成績概要書 (作成 平成11年1月20日)
課題の分類 根釧農試 研究課題名 フリーストール経営における飼養管理と経済性評価 (大規模土地利用型酪農における省力的群管理技術の開発) Ⅰ フリーストール牛舎作業の労働強度解明と搾乳作業の省力化 予算区分 国費補助(地域基幹) 担 当 根釧農試 研究部 酪農施設科 研究期間 平成6〜10年度 協力分担 群馬畜試、福岡総農試畜研、 大分畜試、宮崎畜試 |
1.目的
フリーストール方式における各管理作業の作業姿勢の実態と労働強度の計測及び、作業者の体格別の搾乳作業姿勢と労働強度を検討して、飼養管理作業の軽労化及び、作業者の体格に適した搾乳パーラ設計方法を提示する。さらに、ミルキングパーラ形式別の搾乳作業能率を明らかにするとともに、搾乳作業手順と作業能率の関係について検討して省力的な搾乳作業法を提示する。2.方法
1)飼養管理作業の作業実態:飼養管理作業内容、作業姿勢、作業時間を記録、解析した。
2)管理作業の労働負担:牛舎内の作業内容、その時の作業姿勢と心拍を記録、解析した。
3)搾乳姿勢と労働強度:模擬搾乳装置とパーラ用搾乳ストールによる模擬搾乳時の、作業者の筋電図、作業姿勢(角度センサ)を計測し、解析した。
4)パーラ形式と搾乳作業能率:タンデム、パラレル、ヘリンボーンについて搾乳能率を計測した。
5)前処理作業手順と搾乳能率:前処理作業手順を変えた場合の搾乳能率を計測した。
3.結果の概要
1)フリーストール飼養農家では機械化が進んでおり、除糞や給餌作業で使う機械の運転は主として男性が行う。そのため、夫は立位や乗座位が多い。妻は搾乳作業を主として担当するため、立位作業が約9割を占めた。
2)サイレージの切り出しや給餌、除糞などの作業は機械で行うので作業姿勢は乗座位が多く、心拍増加率は50%以下が多かった。牛舎内の横断通路の除糞や、飼槽の掃き寄せ作業を人力で行った場合、心拍増加率は70%以上であった。
3)パラレルパーラではピットが深くなると左僧帽筋の筋負担が大きくなった。左上腕ではピットが深くなると、角度が大きくなる傾向にあった。ヘリンボーンパーラでは右僧帽筋と左僧帽筋でピット深さとの相関が認められた。左上腕の角度は50°以下が多かった。ピットが深くなると左前腕の角度が大きくなる傾向にあった。
4)搾乳作業の筋負担を軽減するための適正ピット深さは、左僧帽筋の筋活動度の最適範囲を8〜10%と設定すると、パラレルパーラでは身長の53%で上限は56%、ヘリンボーンパーラでは身長の54%で上限は58%となった。
5)1搾乳ストールあたり1時間の搾乳能率はタンデムパーラでは6.3頭〜6.4頭、パラレルパーラでは3.4頭〜3.8頭、ヘリンボーンパーラでは3.2頭〜4.4頭であった。施設規模決定時の搾乳ストールあたりの搾乳能率の目安として、タンデムパーラ6.3頭/h、パラレルパーラとヘリンボーンパーラは3.5頭/hを用いる。
6)作業手順により前処理時間が大きく異なった。前作業時間が5分以上と極端に長い農家で、作業手順を片側8頭(全頭)対象から4頭ごとに区切るだけで、前処理時間は139秒短縮され平均泌乳時間は52秒増加し、1時間あたりの搾乳能率は10頭増加した。
表1 強度の大きい作業の平均心拍増加率
作業の種類 | 姿勢 |
平均心拍 |
測定数 | |
給飼 |
サイロシート はがし |
立位 | 82.0 | 2 |
ロール解体・給飼 | 立位 | 81.8 | 2 | |
搾乳 | パーラ | 立位 | 48.5 | 7 |
パイプライン | 蹲踞 | 60.2 | 2 | |
人力の 管理作業 |
除糞 | 立位 | 71.0 | 7 |
サイレージ 掃き寄せ |
立位 | 70.1 | 4 |
表2 パーラ形式別の搾乳能率と作業状況
パーラ形式 |
タンデム |
パラレル |
ヘリンボーン |
|||||||
搾乳ストール、列数 | 4D | 4D | 6D | 8D | 8D | 9D | 8D | 8D | 8D | 12D |
搾乳作業者数 | 2 | 3 | 2 | 1 | 1 | 2 | 2 | 3 | 3 | 1 |
搾乳頭数 | 78 | 94 | 68 | 87 | 77 | 124 | 84 | 142 | 171 | 244 |
総作業時間(h) | 1.52 | 1.88 | 1.56 | 1.80 | 1.39 | 2.04 | 1.51 | 2.02 | 2.66 | 3.17 |
1回の搾乳時間(分秒) | 7’46” | 8’27” | 12’42” | 17’11” | 15’15” | 16’33” | 13’27” | 13’7” | 14’50” | 17’16” |
搾乳能率(頭/h) | 51.3 | 50.0 | 43.5 | 48.3 | 55.4 | 60.8 | 55.6 | 70.3 | 64.3 | 77.0 |
搾乳頭数(頭/ストール・h) | 6.4 | 6.3 | 3.6 | 3.0 | 3.5 | 3.4 | 3.5 | 4.4 | 4.0 | 3.2 |
表3 作業手順変更に伴う搾乳時間の変化
項目 |
搾乳 頭数 (頭) |
搾乳 能率 (頭/h) |
1回の 搾乳時間 (秒) |
泌乳 時間 (秒) |
前− 装着 (秒) |
搾乳 時間 (h) |
変更前 | 86 | 50.9 | 1031 | 283 | 349 | 1.69 |
変更後 | 95 | 60.9 | 959 | 335 | 209 | 1.56 |
増減 | +9 | +10.0 | -72 | 52 | -139 | 0.13 |
4.成果の活用面と留意点
1)本試験のデータはミルククロー支持アームが装備されているパーラには適用しない。5.残された問題とその対応
1)支持アーム型のパーラでの労働強度。 2)前処理作業開始から装着までの時間と泌乳量の関係