成績概要書                   (作成 平成11年1月)
課題の分類
研究課題名:オ−チャ−ドグラス採草地に対するかん水指針
       (牧草に対する好適土壌水分環境の解明)
予算区分:受 託
担当科:天北農試
研究部 土壌肥料科
研究期間:平成6〜10年度
協力・分担関係:なし

1.目的
 北海道の重要草種であるオ−チャ−ドグラス(OG)の単播採草地に対するかん水の重点期、開始点および量などのかん水指針を作成するため、OGの生育におよぼす水分供給の影響を検討する。

2.方法
1) 天北地方の降雨特性:アメダスデ−タより天北地方の牧草生育期間の降雨特性を明らかにする。
2) OGのかん水重点期と開始点:各番草の生育に対する水分供給時期と水分レベルの影響を検討する。かん水重点期:生育期間にかん水、無かん水時期を組合わせた処理を6〜7水準設定。かん水開始点:重点期の土壌水分レベルを4水準(pF 1.3〜4.1)設定。
3) 土壌の種類に対応したかん水量の設定:各種土壌の保水性とOGの土壌水分消費型を明らかにする。保水性:土壌411サンプルの孔隙分布を調査。土壌水分消費型:イネ科牧草についての既往の測定値の整理。

3.結果の概要

<天北地方の降雨特性>
1) 天北地方は牧草生育期間(5〜9月)の降雨量が根釧地方に比べて少なく、日本海沿岸部では2年に1度、オホーツク海沿岸部や内陸部では3〜4年に1度の頻度で干ばつ年が発生していたと試算された(表1)。また、乾燥期間日数は、天北ではOGの2番草の再生初期に該当する6月下旬に最も多かった。

<OGのかん水重点期と開始点>
2) 水分の供給を制限すると、OGの生育に、マイナスの影響が強くあらわれる時期(かん水重点期)は、1番草が再生初期20日間(萌芽〜節間伸長期前)、2番草が再生初期20日間(従属再生長期〜伸長期)、3番草が再生初期10日間(従属再生長期〜転換期)であった(図1)。
3) これは、これらの期間の水分供給を制限すると、OGによるN吸収が阻害され、地上部乾物重に強く影響する収量構成要素(1番草では茎数、2、3番草では1茎重)の増大が抑制されたためと推察された。
4) 各番草のかん水重点期において、OGの生育が低下し始める土壌水分レベル(かん水開始点、土壌深15 cm)は、2番草がpF 4.1、3番草がpF 3.7であった(図2)。

<土壌の種類に対応したかん水量の設定>
5) 各番草のかん水開始点からかん水後の目標水分レベルとしたpF 1.5までの孔隙量は、土壌により大きく異なり、1番草で0.043〜0.116 cm3cm-3、2番草で0.142〜0.235 cm3cm-3、3番草で0.091〜0.197 cm3cm-3の範囲であった。
6)  OGの土壌水分消費型は、褐色森林土の0〜20、20〜40、40〜50 cm土層が各々55、30、15 %、同じく灰色台地土では75、20、5 %と推定された。
7) かん水開始点からpF 1.5までの孔隙量と土壌水分消費型より、土壌の種類別にかん水量を算出した。天北地方の代表的土壌に対するかん水量は、褐色森林土では1番草が25mm、2番草が60mm、3番草が45mmで、灰色台地土では各々10、40、25mmであった(表2)。

 以上から、天北地方におけるOGの単播採草地に対するかん水指針を策定した(図3)。

表1 降雨特性値の地域・地方間差
  天北地方 根釧地方
オホーツク海沿岸・内陸部 日本海沿岸部
浜頓別 雄武 音威子府 稚内 豊富 天塩 中標津
精算降雨量1)
(mm)
471 457 473 416 419 410 610
干ばつ年2)
発生頻度
3年に1度 3年に1度 4年に1度 2年に1度 2年に1度 2年に1度
乾燥期間3)
精算日数4)(日)
73 81 75 83 84 81 65
 1)4)5〜9月。1975〜96年(22年間)の平均。ただし、音威子府のみ1979〜96年(18年間)の平均。
2)精算降雨量が400mm未満の年次.3)日降雨量の精算値が精算蒸発散量の1/2 以下の状態で
ある期間(岩間ら、1983に準拠)

表2 オーチャードグラス単播採草地に対するかん水重点期および量
  かん水重点期
(生育ステージ)
かん水開始点 かん水量(mm,t/10a)
淡色
黒ボク土
褐色
森林土
灰色
台地土
褐色
低地土
灰色
低地土
砂丘
未熟土
1番草 再生初期20日間 pF2.7 35 25 10 30 20 40
(萌芽〜節間伸長期前)
2番草 再生初期20日間 pF4.1 80 60 40 65 55 85
(従属再生長期〜伸長期)
3番草 再生初期10日間 pF3.7 60 45 25 50 40 70
(従属再生長期〜転換期)
 *かん水開始点の測定深度は15cm


図1 かん水時期がオーチャ一ドグラスの2番草の
   地上部乾物重におよぼす影響
   無かん水期聞以外はかん水。


図2 オーチャードグラスの2番草のかん水重点期
   における土壌水分が地上部乾物重におよぼす影響
土壌水分レベルは水分制御期間の平均土壌pF(深さ15㎝)


図3 天北地方におけるオーチャードグラス単播草地に対するかん水指針

4.成果の活用面と留意点

1) かん水開始点は、別途用意する水分判定用標準土壌サンプルを利用して、触感により判別する。判別深度は15cmとする。
2) かん水方法は、スラリ−スプレッダ−もしくはスプリンクラ−を基本とし、滞水しない程度のかん水強度でおこなう。かん水量が30mmを越える場合は、2〜3回に分割する。
3) 天北地方の降雨特性を考慮すると、特に2番草に対するかん水が重要である。
4) 本成績の適用範囲は、天北地方および干ばつ常襲地帯とする。

5.残された問題点とその対応

1) 他草種(特にチモシ−)に対するかん水指針の作成 
2) かん水開始点判定のための土壌水分予測式の開発  
3) 肥培かんがいへの応用