１．目的
　放牧地における堆肥の施用量及び施用後の入牧時期が採食性に及ぼす影響を春施用を中心に検討し、堆肥施用の有効性を明らかにする。

２．方法
１）堆肥の春施用が採食性に及ぼす影響
　①小規模試験
　　　入牧時期6水準（施用後20日目、30日目、40日目、50日目、１番草採草後20日目、30日目）×堆肥施用量3水準［堆肥区：Ｍ８区：堆肥8t/10a（＋化学肥料2.7−0−0kg/10a）、Ｍ４区：堆肥4t/10a（＋化学肥料3.7−1.3−0kg/10a）、Ｍ２区：堆肥2t/10a（＋化学肥料4.3−2.0−0kg/10a）、対照区：化学肥料5−2.7−2.7kg/10a］、平成8年5月1日施用
　　試験区の配置等：乱塊法3反復1区4㎡、1牧区126㎡（除外含む）、供試家畜数：4頭
　　調査項目：喫食草高、採食面積、牧草成分等　
　②実用規模試験
　　　入牧時期2水準（施用後20日目、30日目）×入牧回次2×堆肥施用量3水準［処理は小規模試験と同じ］、平成10年4月30日施用
　　試験区の配置等：乱塊法2反復1区99㎡、1牧区819㎡（除外含む）、供試家畜数：11頭
　　調査項目：喫食草高、採食面積、牧草成分等
２）堆肥の秋施用が採食性に及ぼす影響
　　　入牧時期2水準（入牧時草丈20㎝、30㎝）×堆肥施用量3水準［処理は春施用の小規模試験と同じ、化学肥料は翌年春施用］、平成8年11月8日施用
　　試験区の配置等：乱塊法3反復1区6㎡、1牧区198㎡（除外含む）、供試家畜数：4頭
　　調査項目：喫食草高、採食面積等
　

３．結果の概要
［春施用］
１）堆肥施用が採食性に及ぼす影響は10a当り2t及び4tの施用では施用後20日目入牧で認められたが、施用後30日目入牧ではほとんど認められなかった（表１、２）。
２）施用後20日目入牧の１回目で認められた堆肥施用が採食性に及ぼす影響は、２回目ではほとんど認められず、影響は１回目までと考えられた（表３）。
３）兼用利用における１番草を採草した後の放牧では堆肥区は対照区とほぼ同等の採食性を示し、堆肥施用が採食性に及ぼす影響は小さかった（表４）。
４）放牧利用及び兼用利用のいずれの入牧時期とも、堆肥区と対照区の間にCP、硝酸態窒素、ADF及びNDF等の牧草成分の含量に明らかな差は認めらず、堆肥施用がこれらの牧草成分に及ぼす影響は小さいと考えられた（表５）。
［秋施用］
５）10a当り8tまでの堆肥の秋施用が採食性に及ぼす影響は小さいと考えられた（表６）。しかし、秋施用の場合、融雪水による肥料養分の流亡が環境に与える負荷が懸念されるので、これらの観点からの検討が必要と考えられた。
６）以上のように、春施用では10a当り4t以下の施用量で採食性に与える影響は小さかったが、実際の施用に当たっては施肥標準の養分量から2t以下とする。また、１回目の入牧時期は施　用後30日目が適当と考えられた。

表１　春施用における喫食草高（㎝）　（小規模試験）

処理	施用後20日目入牧				施用後30日目入牧
	入牧時	１時後	２時後	退牧時	入牧時	30分後	２時後	退牧時
Ｍ８	16	16	16	14	20	11	10	10
Ｍ４	15	13	13	12	19	10	9	9
Ｍ２	15	13	12	12	19	9	8	9
対照	14	11	11	10	18	8	8	9

　　注）入牧時は草丈。

表２　春施用における採食面積（観察％）　（小規模試験）

処理	施用後20日目入牧				施用後30日目入牧
	30分後	１時後	２時後	退牧時	10分後	40分後	２時後	退牧時
Ｍ８	0	3	3	8	20	20	27	93
Ｍ４	5	8	10	23	23	33	57	93
Ｍ２	15	17	20	28	23	33	57	95
対照	27	40	52	85	23	33	70	98

表３　施用後20日目入牧における退牧時の成績
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（春施用：実用規模試験）

処理	１回目			２回目
	喫食 草高１）	採食 面積２）	採食 程度３）	喫食 草高１）	採食 面積２）	採食 程度３）
Ｍ８	9	55	30	10	93	60
Ｍ４	9	60	30	10	88	58
Ｍ２	9	60	35	9	93	65
対照	7	90	65	8	95	70

　注１）㎝　　２）観察％　　３）観察％、可食部分の採食程度。

　表４　兼用利用における採食
　　　　面積（観察％）（小規模試験）

処理	採草後20日目入牧
	15分後	１時後	退牧時
Ｍ８	60	82	85
Ｍ４	57	87	83
Ｍ２	67	78	82
対照	73	87	85

表５　入牧時期別の牧草成分（乾物中％）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（実用規模試験）

処理	施用後20日目入牧				施用後30日目入牧
	CP	硝酸態 窒素	ADF	NDF	CP	硝酸態 窒素	ADF	NDF
Ｍ８	22.9	0.05	21.3	40.5	16.1	0.08	22.9	45.9
Ｍ４	23.5	0.06	21.1	39.8	16.3	0.04	21.8	43.1
Ｍ２	22.8	0.03	20.9	41.2	17.1	0.03	22.1	43.3
対照	25.2	0.03	22.0	43.6	16.4	0.03	23.4	47.2

　注）硝酸態窒素はRQフレックスにて測定。

表６　秋施用における採食面積（観察％）

処理	採草後20日目入牧
	10分後	30分後	50分後	退牧時
Ｍ８	23	50	63	70
Ｍ４	27	50	63	70
Ｍ２	20	43	60	70
対照	23	53	67	73

４．成果の活用面と留意点
１）天北地域の鉱質土の放牧地で得られた成績である。
２）堆肥施用に伴う減肥は「土壌診断に基づく施肥対応」に準じて行う。

５．残された問題点とその対応
１）集約放牧や堆肥の秋施用が周辺水系の環境負荷に及ぼす影響の解明　
２）放牧地における堆肥の連年施用が収量、採食性及び草種構成に及ぼす影響の解明