成績概要書 (作成 平成11年1月)
研究課題名: 排卵同期化による黒毛和種の定時人工授精技術
予算区分:道単 担当科:新得畜試 生産技術部 衛生科 家畜部 肉牛育種科 研究期間:平成9〜10年度 協力・分担関係:なし |
1. 目 的
分娩後の泌乳している黒毛和種雌牛にホルモン剤を投与して排卵を同期化し、発情看視をすることなく、適期に授精できる定時人工授精技術を確立する。
2. 方 法
1)GnRH-PGF2α処置後のGnRH投与が黒毛和種雌牛の排卵同期化に及ぼす効果(試験1)
2)排卵同期化処置後の定時人工授精による受胎成績(試験2)
3)排卵同期化処置法の違いが黒毛和種雌牛の受胎に及ぼす影響(試験3)
3. 結果の概要・要約
1)分娩後5〜9週の黒毛和種雌牛に対してGnRH-PGF2α処置(7日間隔で投与)した後、48時間目に2回目のGnRHを投与した場合の排卵同期化効果を検討した結果、排卵を時間単位で期化する効果があること、ならびにこの排卵同期化効果は分娩後の発情回帰の有無および性周期のステージに関係なく有効であることが明らかになった(表1)。
2)分娩後4〜8週の黒毛和種雌牛に、GnRH-PGF2α-GnRH処置を施して排卵を同期化したのち、定時に人工授精したところ、発情看視をすることなく5割以上の受胎率が得られることが明らかとなった(表2)。
3)分娩後4〜10週の黒毛和種雌牛 60頭を4群に分け、1回目のGnRHを投与した後の PGF2α および2回目の GnRHの投与時期の違いが受胎に及ぼす影響を検討した(図1)。その結果、1回目のGnRH注射後7日目にPGF2αを投与し、さらにその30または48時間後に2回目のGnRHを投与して定時人工授精した処置1および2群では、適期授精に匹敵する受胎率が得られた(表3)。また、これらの処置群の空胎日数は、発情を発見したのち適期に人工授精した対照群に比べると有意に短かった(p<0.01)。
4)試験2および3の供試牛について、栄養状態と受胎との関連を調べた結果、試験開始時のボディコンディションスコア(BCS)が5.0〜7.3の範囲にある牛の受胎率は、5.0未満の牛のそれよりも有意に高かった(75.4% vs 50.0%、p<0.05)。
以上の結果は、分娩後4〜10週の黒毛和種雌牛に、1回目のGnRH注射後7日目にPGF2αを投与し、さらにその30〜48時間後に2回目のGnRHを投与して排卵同期化をはかり、処置終了後18〜22時間の間に授精するという定時人工授精技術を適用することによって、発情看視をすることなく従来の発情発見後の適期授精に匹敵する受胎率が得られ、かつ、空胎日数の短縮も可能であることを示している。
表1.GnRH-PGF2α処置後のGnRH投与が発借発現
および排卵のタイミングに及ぼす影響(試験1)
群 | n | PGR2α処置終了後5日まで | |||
発情発現 頭数 |
PG−発情 (h) |
排卵 頭数 |
PG−排卵 (h) |
||
GnRH投与群 | 6 | 5 | 50.4±5.6 | 6 | 74.0±2.5a |
対照群 | 6 | 4 | 62.5±14.2 | 5 | 93.6±14.5b |
表2.排卵同期化処置後の定時人工授精が分娩後の黒毛和種
雌牛の累層成績に及ぼす影響(試験2)
群 | n | 分娩から 初回授精 までの日数 |
試験 開始時 のBCS |
受胎率% | 空胎 日数 | |
初回 授精時 |
Total | |||||
処置群1〕 | 13 | 58±10 | 5.3 | 53.8 | 84.6 | 75.5 |
対照群 | 12 | 70土29 | 5.7 | 83.3 | 91.6 | 69.8 |
表3.排卵同期化処置法の違いが分娩後の黒毛和種雌牛の繁殖成績に及ぼす影響(試験3)
群 | n | 分娩から 初回授精 までの日数 |
受胎率% | 空胎日数3) | |
初回 授精時 |
Total3) | ||||
処置1群 | 15 | 58.9 | 73.32) | 73.3 | 74.1土25.4a |
処置2群 | 15 | 55.5 | 80 | 86.7 | 60.2±18.4a |
処置3群 | 15 | 59.6 | 53.32) | 60 | 85.1±34.3 |
対照群 | 131) | 95.1 | 69.2 | 84.6 | 96.6±24.9b |
4. 成果の活用面と留意点
1)本技術を用いた排卵同期化処置後の定時人工授精により、その農場の牛群において適期に人工授精した場合の受胎率に匹敵する成績が得られる。また、この技術は発情看視の省力化を望む農場においてとくに有用である。
2)今回の試験では、未経産牛については検討していない。
3)本技術を適用した牛群におけるさらなる受胎率向上のためには、ホルモン処置開始時のBCSを5〜7に保つことが望ましい。
5. 残された問題とその対応
1)受胎に影響を及ぼす要因の解明とそれを制御できる技術の確立が求められる。