成績概要書               (作成 平成11年1月)
研究課題名:いちご「きたえくぼ」における収量、品質の向上対策と輸送性
       (イチゴ「きたえくぼ」の道外移出向け栽培法確立試験)
予算区分:道 単
担 当:道南農試 研究部 園芸科
研究期間:平成6年〜10年
協力・分担関係:な し  

1.目  的
 「きたえくぼ」の定植適期に良好な苗を生産するための仮植条件や花房数の制御、小果化対策を検討するとともに、着色改善や日持ち性、輸送性について調査する。

2.方  法
 1)花房数制御技術と小果化対策
 (1)採苗時期と採苗時の葉数(平成10年)
    採苗時期(7月16日、7月25日)×採苗時の葉数(2、3、4葉)
 (2)花房数確保のための秋保温法(平成7、8、9、10年収穫)
    平成7、8年収穫:被覆方法(トンネル、べたがけ)×被覆期間
    平成9、10年収穫:定植時期×べたがけの有無
 (3)摘花、摘房による小果化対策(平成9、10年収穫)
    試験場所:道南農試、小樽市、遠別町
    遮光の有無×花数(花房数)調節
 2)エアーキャップシートと果房出しによる果皮色の改善(平成6、7、8年収穫)
    マルチ(黒、白黒ダブル)×エアーキャップシートの有無×果房出しの有無
    ただし、果房出しの処理は平成7、8年収穫のみ
 3)日持ち性及び輸送性(平成9年)
 (1)日持ち性
    品種(きたえくぼ、宝交早生)×温度(5、10、15℃)、道南農試産の果実を使用
 (2)輸送性
    出荷時着色歩合(7、8、9分)×予冷(通風予冷、5℃)の有無×容器(成型ウレタントレイ、いちごパック)、豊浦町産の果実を使用

3.結果の概要                                  
1)8月中旬に中苗を得るには、7月中旬に3葉苗前後のものを採苗、仮植する。また、8月下旬に中苗を得るには7月中旬に2葉前後の苗、または7月下旬に3葉程度の苗を採苗する。
2)定植時期が遅れると明らかに減収となり、秋保温によっても収量を回復することはできなかった。しかし、9月中旬以降の定植ではべたがけによる果房数の増加が大きく、定植が遅れた場合はべたがけやトンネルによる秋保温により果房数の増加に有効であった。しかし、べたがけは秋の低温年には効果が不十分な場合があった。
3)トンネル型の遮光によって収穫期が遅れ、収量や糖度が低下した。また、平均1果重は無処理と差がなかった。遮光により先白果がやや多く発生する場合があった。
4)摘花や摘房により減収となることが多かったが、平均1果重は重くなり、収穫果数の減少に比べ収量の減少は少なかった。また、糖度も無処理より高まる傾向にあった。
5)果房数と1果房当たりの果数には負の相関が認められる。「きたえくぼ」の最適花房数は5〜6本とされるが、この時の果数は回帰式より71〜74果である。そのため、摘房、摘花を行う目安は、1株当たりの花房数が7本以上、果数で80花以上の時と考えられ、その場合、花房数を5〜6本または花数を70花程度に整理する。
6)白黒ダブルマルチでは黒マルチに比べ、果皮の着色に及ぼす影響に差はなかったが、収穫が数日遅くなった。また、果房出しによって軽度の先白果や屑果、奇形果が減る傾向にあった。エアーキャップシートの使用による果皮の着色については淡色面が濃くなり、濃色面と淡色面の色差が小さくなった。
7)「きたえくぼ」の日持ち性は明らかに「宝交早生」より長く、5℃で約1週間であった。府県へ移出する場合、出荷時の着色が9分着色では硬度が低下し色の鮮やかさも減少するため、7分着色程度での出荷が良好と思われた。また、予冷をし、トレイを使用する方が色の鮮やかさや硬度が保たれ、着荷後の傷みも少なかった。


     図1 果房数と1果房当たりの果数の関係
        n=52、平成7、8、10年の「きたえくぼ」栽培
        試験のデータを用いた。

表1 仮植苗の生育
採苗
時期
採苗時
の葉数
8月17日 8月28日 9月10日
葉柄長
(㎝)
葉数 葉柄長
(㎝)
葉数 葉柄長
(㎝)
葉数
7月16日 2 6.8 3.7 8.5 5 10.6 6.2
3 9.3 4.7 10.7 6 12.5 7.3
4 10.3 5.5 11.1 6.8 13.2 8.6
7月25日 2 4.7 3 5.8 4 8.1 5.3
3 8.3 4 8.8 5.1 10.2 6.6
4 10.3 4.8 9.8 5.5 10.9 6.6

