成績概要書                   (作成 平成11年1月)
課題の分類                          根釧農試
研究課題名:    フリーストール飼養における省力的管理技術
       (大規模土地利用型酪農における省力的群管理技術の開発)
      Ⅳ.牧草サイレージおよびとうもろこしサイレージ主体飼養
       における乳牛の乾物摂取量
予算区分:国 補
担当科:根釧農試 研究部 酪農第一科
     新得畜試 研究部 酪農科
研究期間:平6〜10年度 協力・分担関係:群馬畜試、福岡総農試畜研
       大分畜試、宮崎畜試  

1.目的
 北海道のフリーストール飼養における主要な自給粗飼料である牧草サイレージおよびとうもろこしサイレージを主体に、高泌乳牛を群別に飼養するための基準となる乾物摂取量(DMI)およびDMIに及ぼす要因を示し、飼料設計を行う際の資とする。

2.方法
1)解析データ:根釧農試および新得畜試で、1987〜1997年に実施された飼養試験成績
 泌乳前期牛(分娩後1〜15週);根釧102頭(分娩後9〜15週は77頭)、新得147頭
 乾乳牛  (分娩前4〜 1週);根釧 98頭 
 また、供試牛はすべて2産以上で、平均産次は根釧、新得とも3.3産であった。
2)DMIの推定:泌乳安定期のDMI推定には、分娩後11〜15週の4%補正乳量(FCM)および体重の平均値を用いた重回帰分析を行い、乾乳期は分娩前4〜3週の平均値を示した。また、泌乳初期は要求量に見合う乾物量を摂取できないため、DMI推定値の補正を検討した。
 

3.結果の概要
1)給与飼料はおもに混合飼料であり、粗飼料は根釧では牧草サイレージ、新得ではとうもろこしサイレージおよび牧草サイレージであった。泌乳前期の全飼料中乾物率は根釧・新得各々54.5、43.1%、CP含量は16.0、16.8%、TDN含量は77.8、75.0%、NDF含量は39.9、36.6%であり、粗飼料割合は乾物量で各々52.4、61.3%、TDN量で44.6、55.4%であった。
2)分娩後11〜15週のDMIは、根釧、新得各々21.7、23.8kg/日、DMI/体重は3.37、3.76%であり、根釧は新得よりDMIで2.1kg、DMI/体重で0.39ポイント低かった。しかし、FCMおよび体重には差がみられなかった(表2)。
3)泌乳安定期のDMI推定式は次の通りであった。
 根釧:DMI(kg/日)=0.02034×体重(kg)+0.31612×FCM(kg/日)−2.2288(R=0.55)
 新得:DMI(kg/日)=0.01454×体重(kg)+0.37211×FCM(kg/日)+1.9122(R=0.63)
4)全飼料中NDF含量とDMIとの関係を根釧および新得のデータを用いて解析した結果、有意な負の直線的関係(R=0.20、P<0.001)がみられた。NDF含量は30〜35%でDMIが最大になるといわれるが、根釧では牧草サイレージ主体で飼養され、NDF含量が40%近くと高かったため、DMIが低かったものと考えられた。
5)サイレージ主体飼養では、全飼料中水分含量が50%を越えると、DMIが低下するといわれているため、乾物率とDMIとの関係を新得のデータで解析した結果、それらの相関は低く(図1)、分娩後11〜15週のDMI実測値もNRC推定値を上回った(表3)。これらから、サイレージ主体飼養であっても、全飼料中乾物率がDMIに及ぼす影響は少ないと考えられた。
6)泌乳初期(分娩後1〜10週)におけるDMI実測値は、各場およびNRC飼養標準の推定値よりも低く、根釧では分娩後6週まで、新得では10週まで漸増したため(図2)、各推定式を用いる場合の補正係数(実測値/推定値)を示した(表3)。
7)乾乳期(分娩前4〜3週)のDMIは11.5kg/日、DMI/体重は1.62%であり、体重の寄与率は低かった。また、分娩前2および1週にはDMIが低下するといわれているが、本成績では各々12.5、11.5kg/日と低下はみられなかった(図3)。

表1.給与飼料の化学成分・養分含量と、全飼料に占める粗飼料の乾物量・TDN量の割合
  乾物率 CP含量 TDN含量 NDF含量 粗飼料
乾物
粗飼料
TDN
根釧 新得 根釧 新得 根釧 新得 根釧 新得 根釧 新得 根釧 新得
  乾物中%  
泌乳前期 54.5 43.1 16 16.8 77.8 75 39.9 36.6 52.4 61.3 44.6 55.4
乾乳期 35.6 12.8 66.8 64.5 100 100

表2.分娩後11〜15週の飼養成績
  平均 SD
乾物摂取量
(kg/日)
根釧 21.66 2.36
新得 23.8 2.75
DMI/体重
(%)
根釧 3.37 0.32
新得 3.76 0.39
CP摂取量
(kg/日)
根釧 3.47 0.49
新得 4 0.58
TDN摂取量
(kg/日)
根釧 16.85 1.97
新得 17.84 2.31
CP充足率
(%)
根釧 112.2 13.4
新得 118 12.9
TDN充足率
(%)
根釧 108.9 10.7
新得 106.8 9.6
乳量
(kg/日)
根釧 34.9 4.2
新得 34.9 5.4
FCM
(kg/日)
根釧 34.1 3.8
新得 34 4.8
体重
(kg)
根釧 645 56
新得 636 58
増体
(kg/日)
根釧 0.12 0.56
新得 0.19 0.62

表3.DMI実測値と補正係数(実測値/推定値)
実測(kg/d) 実測/各場推定 実測/NRC推定
根釧 新得 根釧 新得 根釧 新得
1 15.2 16.6 0.75 0.79 0.72 0.84
2 18.1 18.7 0.82 0.78 0.78 0.82
3 19.3 20 0.85 0.82 0.81 0.87
4 20.5 21.2 0.89 0.86 0.84 0.91
5 21 22 0.92 0.89 0.87 0.93
6 21.4 22.6 0.94 0.91 0.89 0.96
7 21.5 23 0.95 0.93 0.9 0.98
8 21.6 22.9 0.96 0.93 0.91 0.98
9 21.5 23.1 0.96 0.95 0.92 0.99
10 21.5 23.5 0.97 0.97 0.93 1.02
11 -15 21.7 23.8 1 1 0.96 1.06

4.成果の活用面と留意点
1)乾物摂取量の推定は、基本的には飼養標準に基づき行い、サイレージ主体飼養の場合に本成績を参照する。

5.残された問題とその対応
1)DMIに及ぼす飼料要因および環境・管理要因をさらに検討し、推定式の精度向上を図る。
2)分娩前後におけるDMIの推移と、乳生産および生産病との関連性について検討する。