成績概要書                     (作成 平成11年1月)

課題の分類:北海道 畜産・草地 畜産
研究課題名:フリーストール経営における飼養管理と経済性評価
      (大規模土地利用型酪農における省力的群管理技術の開発)
       Ⅴ.牛群管理のためのモニタリング
予算区分:国補
担当科:根釧農試 研究部 酪農第二科 酪農第一科
研究期間:平成6〜10年度
協力・分担関係:新得畜試、福岡総農試畜研
          宮崎畜試、大分畜試、群馬畜試
                               

1.目的
 フリーストール牛舎における牛群管理のため、乳中尿素窒素(MUN)、乳成分、血液成分、および蹄輪幅と栄養充足との関連から牛群管理モニタリング技術を開発する。

2.方法

  1. 乳成分および血液成分による泌乳前期の栄養充足モニタリング手法
  2. 根釧農試および新得畜試における156頭の個体成績を用いて乳成分と栄養充足の関係について、さらに、根釧農試における63頭の個体成績を用いて血液成分と栄養充足の関係について検討した。また、根釧農試における99頭の個体成績から血液成分の推移について取りまとめた。

  3. 乳中尿素窒素(MUN)を用いた栄養バランス評価法

7種類のTDN/CPが異なる飼料を給与した3例の飼養試験を用いて、TDN/CPとMUNの関係について検討した。MUNは各個体4日間連続測定した平均を個体の値とし、同一飼料を給与された6頭の平均を群の値とした。

 3)蹄輪による栄養充足モニタリング

 根釧農試で飼養されている乳牛の左後肢外蹄の写真を撮り、写真から蹄輪の幅に基づいてスコア0(蹄輪がない)、スコア1(蹄輪の幅1mm未満)、スコア2(幅1〜2mm未満)、スコア3(幅2〜5mm未満)、スコア4(幅5mm以上)に5段階に分けて評価し、分娩後の2〜4週の栄養充足率、過去の疾病との関連を調査した。

3.結果の概要

  1. 乳成分によるモニタリング:乳脂肪率に対する乳蛋白質率の比率をとった指標(PRO/FAT)は、TDN充足率と分娩後10週まで有意な相関を示し、特に分娩後2週は、r=0.50となった(図1)。このことからエネルギー充足の指標としてPRO/FATが有効であると考えられる。
  2. 血液成分によるモニタリング:血中尿素窒素(BUN)は、TDN/CPと全ての週で有意な相関を示した。このことから、BUNはエネルギーと蛋白質のバランスの指標であることが示された(表1)。また、血液成分の推移では、BUNは分娩後2週から16週の間において、11.1±3.38mg/dl〜12.4±3.46mg/dlの範囲で推移した(表2)。
  3. MUNによるモニタリング:TDN/CPとMUNとの相関係数は、個体ではr=-0.54となったが、群ではr=-0.92となった。このことから、MUNによる栄養バランス評価のためには、複数頭のサンプリングが必要であることが示された(図2)。
  4. 6頭の平均値を用いたTDN/CPに対するMUNの回帰直線は、以下の式と推定された。
  5.    MUN(mg/dl)=-4.33×TDN/CP+30.52 (R2=0.84)

  6. 得られた回帰直線を日本飼養標準(1994)およびNRC飼養標準(1989)の推奨栄養含量から算出したTDN/CP(4.16〜4.93)に当てはめると、MUNは9.2〜12.5mg/dlと推定され、MUNを用いた乳牛の栄養バランス評価の目安になると考えられる。
  7. 蹄輪によるモニタリング:スコア3以上の場合、分娩後2〜4週のTDN充足率は87.2%であり、蹄輪スコア0〜1の乳牛(96.6%)よりも有意に低かった(表3)。スコア3以上の蹄輪およびスコア2以下の連続した蹄輪を持つ牛の92%は、過去に何らかの疾病に罹患していた。


        図1 分娩後2週におけるTDN充足率とPRO/FATの関係

表1 BUNと栄養充分およびTDN/CPとの相関係数
        (Spearman の順位相関)

* TDN充分率 CP充分率 TDN/CP
2 0.12 0.24 -0.34
4 0.01 0.14 -0.34
8 0.08 0.32 -0.52
12 0.04 0.23 -0.59
16 0.20 0.39 -0.50
 *分娩後週    太文字:P<0.01

表2 飼養試験成績における血液成分の推移
分娩
後週
BUN
(mg/dl)
NEFA
(μEq/l)
血糖
(mg/dl)
ヘマトクリット
(%)
アルブミン
(g/dl)
-2 8.4±2.22 157( 85-291) 60.6±4.85 32.7±2.59 3.84±0.26
-1 10.6±2.56 152( 85-273) 62.5±5.52 32.2±2.60 3.48±0.59
1 9.9±2.86 528(317-880) 55.7±6.71 32.1±2.88 3.51±0.60
2 11.1±3.38 446(246-807) 54.8±7.92 31.1±2.77 3.62±0.61
4 12.2±3.43 317(159-626) 57.5±9.13 30.3±2.80 3.74±0.58
8 12.4±3.46 166( 95-292) 61.6±6.06 30.7±2.50 3.86±0.55
10 11.3±2.62 137( 83-226) 64.3±7.29 31.3±2.04 4.18±0.29
12 11.2±2.59 127( 83-195) 62.4±6.06 31.3±2.21 4.18±0.27
16 11.6±3.08 120(120-221) 63.3±5.78 31.8±2.31 4.16±0.36
NEFAは平均値±標準偏差(対数値)を実数変換し、その他は平均値±標準偏差を示す。


                    (個体の平均値)


                    (6頭の平均値)
               図2 TDN/CPに対するMUNの関係

4.成果の活用点と留意点

1)MUNの成績は、牧草サイレージ主体を主体とした飼養試験の結果に基いたものである。

2)蹄輪だけでは過去の健康状態を正確に知ることは難しいので、他の健康指標や技術情報などと組み合わせて判断することが望ましい。

5.残された問題とその対応

1) 第一胃内でのエネルギーと窒素のバランスとMUNの関連を検討する。同様の観点から 放牧飼養におけるMUNについて検討する。
3) 蹄輪形成と飼養管理、栄養状態および健康状態との関係を検討する。