表2 秋保温による果房数、収量及び上物平均1果重
処理 被覆期限 平成7年収穫 平成8年収穫
果房数 上物収量
(㎏/a)
収量合計
(㎏/a)
上物1
果重(g)
果房数 上物収量
(㎏/a)
収量合計
(㎏/a)
上物1
果重(g)
べたがけ 10月下旬 5.2 222 577 13.4 4.4 241 377 10.7
11月下旬 5.7 247 440 12.7 4.6 190 306 10.3
トンネル 10月下旬 5.1 231 482 12.3 4.5 259 336 13.1
11月下旬 5.9 194 512 13.4 5.2 237 328 11.7
無処理 4.5 209 368 12.6 4.3 232 336 10.9
注)被覆期限の10月下旬は平成6年は9月27日〜10月31日、7年は9月
  20日〜10月20日、11月下旬は平成6年は9月20日〜11月30日、7年
  は9月20日〜12月1日の各期間、果房数は収穫終了時のもの  

表3 定植期ごとの秋のべたがけによる果房数と腋芽数
定植期 べたがけ 平成9年収穫
の腋芽数
平成10年収穫
の収穫終
12月2日 収穫終 果房数 腋芽数
9月3日 3.7 6.3
3.9 6.2
9月10日
前後*
3.1 5.8 4.4 3.3
2.9 5.6 4.5 3.9
9月19日 1.5 4.7 2.7 2.2
1.2 4.2 1.5 3.1
9月30日 2 1.6
0.9 2.9
*平成9年収穫は9日、10年収穫は11日

表4 遮光の有無と花数制限による影響(平成10年収穫)
遮光の
有無
花数
処理
収穫始
(月日)
上物
(㎏/a)
上物
収量率
(%)
先白
果数率
(%)
上物
1果重
(g)
糖度
(Brix)
酸度
(%)
30 5.11 141 70 13.5 12 10.8 1.09
40 5.12 137 66.1 10.7 10 11.4 1.19
無処理 5.11 151 51 2.7 9 11.1 1.06
30 5.7 129 69.3 7.1 10.1 14.9 1.47
40 5.11 141 65.1 5.9 9.8 12.7 1.17
無処理 5.11 168 53.7 1.6 9.1 11.3 1.02

表5 マルチ資材、エアーキャップシート、果房
   出しによる先白果数率と果皮の色むら
マルチ
資材
エアー
キャップ
シートの有無
果房出し
の有無
先白果率(%) 果皮の濃色面と
淡色面の色差
平成7年 平成8年 平成6年 平成7年 平成8年
9.1 1.4 6.9 10.4
11.4 2.2 10.1 5.9 6.8
10.9 0.6 8.1 8.9
16.1 1.5 11.8 6.6 10.8
白黒
ダブル
7.1 1 6.9 8.3
10.2 1.9 9.9 6 7.8
12.3 1.8 8.4 9.2
13.5 2.9 12.8 6.9 9.7

表6 日持ち性に及ぼす温度の影響
品種 温度
(℃)
収穫当日 収穫7日後 日持ち
日数
糖度
(%)
酸度
(%)
硬度
(g)
糖度
(%)
酸度
(%)
硬度
(g)
きたえくぼ 5 8.9 0.5 94 8.8 0.49 121.7 6.5
10   10.5 0.53 106.8 5
15   4
宝交早生 5 8.9 0.51 49.9 8.6 0.17 50.6 5
10   3
15   2.5
注)硬度測定には2mm径プランジャーを使用
   収穫日は6月2日及び6月9日
   宝交早生の5℃、収穫7日後は6月2日収穫のみの値
   きたえくぼの10℃、収穫7日後は6月9日収穫のみの値

表7 輸送後での果実品質
着色
歩合

容器 果皮色 果皮
硬度
(g)
果肉
硬度
(g)
L* a* b* C*
7 トレイ 43.1 33.7 26.7 43 231 284
パック 43.6 32 25.3 40.8 296 276
トレイ 40.1 36.1 25.1 44 229 227
パック 41.2 33.2 21.8 39.7 267 288
8 トレイ 40.8 33.7 23.3 40.9 266 336
パック
トレイ 38.1 36.4 21.8 42.4 238 226
パック 38.6 33.2 16.1 36.9 238 245
9 トレイ 38.6 35.4 21.1 41.2 230 268
パック 38.6 35.3 20.4 40.7 209 258
トレイ 35.9 37.2 20.3 42.3 203 226
パック 37.4 32.7 15.4 36.2 227 213

4.成果の活用面と留意点
1)トンネルによる秋保温では、9〜10月の好天時に高温障害の心配があるので、そのような場合は適切な換気が必要である。
2)果房出しを行う場合は、高温時の着色が早すぎることがある。

5.残された問題点とその対応
1)先白果の発生機作の解明
2)適正な灌水量と施肥量の設定