問題点とその対応

 1)連鎖群Gの上方領域の解析と、QTLの存在領域の特定。
 2)QTLに隣接したDNAマーカーの開発とそのSTS化。
 3)他の特性に連鎖するマーカーの解明。