成績概要書                  (作成 平成11年2月3日)
課題の分類   北海道   総合研究   農業物理
研究課題名       乳牛ふん尿の固液分離特性
        (固液分離機の開発および低コスト貯留施設の開発)
予算区分  道費(糞プロ)
担  当  根釧農試 研究部 酪農施設科
研究期間  平成6〜10年度
協力分担   な し

1.目的
 牛舎から搬出される糞尿は、堆肥化のためには水分が高く、液状として扱うには水分が低すぎる。糞尿の取り扱い易くするために、固液分離機が導入利用されているが、糞尿性状によって処理量が大きく変わるなど、利用にあたって不明な点が多い。そこで、水分や粘度等による糞尿の分離特性を明らかにするとともに、既存の固液分離機の分離方式別に、処理能力、分離後の固・液分の水分等を検討して、効率的な糞尿の分離法を明らかにする。

2.方法
1)糞尿性状別の分離特性
糞尿水分と粘度、および希釈材料(水道水、曝気液、固液分離液)による糞尿の分離特性
2)静的分離法の検討

加圧法:トラクタを重石にした時の糞尿分離の可否を検討
減圧法:真空ポンプで吸引した時の糞尿分離の可否を検討

3)市販固液分離機の方式別分離特性
 市販されている機種の固液分離性能を、方式別に検討するとともに、現地導入農家の聞き取り調査による、耐久性と運転状況の把握

3.結果の概要
1)スラリーの粘度は糞尿の乾物割合によって指数的に変化し(図1)、スラリーを水道水で希釈して搾汁した方が、分離後の固形物水分が低く、分離液の回収率も高かった(図2)。
2)水道水あるいは曝気液で希釈した場合、分離後の固形物水分は分離液で希釈したものよりも低かった(図3)。[分離液中の水]と[希釈に用いた水]の比は、水道水希釈では[希釈に用いた水]を超える2〜4.5倍の水が回収され、曝気液でもこれに準ずる量の水が、分離液口から回収された。しかし、固液分離液による希釈では1〜2倍の範囲で、分離改善効果はほとんどないと判断された(図4)。これらのことから、固液分離する場合のスラリーは、水道水あるいは曝気液で、水分91%〜92%、粘度2000mPa・s程度に希釈するとよい。
3)静的分離法による搾汁は、原料粘度を低くすることによって可能であったが、原料の投入方法、重石のバランス、除液後の真空ポンプの連続運転、分離後の固形物水分が高いなど問題点が多く、実用施設設計までは至らなかった。
4)市販機種の方式別分離特性は、スクリュープレス方式の処理能力は7〜11t/hで、分離後の固形物水分は70〜78%である。ローラプレス方式の処理能力は10〜12t/hで、分離後の固形物水分は75〜81%である。圧縮方式の処理能力は約6t/hで、分離後の固形物水分は約79%である。バーンクリーナ用分離機の処理能力は約2t/hで、分離後の固形物水分は約85%である(表1)。
5)聞き取り調査では、導入後、2〜5年間で、分離用スクリーンを2〜5回交換していた。原料を分離液、曝気処理液で希釈している例が多く、原料水分は87.5%〜92.8%であった。破損の主なものとして、牛舎の新築時に導入した事例で、工事でのコンクリート片等が糞尿中に混入して機械の破損を招いていた(表2)。


図1 スラリーの乾物割合と粘度(約20℃)


図2 調製水分と分離液の回収率(簡易圧搾試験)


図3 希釈液別の調製水分と固形物水分


図4 (希釈に用いた水)に対する(分離液中の水)の比率

表1 市販固液分離機の分離性能
方式 原料水分
(%)
原料粘度
(mPa・s)
流量(t/h) 水分(%) 固口流量
割合(%)
備考
固口 液口 合計 固形物 分離液
SP-1 91.96 280 3.51 7.27 10.78 77.73 96.16 32.53 縦溝
SP-2 92.34 1.05 5.61 6.66 69.44 96.57 15.75 φ1.5mm
RP-1 91.95 2.37 9.85 12.22 75.16 96.13 19.38 農試
RP-2 91.97 475 2.09 8.10 10.19 80.98 95.49 20.58 農試
PP-1 87.5 1.9 4.2 6.1 79.0 91.4 31.15 現地
BS-1 85.57 1.64 0.44 2.08 84.77 88.47 78.85 現地
 SP:スクリュープレス、RP:ローラプレス、PP:圧搾方式、BS:バーンクリーナ用

表2 市販機種導入農家での聞き取り調査結果(1998、スクリュープレス式)
農  家 II UM GD IT ST SZ TK HR TH SK AZ
導 入 年 H5 H5.12 H7 H8.2 H8.4 H6.7 H5 H5.11 H7.5 H5.6 H5
運転状況 通年 通年 通年 通年 通年 通年 通年 通年 冬× 冬× 中止
スクリーン交換回数 3 2 2 2 0 1 1 1 0 1 4〜5
希釈の有無 なし 曝気液 なし なし 洗浄水 洗浄水 分離液 分離液 曝気液 曝気液   
原料水分 (%) 89.17 90.90 92.48 90.78 91.30 87.51 91.90 92.83 92.35      
粘 度 (mPa・s) 7500 5200 1600 4900 3400 13500 1820 1080 3400      

4.成果の活用面と留意点
①分離のために洗浄水等で希釈する場合には、分離液の貯留槽容量は十分な大きさとする。
②固液分離機を牛舎工事等と同時に導入するときは、コンクリート片などの異物除去に留意する。

5.残された問題とその対応
①ミルカ洗浄水、殺菌水による希釈と分離後の糞尿性状(発酵の可否、散布時の問題の有無)。