(作成 平成11年1月)
成績概要書
研究課題名:水稲害虫の天敵類の発生実態と天敵類に及ぼす農薬の影響  
 (水稲害虫に天敵を利用した防除技術の開発)
予算区分:道 費
研究期間:平成8〜10年
担当科:上川農試 研究部 病虫科
中央農試 稲作部 栽培第二科
協力・分担関係:

  1. 目 的
     水稲害虫に対しては、発生対応型防除による減農薬栽培技術などが開発されているが、より一層の減農薬を実現するためには、天敵などを利用した生物防除法の開発と導入が不可欠である。そこで、生物防除法確立のための基礎資料とするために本研究を行った。

  2. 方 法
    (1)水田周辺における天敵類の発生実態、 (2)クモ類の餌生物としての害虫・その他の昆虫、 (3)天敵・その他の昆虫に及ぼす農薬の影響、等をすくい取り法や見取り法などによって調査した。

  3. 結果の概要
    (1)水田周辺における天敵類の発生実態
     1)クモ類の発生実態 : ① 水田及び畦畔でのすくい取り調査では9科のクモ類が確認され、そのうち個体数の多かったものは、造網性種でサラグモ科、アシナガグモ科、徘徊性種ではフクログモ科、コモリグモ科であった(図1,図2)。 ② 畦畔では春期から秋期まで多数のクモ類が認められ、水田周辺の生態系におけるクモ類の発生源となっていると考えられた。 ③ 水田においてクモ類の個体群が増加するのは7月中旬以降で、秋期に向かい個体数が増加する傾向にあった。
     2)寄生性天敵の発生実態(表1) : ① イネドロオイムシ卵塊からタマゴバチの一種、まゆからドロムシヤドリアメバチ, ドロムシミドリコバチ, Metarhizium anisopliae, Beauveria bassiana, Paecilo-myces farinosus が確認された。 ② ヒメトビウンカの卵には高率でアカホソハネコバチが寄生しており、 幼虫からクロハラカマバチ, Erynia sp. が確認された。 ③イネミズゾウムシ成虫からは M.anisopliae, B. bassiana が確認された。 ④ アカヒゲホソミドリメクラガメ成虫からは B.bassiana が確認された。 ⑤ フタオビコヤガ幼虫からキアシナガサムライコマユバチ, Nomuraea rileyi, Zoophthora sp.、蛹からアオムシヒラタヒメバチが確認された。
    (2)クモ類の餌生物としての害虫・その他の昆虫
      ① ユスリカ類は、本田初期から水田へ侵入し、6月後半頃から発生量も多くり、7月の害虫類の発生が乏しい時には、クモ類などの広食性捕食者の餌生物になっていると推測された。 ② 8月に入ると水田においてヒメトビウンカの個体数が増加し、これらがクモ類の餌生物として重要になると考えられた。
    (3)天敵・その他の昆虫に及ぼす農薬の影響
       ① 殺虫剤の茎葉散布は、クモ類やユスリカ類成虫などに対して直接的な影響があった(図3)。 ② 殺虫剤の育苗箱施用や水面施用はクモ類に薬剤が直接接触することが少ないので、直接 的影響は茎葉散布に比べて少ないと考えられた。 ③ ユスリカ類幼虫に対しても殺虫剤の育苗箱施用は茎葉散布や水面施用に比べて影響が少なかった。 ④ クモ類に対しては直接的な影響が少ない薬剤(あるいは処理法)でも、クモ類の餌生物と思われるユスリカ類やウンカ類に対して影響が大きく、結果的にクモ類が減少するというような間接的な影響があると思われた。


    図3 害虫・天敵・その他の昆虫に及ぼす茎葉散布剤の影響(H10上川農試)
    *7月3日にエトフェンブロックス剤を茎葉散布
    *8月7日・14日にエトフェンブロックス・カスガマイシン・フサライド剤を茎葉散布。

    表2.水稲害虫に対する寄生性天敵リスト
    寄主害虫名 寄主採集場所 寄主ステージ 寄生性天敵種類
    イネドロオイムシ 当麻町・比布町 卵塊 タマゴバチ sp.
    当麻町
    比布町
    まゆ ドロムシヤドリアメバチ
    ドロムシミドリコバチ
    Metarhizium anisopliae
    Beauveria bassiana
    Paecilomyces farinosus
    ヒメトビウンカ 上幌向町 アカホソハネコバチ
    比布町・東川町
    当麻町・美瑛町
    西神楽町
    幼虫
    (越冬世代)
    クロハラカマバチ
    Erynia sp.
    比布町・東川町
    当麻町・美瑛町
    西神楽町・旭川市
    幼虫
    (第三世代)
    クロハラカマバチ
    Erynia sp.
    イネミズゾウムシ 当麻町
    旭川市
    越冬成虫 Metarhizium anisopliae
    Beauveria bassiana
    当麻町 越冬成虫 Metarhizium anisopliae
    アカヒゲホソミドリ
    メクラガメ
    比布町 成虫
    (第三世代)
    Beauveria bassiana
    フタオビコヤガ 上幌向町 幼虫(第一世代) キアシナガサムライコマユバチ
    Nomuraea rileyi
    上幌向町比布町 幼虫
    (第二世代)
    キアシナガサムライコマユバチ
    Nomuraea rileyi
    上幌向町
    比布町
    愛別町
    幼虫
    (第三世代)
    キアシナガサムライコマユバチ
    Nomuraea rileyi
    Zoophthora sp.
    上幌向町
    (第二世代)
    アオムシヒラタヒメバチ

  4. 成果の活用面と留意点
    ① 天敵類を利用した生物防除法を確立する上での基礎資料とする。

  5. 残された問題点とその対応
    ① 生物多様性の基礎研究としての水田環境昆虫相の把握。
    ② 天敵主要種の生活史と行動習性、天敵機能評価などの解明。
    ③ 対象害虫以外の生物に影響の少ない選択的薬剤の探索
    ④ 慣行的農作業が天敵類やその他の昆虫類に及ぼす影響の解明。