成績概要書                    (作成 平成11年1月)
研究課題名: キャピラリーPCR法による牛胚性判別所要時間の短縮
       (キャピラリーPCRによる牛胚性判別実用技術の確立)
予算区分:  道費
担当科:新得畜試 生産技術部 生物工学科
研究期間:平7−9年度
協力・分担関係: なし  

 1.目 的

PCR法を用いた牛胚の性判別技術を実用化し普及させるにあたって,改善が求められているPCR所要時間の短縮について、最近開発されたキャピラリーPCR装置を用いた条件について検討し、併せて判別胚の移植試験を行う。

 2.方 法

1)キャピラリーPCR法の検討
サンプル量、試薬量、反応時間・温度などについて、従来法と比較しながら最適な条件を検討した。
2)性判別胚の移植による実証試験
当場で性判別した胚を十勝管内の3地区の農家で用意した受胚牛に移植した。

 3.結果の概要

1)キャピラリーPCR装置を用いて,これまでと同じ条件でPCRを行った場合,既存の装置に比べて温度の上昇下降速度が速いため,PCR所要時間は約30分短縮された。
2)表2に示した条件でキャピラリーPCRを行った場合、典型的な1サイクルの長さは図1のようになり、PCR所要時間は従来法(表1)の3時間から1時間10分程度に短縮できた。
3)キャピラリーPCR法において、安定した増幅結果を得るために特に影響が大きかったのは、反応初期の時間設定とDNA合成酵素の量であった。この条件において検出できたのは1pgまでで、従来法の0.5pgと比べて感度が低かった。  
4)同じ体内受精胚に由来するDNAサンプルを2つに分けて、それぞれをキャピラリーPCR法と従来法のテンプレートとして用い、判別率(判別できた胚数/供試胚数)を比較したところ、それぞれ78.5%、89.2%であり、キャピラリーPCR法の判別率は従来法に及ばなかった(表3)。なお、判別できた胚の性別は両法で一致していた。 
5)キャピラリーPCR法により性判別した胚の移植実証試験では、受胎率57.1%、判別率76.3%、判定一致率100%であった(表4)。
以上の結果から、牛胚の性判別にキャピラリーPCR法を用いることにより、判別率は及ばないものの、PCR所要時間を従来の3時間から1時間10分程度に短縮できることが示された。

表1.PCR反応条件(従来法)
サンプル 10μl
PCR反応液 40μl
反応緩衝液(10倍)  5.0μl  
dNTPs  200μM
耐熱性DNA
ポリメラーゼ
 1.0 U
プライマー 各15pmol
マグネシウム  1.5 mM
50μl
PCR
プログラム
1サイクルの
設定温度と時間
各サイクルの
反復回数
95℃(3分)  1回
95℃ - 52℃ - 72℃ 45回
(30秒) (45秒) (45秒)  
72℃(5分)  1回
PCR所要時間 3時間  

表2.キャピラリーPCR法の反応条件
サンプル 5μl
PCR反応液 15μl
反応緩衝液(10倍)  2.0μl  
dNTPs  200μM
耐熱性DNA
ポリメラーゼ
 1.0 U
プライマー 各15pmol
マグネシウム  3.0 mM
20μl
PCR
プログラム
1サイクルの
設定温度と時間
各サイクルの
反復回数
95℃(3分)  1回
95℃ - 52℃ - 72℃  5回
(15秒) (30秒) (20秒)  
95℃ - 52℃ - 72℃ 40回
(10秒) (15秒) (5秒)  
PCR所要時間 3時間  
 

表3.PCR方式による判別率の比較成績
PCR方式 供試胚数 判別できた胚数 判別率
キャピラリー法
従来法
  223
  223 
175(♂111,♀64)
199(♂122,♀77)
 78.5%
 89.2% 
 使用プライマー:S4−B

表4.キャピラリーPCR法による性判別移植成績
供試胚数 判別結果 判別率(%) 移植頭数1) 受胎頭数(%) 分娩頭数 判定一致率
38 29 76.3 14 8(57.1) 8 100%



♂ 17
♀ 12
判別不可 9
  6
4
4
4
1
3
♂4
♀1
♂2,♀1
 
 1)新鮮胚移植

4.成果の活用面と留意点
  1)判別率の低下を考慮しても、時間短縮が優先する場合は有効な方法である。
  2)現状では性判別胚の凍結法については未確立なので、当面は新鮮胚移植と組み合わせての利用となる。

5.残された問題とその対応
  1)キヤピラリーPCR法の判別率向上