成績概要書                            (作成 平成11年1月)
課題の分類:
研究課題名: 土壌診断による秋まき小麦の窒素施肥量の設定
        (道産小麦の品質向上試験(パートⅢ)
          3.栽培法改善による品質向上と安定多収
           2)土壌診断・作物栄養診断による安定多収のための窒素施肥法確立)
予算区分: 受託
担当: 十勝農試 研究部 土壌肥料科
     北見農試 研究部 土壌肥料科
     中央農試 農産化学部 穀物利用科
研究期間: 平成7〜9年(播種年次)
協力・分担関係: なし

 1.目的
  道東地方における秋まき小麦の品質向上と安定多収のために、土壌窒素診断技術を確立し、それに基づいた総窒素施肥量を設定する。

 2.方法
  1)供試品種:「ホクシン」
  2)試験地:平成6〜9年(播種年次)にかけて、十勝支庁管内37か所、網走支庁管内29か所
  3)試験処理:無窒素区および窒素用量試験区  
 

 3.結果の概要
  1)収量水準に対応した窒素吸収量の設定
   ①窒素吸収量の増加にともなって子実収量(収量)は高まり、子実タンパク質含有率(タンパク)は上昇するが、窒素吸収量が同程度の場合には収量とタンパクは負の相関関係にあった。(図1)
   ②タンパクの過剰な上昇を回避するために、タンパクを10%に設定し、収量水準別に目標とする窒素吸収量を設定した。(表1)
  2)土壌窒素供給量の設定
   ①熱水抽出性窒素(mg/100g、0-20cm、採取時期は播種年内)と無窒素区の窒素吸収量は高い
    相関関係にあるが、土壌間差異が認められた。(図2、3)
   ②土壌窒素供給量を推定するにあたり、窒素給源となる有機物の蓄積量が多く、その放出に
    土壌水分環境が大きく影響する土壌(湿性・洪積)と、それ以外の土壌(乾性・沖積)に
    区分した。
本成績における呼称 地力保全基本調査の分類による対象土壌
湿性、洪積 多湿黒ボク土、腐植質黒ボク土、多腐植質黒ボク土、台地土
乾性、沖積 淡色黒ボク土、低地土、褐色森林土

  3)窒素施肥効率
   ①土壌の窒素供給量の増加にともなって、施肥効率が低下する傾向が認められたことから、土壌窒素供給量によって段階的に施肥効率を設定した。(図4)
   ②施肥効率の設定にあたっては、過剰な窒素施肥によるタンパクの上昇や倒伏の危険性の回避を優先し、回帰式より幾分高めに設定した。
  4)土壌診断による窒素施肥量基準値
   ①乾性・沖積における収量水準に対応した総窒素施肥量の目安を設定した。(表1)
   ②湿性・洪積における収量水準に対応した総窒素施肥量の目安を設定した。(表2)
  5)窒素施肥法
   ①基肥窒素量は、土壌診断によらず4kg/10a程度とする。
   ②土壌診断による総窒素施肥量基準値から、基肥量を差し引いた残分を起生期に施肥する。ただし、起生期の施肥量が多い場合には、幼穂形成期までの分肥が考えられるが、その場合でも起生期重点分肥とする。
   ③出穂揃い期に止葉直下葉(第2葉)の葉色を測定することで、タンパクの推定が可能である。葉色値が38〜40以下であれば、高い確率でタンパクは10%以下となる。(図5)
   ④尿素溶液の葉面散布適期は、葉色診断後、乳熟期頃までで、尿素2%溶液、100リットル/10aで、通常1回散布が適していると思われ、多くても2回にとどめるべきである。


図1.窒素吸収量水準別の収量とタンパクの関係


図2.乾性・沖積での熱抽と無窒素区の窒素吸収量


図3.湿性・洪積での熱抽と無窒素区の窒素吸収量


図4.土壌窒素供給量の差異による施肥効率の設定


図5.葉色診断によるタンパクの推定


表1.乾性、沖積における総窒素施肥量(kg/10a)
タンパク10%
収量水準
kg/10a
窒素
吸収量
kg/10A
熱水抽出性窒素分析値
0-20cm、mg/100g
2 3 4 5 6 7
420 10 11 9 7 ( 4)
480 11-12 14 11 9 6 ( 4)
540 12-13 (15) 12 11 8 5
600 14 (17) 14 13 10 8 ( 4)
660 15 (19) (16) (15) 12 10 4

表2.湿性、洪積における総窒素施肥量(kg/10a)
タンパク10%
収量水準
kg/10a
窒素
吸収量
kg/10a
熱水抽出性窒素分析値
0〜20cm、mg/100g
-6 6-10 10-14 14-18
420 10 7 ( 4)
480 11-12 9 6 ( 4)
540 12-13 11 8 5 ( 4)
600 14 13 10 8 4
660 15 (15) 12 10 6
上の「−」:収量水準の設定が低すぎる
( 4):診断値は4kg/10a以下であるが施肥最低量として設定
左下のかっこ:収量水準の設定が高すぎる

4.成果の活用面と留意点
 1)本成績は道東地方に適用し、泥炭土、土壌窒素量に較べて窒素吸収量が著しく多くなる十勝の沖積土の一部、野菜作付け後作、播種前の多量な有機物の施用圃場は除外する。
 2)収量水準の設定においては、適用圃場における通常年の収量およびタンパクの実績を参考とし、過大な収量、窒素吸収量を目標としない。
 3)通常年においてタンパクが10%以上になるような圃場では尿素の葉面散布、追肥は行わない。
 4)本試験は「ホクシン」を対象として実施したが、収量・タンパクの特性、およびそれらの変動が同様な、他の品種でも適応可能と推測される。ただし、葉色診断を除外する。
 5)葉色の測定は、出穂揃い期であり、平均個体の第2葉の中肋を避けた中央部を葉緑素計(ミノルタSPAD-502)で20枚程度測定する。湿性土壌では推定精度がやや劣る場合がある。

5.残された問題点とその対応
 1)地帯別の目標収量指標およびタンパク指標の検討。
 2)土壌窒素診断を補完するための、生育時期別の作物栄養診断法の検討。