研究課題名 :紙マルチの特性と野菜(レタス、はくさい、だいこん)栽培における利用技術 (機能性紙マルチ利用による野菜栽培省力化技術の確立) 予算区分 :共同 担当科:上川農試研究部園芸科、十勝農試研究部園芸科 北陽製紙株式会社 試験期間 :平成8〜10年 協力・分担関係 |
1.目的
実用性の高い紙マルチを産地へ普及させるために、製品の開発および改良を北陽製紙(株)が、その製品の野菜に対する適応性の検討および農業特性の評価を道立農試が担当し、紙マルチを野菜栽培に利用するにあたっての栽培指針を策定する。
2.試験研究方法
1)供試した紙マルチの種類と特性
呼 称 | 商品№ | マルチ色 | 重量 | レタス・はくさい | だいこん |
標 準 軽 量 濃 黒 黒 白 |
1504 2504 1204 1604 1304 |
淡褐色 淡褐色 濃黒色 淡黒色 白色 |
115g/㎡ 80g/㎡ 115g/㎡ 115g/㎡ 115g/㎡ |
平成8〜10年全作期 平成8、9年全作期 平成8、9年低温作期 平成9、10年全作期 − |
平成8〜10年全作期 平成8年全作期 平成8年全作期、9年低温作期 平成9、10年全作期 平成8、9年高温作期 |
3.結果の概要
1) マルチ下の地温は、レタス、はくさい栽培ではグリーンマルチ>紙マルチ(黒)≧白黒ダブルマルチ>紙マルチ(標準)の順に高く推移し、だいこん栽培では透明マルチ>シルバーマルチ>紙マルチ(黒)=無マルチ>紙マルチ(標準)の順に高く推移した。また、通気性のある紙マルチは通気性のないポリマルチに比べて土壌水分は乾燥気味に経過し、ポリマルチと無マルチのちょうど中間の変動パターンを示した。
2) レタス: 5月中旬定植作期では生育は栽培期間を通してグリーンマルチ>紙マルチ(黒)>紙マルチ(標準)であったが、紙マルチ区はグリーマルチ区に比べ規格内個数が多く、規格内収量も多かった。6月上旬から6月中旬の定植作期では紙マルチ区の収穫時の生育は白黒ダブルマルチ区に比べやや劣る傾向であったが、一球重は500g以上を確保し、規格内率は白黒ダブルマルチ区とほぼ同等であった。
7月上旬から8月上旬以降の定植作期では紙マルチ区の初期生育は対照の白黒ダブルマルチ区とほぼ同等で紙マルチ資材間の差はほとんどなかった。また、紙マルチ区の収穫期、規格内収量とも白黒ダブルマルチ区とほぼ同程度あった。
3)はくさい: 紙マルチ区の初期生育は白黒ダブルマルチ区とほぼ同等であった。7月上旬から7月中旬定植作期では紙マルチ(黒)に比べ紙マルチ(標準)でやや初期生育が優ったが、そのほかの作期では紙マルチ資材間の差はほとんどなかった。
6月上旬から6月下旬定植作期では収穫期の全重は紙マルチ区でやや劣る場合がみられた。紙マルチ区の収穫期、規格内収量は白黒ダブルマルチ区とほぼ同等であった。
4) だいこん: 栽培期間中の低地温が根形不良の大きな原因となるだいこんの場合、紙マルチ(標準)ほどの地温抑制効果は必要なく、紙マルチが使用可能な期間はすべて紙マルチ(黒)を使用することが適当である。紙マルチ(黒)であれば、7月〜8月上旬までの播種期においてはシルバーマルチの代替が可能であった。
地温がシルバーマルチよりもやや低く推移する紙マルチ(黒)では、6月中旬〜下旬あるいは8月中旬以降の播種期において栽培期間中の気温あるいは地温が平年を下回る気象条件となった場合、シルバーマルチに比べて生育が遅延し、外観品質が低下することがあった。
紙マルチの場合、ポリマルチに比べてキスジノミハムシによる被害を受けやすいため、被害が予想される作期では薬剤による適正な防除が不可欠である。
表1 紙マルチの使用基準
作 期 | 適応紙マルチ | 栽培上の留意点 | 備 考 | |
レ タ ス |
5月中旬定植 (4月中旬〜4月 下旬播種) |
紙マルチ(黒) | 初期生育はグリーンマルチより劣 るので活着不良としない。 |
紙マルチ(標準) ・ (軽量) も利用できるが、収穫期が対 照グリーンマルチより遅れる。 |
