成績概要書 (作成 平成11年1月)
課題の分類 研究課題名: 長日処理した雌羊に対する雄羊同居 およびホルモン処理併用による季節外繁殖 (非繁殖季節における発情誘起とラム生産の安定化) 予算区分:道費 担当科:滝川畜試研究部 めん羊科・衛生科 担当者: 研究期間:平7−9年度 協力・分担関係: |
1.目的
北海道産ラム肉は、鮮度、風味、安全性等に優れており、需要は徐々に伸びてきているが、通常の1年1産繁殖サイクルではラムの出荷時期が夏から秋に集中してしまい、そのことがラム肉の市場性を狭めている。 そのため、生産者および流通業者からは、年間を通じて安定したラム肉の供給が強く求められている。そこで、2〜3月の分娩期に長日処理(羊舎点灯)した雌羊に対して、雄羊同居法と生産現場で使用可能なホルモン剤を用いた方法による季節外繁殖について試験を実施した。
2.方法
1)雄羊同居法におけるホルモン2回処理および長日処理の検討(試験1)
2)雄羊同居法におけるホルモン1回処理および長日処理の検討(試験2)
3)雄羊同居法における交配期の飼料給与量の検討(試験3)
3.結果の概要
1) 分娩期に長日処理(全明)を行った雌羊の雄羊同居法のみによる発情誘起率は80%、受胎率80%であった。ホルモン処理2回処理の併用では、発情誘起率は100%、受胎率 は71%であり、斉一に発情が誘起され、かつ周期的な発情がみられた。一方、ホルモン2 回処理併用でも雄羊同居開始が遅れると、発情誘起率と受胎率は低かった(試験1;表 1)。
2) 分娩期に長日処理(全明)を行った雌羊の雄羊同居法のみによる発情誘起率は83〜100%、受胎率50〜71%であった。ホルモン1回処理の併用では、発情誘起率は100%、受胎率は67〜100%であり、斉一に発情が誘起され、かつ周期的な発情がみられ、雄羊 同居開始時PMSG処理を省略しても大きな影響はないと考えられた(試験2;表2)。
3) 分娩期に長日処理した雌羊に対する雄羊同居法のみの効果を、交配期の飼料給与量を 変えて検討したが、発情誘起率(75〜90%)と受胎率(13〜50%)にその効果は認め られなかった。この試験でホルモン1回処理併用の発情誘起率は100%、受胎率は38%であった(試験3;表3)。
4) 以上の結果から、冬季分娩期に点灯による長日処理を施用すると、雄羊同居法により 発情が誘起され、約50%(13〜80%)の受胎率を期待でき、さらに、雄羊同居開始後13日目に500IUのPMSGと15mgのPGF2αを筋注する処理を併用すると、約60%(38〜 100%)の受胎率を期待できると考えられた。
表1 ホルモン2回処理が雄羊同居法における
非繁殖期雌羊の発情誘起率および受胎率(試験1)
群 | 日長1 | n | ホルモン処理 | 雄羊同居 開始日 |
発情(%) | 受胎(%) | 産子 数 |
M0 | 自然 | 6 | − | 5/26 | 1 (17)b | 1 (17)cd | 1.0 |
全明 | 5 | − | 5/26 | 4 (80)ab | 4 (80)c | 1.3 | |
M2 | 自然 | 4 | PMSG/PMSG-PGF2α2 | 5/26 | 2 (50)ab | 0 ( 0)df | 0 |
全明 | 7 | PMSG/PMSG-PGF2α | 5/26 | 7 (100)a | 5 (71)c | 1.6 | |
M2 | 自然 | 5 | PMSG/PMSG-PGF2α2 | 6/8 | 1 (20)b | 1 (20)cd | 1.0 |
全明 | 6 | PMSG/PMSG-PGF2α | 6/8 | 3 (50)ab | 0 ( 0)ef | 0 |
表2 ホルモン1回処理が雄羊同居法における
非繁殖期雌羊の発情誘起率および受胎率(試験2)
群 | 日長1 | n ホルモン処理 | 雄羊同居開始日 | 発情(%) | 受胎(%) | 産子数 | |
H0 | 自然 20明 全明 |
2 3 7 |
- | 5/28 | 2 (100) 3 (100) 7 (100) |
0 ( 0) 1 (33) 5 (71) |
0 1.0 1.4 |
H1 |
自然 20明 全明 |
3 3 4 |
PMSG-PGF2α2 |
5/28 | 3 (100) 3 (100) 4 (100) |
3 (100) 2 ( 67) 4 (100) |
1.3 1.0 1.0 |
M0 | 自然 20明 全明 |
2 4 6 |
− | 5/28 | 2 (100) 4 (100) 5 ( 83) |
2 (100) 3 ( 75) 3 ( 50) |
1.5 1.0 1.0 |
M1 |
自然 20明 全明 |
3 2 6 |
PMSG-PGF2α2 | 5/28 | 3 (100) 2 (100) 6 (100) |
2 ( 67) 2 (100) 4 ( 67) |
1.5 1.0 1.0 |
表3 交配期の飼料給与量が雄羊同居法における
非繁殖期雌羊の発情誘起率および受胎率(試験3)
日長1 | n | 発情(%) | 受胎(%) | 産子数 | |
M1 | 自然 | 6 | 6 (100)a | 3 (50) | 1.0 | 全明 | 8 | 8 (100)a | 3 (38) | 1.3 |
L0 | 自然 | 4 | 4 (100)ab | 0 ( 0) | 0 |
全明 | 9 | 8 (89)a | 4 (44) | 1.3 | |
M0 | 自然 | 6 | 2 (33)b | 0 ( 0) | 0 |
全明 | 8 | 6 (75)ab | 1 (13) | 1.0 | H0 | 自然 | 5 | 3 (60)ab | 0 ( 0) | 0 |
全明 | 10 | 9 (90)a | 5 (50) | 1.6 |
4.成果の活用面と留意点
1)季節外繁殖に用いる雄羊は交配能力が確認されたものを使う。
2)雄羊同居法では、同居前2〜3ヶ月間は雄羊を雌羊から隔離しておく必要がある。
3)分娩時期の2〜3月は羊舎内を点灯しておく。本試験での照明は蛍光灯を用いた。照度はめん羊の眼の高さで80lux以上(一番暗いところでも40lux以上)を確保する。
5.残された問題点とその対応
1)前産次からの母羊の栄養回復程度と非繁殖季節における繁殖性能の関係
2)産子数の改善
3)ボディコンデション・スコアを用いた栄養管理法の確立