成績概要書 (作成:平成11年1月)
課題の分類 研究課題名:春まき小麦の初冬播栽培 —雪上播種、ムギキモグリバエ防除、窒素施肥と品質、品種間差— (道産小麦の品質向上試験(パートⅢ) 3.栽培法改善による品質向上と安定多収 (3)春播小麦初冬播栽培の現地実証) 予算区分:受託 研究期間:平7〜9年度 担当科:中央農試 畑作部 畑作第二科 中央農試 農業機械部 機械科 上川農試 研究部 畑作科 協力・分担関係:なし |
1.目 的
実際栽培が先行している春まき小麦の初冬播栽培に対して、雪上播種およびムギキモグリバエ防除に関する新知見、ならびに前課題での積み残し分であった品質および品種間差に関する知見を取りまとめ、初冬播栽培の既導入者への当面の参考に供する。
2.方 法
試 験 名 | 内 容 | 中央農試 | 上川農試 | ||||
平7 | 平8 | 平9 | 平7 | 平8 | 平9 | ||
雪上播種法 |
ブロードキャスタ等の使用を 想定した雪上散播について、 播種床形状、播種期、品種間差、 窒素施肥法を検討する。 |
− | − | ○ | ○ | ○ | ○ |
ムギキモグリバエ に対する反応 |
初冬播栽培におけるムギキ モグリバエ防除の有無を検討する。 |
− | − | − | − | ○ | ○ |
窒素施肥の品質に 与える影響と品種間差 |
窒素施肥(特に窒素の後期施肥) の品質に与える影響と、収量等 の品種間差を検討する。 |
○ | ○ | ○ | (○) | (○) | (○) |
3.結果の概要
1)初冬播栽培に関する新たな知見
(1)雪上播種の成立条件
ブロードキャスタ等で雪上に散播する「雪上播種」の播種適期は11月下旬〜12月上旬で、この範囲内では早いほど多収であった。これより早い播種では積雪の不安定による乾燥害、同じく遅い播種では発芽の遅延と活着前の種子の死滅などにより、それぞれ生存個体率が低下し収量減につながった(図1)。試験の範囲では、適期播種の場合50cm程度の積雪深まで適用可能であった。播種床形状の差異による収量の差は認められなかった。窒素施肥法は倒伏の軽減を考慮すると融雪直後にN7kg/10a、出穂期にN6kg/10aが適当であった(表1)。保水力に乏しい土壌では融雪後の乾燥害等により生存個体率が劣った。現地での適応性については今後確認を要する。
(2)防除体系(ムギキモグリバエ防除について)
春播栽培ではムギキモグリバエの発生が軽微でも主茎が被害を受けるので減収が大きいのに対し、初冬播栽培では、生育ステージの前進化により主茎の被害が少なく、減収は認められなかった(表2)。以上により、初冬播栽培ではムギキモグリバエの防除は不要である。
2)残されていた問題点に関する知見
(1)窒素後期施肥の品質に与える影響
春播栽培と同等の窒素施肥量では蛋白含有率が低くなりやすい初冬播栽培では、窒素の後期施肥(止葉期〜出穂期)により蛋白含有率の向上とグルテンの質の強化が両立でき、春播栽培並の品質が確保できるものと推察された(図2)。ただし、過剰な施肥は倒伏を助長し、また蛋白組成のバランスを崩す可能性がある。
(2)「春のあけぼの」の初冬播適応性
春のあけぼの」において初冬播栽培と春播栽培とを比較すると、成熟期の前進や多収の面で「ハルユタカ」と同様の効果が認められた。
なお、初冬播栽培においても、春播栽培同様の品種間差が認められ、「春のあけぼの」は、窒素施肥の蛋白向上に対する効果が鈍い、「ハルユタカ」より収量が低い年次がある(図3)等が確認された。また、越冬直後の一時期に葉が白くなる事例や、雪上播種において成熟期の前進効果が鈍い事例がみられた。
図1.雪上播種における播種期と越冬後生存個体数および子実重との関係(上川農試)
表1.雪上播種における窒素施肥法(上川農試、3か年平均)
窒素施肥 融雪-止葉-出穂 |
子実重 (kg/10a) |
倒伏 |
原粒蛋白 (%) |
7-0-0 7-6-0 7-0-6 |
449 507 488 |
無 無〜中 無〜微 |
10.5 12.4 12.7 |
10-0-0 10-6-0 10-0-6 |
488 509 (517) |
無〜微 無〜多 無〜中 |
10.9 12.6 12.7 |
春播栽培(対照) | 373 | 無 | 11.8 |
図2.粉蛋白含有率とパン体積との関係(中央農試)
表2.ムギキモグリバエ無防除における虫害、生育および収量調査(平成8年、上川農試)
播種期 | 卵数(個/㎡) | 被害茎数(本/㎡) |
穂数 (本 /㎡) |
出穂 期 (月日) |
子実重 (kg /10a) |
同左 比 (%) |
子実重 歩合 (%) |
品質 (検査 等級) |
|||||||||||
6月 | 7月 | 6月 | 7月 | 7月8日 | 3 | 11 | 17 | 24 | 1 | 8 | 11 | 17 | 24 | 1 | 主茎 | 分げつ | 白穂 | ||
初冬播 春 播 |
0 | 0 | 1 | 12 | 9 | 13 | 0 | 1.0 | 6.1 | 8.1 | 0.3 | 1.9 | 0.6 | 606 | 6.18 | 434 | 179 | 40.2 | 1 |
0 | 0 | 1 | 51 | 142 | 137 | 0 | 4.5 | 9.8 | 12.0 | 1.1 | 7.7 | 1.0 | 386 | 6.27 | 243 | 100 | 30.6 | 外 | |
分散分析 | - | - | ns | ns | * | * | - | ns | ** | * | ** | * | ns | * | - | ** | - | * | - |
図3.「ハルユタカ」多収年の窒素施肥法試験における
子実重の品種間差(中央農試、平成9年)
4.成果の活用面と留意点
1)当面の間、春まき小麦の初冬播栽培を何らかの方法で既に導入している者への参考とする。
2)雪上播種は主に上川農試場内(褐色低地土)での成績である。なお、保水力に乏しい土壌では融雪後の乾燥で必要な個体数を確保できないため行なわない。
3)過剰な窒素施肥は成熟期の遅延、倒伏の助長および品質低下の要因となる。
5.残された問題点とその対応
1)早播可能な出芽抑制剤の探索:資材試験等で対応
2)雪上播種、チゼル耕播種等、各種播種法の現地適応性:農水省補助事業等で一部対応