6月上旬〜8月上 旬定植 (5月上旬から7月 中旬播種) |
紙マルチ(黒) 紙マルチ(標準) 紙マルチ(軽量) |
定植直前にマルチングする。定植 時乾燥している場合はかん水を十 分に行う。生育中後期の乾燥条件 で生育が白黒ダブルマルチより遅 れる可能性がある。 |
対照マルチは白黒ダブルマル チ。 |
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は く さ い |
6月上旬〜8月上旬 移植定植 (5月上旬から7月 中旬播種) |
紙マルチ(黒) 紙マルチ(標準) 紙マルチ(軽量) | 定植直前にマルチする。定植時乾 燥している場合はかん水を行う。 生育中後期の乾燥条件で生育が白 黒ダブルマルチより遅れる可能性がある。 | 対照マルチは白黒ダブルマルチ。 7月上旬〜7月下旬定植作期で は無着色タイプの適応性がや や高い。 |
だ い こ ん | 7月〜8月上旬播種 | 紙マルチ(黒) | モザイク病の発生やキスジノミハ ムシの食害が懸念される地域や作 期において紙マルチを使用する 際には、薬剤あるいは耕種的防除に よる対策が必要である。 |
対照マルチはシルバーマル チ。 |
表2.だいこんに対する各マルチ資材の実用性の総括
試験 年次 |
作期 |
栽培期間
(月.日) |
マ ル チ の 種 類 | 備 考 | |||
透明 | シルバー | 紙(黒) | 紙(標準) | ||||
8 年 |
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ |
5.13〜7.17 6.10〜 8.12 7.16〜 9.11 8.13〜10.14 |
◎ ◎ ◎ ◎ |
− − ◎ ◎ |
△ ◎ ◎ ◎ |
× ○ ◎ ◎ |
全般に低温 春まき品種使用、後半は高温 だいこんには適した気象条件 後半は高温・多日照 |
9 年 |
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ |
6.11〜 8.4 6.20〜 8.21 6.30〜 8.26 7.10〜 9.4 8.11〜10.20 8.20〜10.31 |
◎ □ − ◎ − ◎ |
− ◎ ◎ ◎ ◎ ○ |
○ ○ ◎ ◎ ○ ○ |
□ □ ○ ◎ ○ △ |
播種前が低温で、前半が地温不足 全般に高温・乾燥条件 前半は高温・多日照、後半は低温 だいこんには適した気象条件 全般に低温・低日照 全般に低温・低日照 |
10 年 |
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ |
6.9 〜 8.3 6.19〜 8.17 6.30〜 8.25 7.15〜 9.9 8.10〜10.13 8.21〜 11.2 |
◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ |
○ ○ ◎ ◎ ◎ ○ |
○ □ ◎ ◎ ◎ ○ |
△ △ ○ ◎ ○ ○ |
全般に低温 全般に低温 全般に低温だが、だいこんには「適」 だいこんには適した気象条件 後半は高温 全般に高温 |
4.成果の活用面と留意点
1) 紙マルチはレタスの夏秋どり、はくさい・だいこんの秋どり露地栽培に適応し、既存のマルチャでのマルチ ングが可能である。
2) 紙マルチをすき込んだ直後に播種する場合は、発芽障害・発根障害を回避するためにロータリなどで紙マル チを十分に破断することが必要である。
3) 穴あき紙マルチでは、開孔部の土壌が乾燥したり降雨により緻密になるなど天候の影響を大きく受けるので、 レタス・はくさいの定植直前にマルチングすることが望ましい。
4) 紙マルチにはポリマルチのような光沢がないため、アブラムシの回避効果がほとんどないと思われる。した がって、モザイク病の発生地帯で紙マルチを使用する際には、品種の選択やアブラムシの発生状況に留意する 必要がある。
5.残された問題点とその対応
1) 紙マルチに対応する移植精度の高い移植機の開発