成績概要書(作成  平成11年1月)

研究課題名:大豆における開花期低温抵抗性の機作と検定条件および間接選抜指標
       (豆類(大豆、小豆)の耐冷性向上試験 (1)大豆の着莢障害抵抗性品種の開発)
予算区分: 道費
担当科:十勝農試 研究部 豆類第一科
研究期間: 平6〜10年度
協力・分担関係:

  1. 目的
  2. 1993年の冷害年に着莢障害が軽微であった品種・系統の低温下での開花、着莢反応を調査するとともに、既存品種をしのぐ開花期低温抵抗性品種を開発するために検定条件を再検討し、また、間接選抜による同抵抗性強化の効率化、さらに開花期低温抵抗性機作の解明を行い、耐冷性育種の促進を図る。

  3. 方法

供試材料(試験①、②、④):「トヨムスメ」(開花期低温抵抗性中)、「キタムスメ」、「ハヤヒカリ」(同抵抗性強)

  1. 1993年に着莢障害が軽微な品種・系統の開花、着莢反応
  2. 処理:開花始から28日間18/13℃(昼/夜)の低温処理+50%遮光、処理期間以外は屋外で栽培。

  3. 開花期低温抵抗性の検定条件
  4. 処理方法:下記の通り。無処理区及び処理区の処理期間以外は屋外で栽培。

    処理
    区別
    処理条件

    開花始      −         14日

    − 28日

    18/13℃(昼/夜)+遮光(50%) 屋外
    15/15℃(昼/夜)+遮光(50%) 屋外
    18/13℃(昼/夜)+遮光(50%) 18/13℃(昼/夜)+遮光(50%)
    15/15℃(昼/夜)+遮光(50%) 18/13℃(昼/夜)+遮光(50%)

  5. 開花期低温抵抗性に関する間接選抜
  6. 供試組合せ:十交0409(「奥原1号」×「十系809号」)

    選抜指標:開花期の早晩性。選抜経過は下記の通り

    世代 F2 F3 F4 F5 F
    選抜

    無選抜

    無選抜

    開花期の早、並、晩

    開花期の早、並、晩

    低温処理(開花始〜28日間18/13℃(昼/夜))+50%遮光

    選抜数

    100個体

    100個体

    各15個体

    各4個体

    各4系統を供試

     注)F4とF5でトヨムスメに比べて開花がそれぞれ3日以上早い個体、並の個体、3日以上遅い個体を選抜

  7. 開花期低温抵抗性の機作

低温下(昼夜とも15℃)での受精率を調査。

    3.結果の概要

    1. 1993年に着莢障害が軽微な品種・系統の開花、着莢反応
    2. 「ハヤヒカリ」は1993年の開花前および開花期の低温においても着莢障害か小さかったが、本試験でも低温下での着莢率が高く、着莢数が多かった(図1)。

    3. 開花期低温抵抗性の検定条件
    4. 処理DとEでは、抵抗性を異にする品種間の差が明瞭であるとともに、抵抗性強の品種においても着莢障害が認められ、抵抗性強化のための新たな検定条件として効果的であることが示された(表1)。

    5. 開花期低温抵抗性に関する間接選抜
    6. 開花が遅い個体を選抜した系統群は、低温処理試験における莢数の無処理区対比が高く、開花期の早晩性による選抜が低温抵抗性の間接選抜として有効であることが示唆された(表2)。

    7. 開花期低温抵抗性の機作

    低温下での受精率の差異が、開花期低温抵抗性の強弱の評価と一致し、低温下での受精能力が開花期低温抵抗性機作の一因であると考えられた(表3)。

     




          図1.低温処理に伴う開花期間中の開花数、着英数(個体)および着英率の推移
              たて軸 (左)開花・着英数(右)着英率%
              よこ軸 開花始後日数

      

    表1.各検定条件における処理効果(無処理区対比、%)
    形質 莢数 一莢内 粒数 百粒 重 子実 重
    処理区別

    トヨムスメ

    92 77 41 34 81 75 65 64 92 87 59 59 69 53 16 14

    キタムスメ

    97 99 81 70 84 79 81 74 94 99 83 83 79 78 54 44

    ハヤヒカリ

    108 111 82 74 83 78 80 73 100 104 100 97 90 89 65 52

    1. 処理A、B:1996,1997年の2カ年平均、処理D、E:1996〜1998年の3カ年平均。

    2. 無処理区対比:処理区の値/無処理区の値×100

    表2.開花期の早晩性で選抜した系統群の低温処理試験成績(4系統平均)
    組合せ 選抜群 処理
    区別
    開花始
    (月日)
    成熟期
    (月日)
    主茎
    節数
    莢数 一莢内
    粒数
    百粒重
    (g)
    子実重
    (g)
    十交0409 6.17

    9.09

    8.7

    6.2

    1.04

    20.3

    1.3

    8.17

    9.2

    11.6

    1.37

    29.0

    4.5

    T/C

    24

    95

    52

    80

    70

    28

    M 6.21

    9.15

    9.6

    13.5

    1.36

    30.7

    5.6

    9.01

    10.7

    15.3

    1.75

    37.3

    10.0

    T/C

    14

    90

    88

    78

    83

    58

    L 6.29

    9.30

    11.4

    16.7

    1.11

    37.0

    6.7

    9.27

    12.2

    17.2

    1.58

    38.7

    10.3

    T/C

    3

    94

    97

    70

    97

    65

    トヨムスメ 比較 6.20

    9.22

    9.1

    7.3

    1.34

    30.8

    3.1

    -

    9.08

    9.2

    19.0

    1.82

    35.5

    12.2

    T/C -

    14

    99

    38

    73

    87

    25

    トヨムスメ 比較 6.22

    9.22

    10.8

    17.4

    1.34

    31.1

    7.3

    -

    9.05

    10.6

    19.9

    1.84

    28.6

    10.5

    T/C -

    17

    102

    87

    73

    109

    69

    注1)トヨムスメに比べ B:開花が3日以上早い個体、M:並の個体、L:3日以上遅い個体の選抜後代
    注2) Tは処理区、Cは無処理区、T/CはCに対するTの比率または遅延日数(成熟期)

    表3.低温処理が受精率に与える影響

    処理温度 処理日数 トヨムスメ キタムスメ ハヤヒカリ

    開花前

    開花後

    調査

    花数
    受精

    花数
    受精率
    (%)
    調査

    花数
    受精

    花数
    受精率
    (%)
    調査

    花数
    受精

    花数
    受精率
    (%)

    15℃

    2

    7

    61 50 82 27 25 93 63 54 86

    4

    7

    25 17 68 24 21 88 60 54 90

    6

    7

    28 7 25 21 10 48 28 18 64

    8

    7

    34 3 9 28 12 43 28 16 57
    無処理 42 40 95 39 31 79 38 37 97

    1. 成果の活用面と留意点

    1. 新たな検定条件を用いて開花期低温抵抗性検定を行う。
    2. 開花期低温抵抗性検定では、遮光処理を併用する。
    3. 間接選抜指標を耐冷性育種に導入する。

    1. 残された問題とその対応

    新たな耐冷性母材の探索と開花期低温抵抗性系統の早期育成。