課題の分類 北海道 総合研究 農業物理 研究課題名 簡易貯留施設の設計と雨水の蒸発量 (固液分離機の開発および低コスト貯留施設の開発) 予算区分 道費(糞プロ) 担 当 根釧農試 研究部 酪農施設科 研究期間 平成6〜10年度 協力分担 な し |
1.目的
糞尿貯留施設の実態調査によれば、農家所有の尿だめの容量は50〜100日分の貯留容量しかなく、河川等への流出や不適切な期間での散布が懸念される。これを防ぐためにも貯留容量の増大が求められているが、施設建設費が高く低コストでの貯留施設の開発が望まれている。そこで、自家施工が可能で簡易な貯留施設構造を検討する。さらに、貯留施設での雨水の蒸発量が不明であり、雨水の混入により貯留容量が不足する場合が多いため、雨水の混入量とその蒸発量を明らかにして、貯留施設設計時に加算すべき雨水の量を提示する。
2.方法
1)簡易貯留施設の構造(根釧農試)
自家施工可能なコンクリートパネル、廃サイロなどを利用して、尿溜やスラリー貯留用の簡易な施設構造を検討した。
2)貯留施設における蒸発量(根釧農試)
ラグーンにおける貯留量を計測し、根釧農試の降雨量データと比較して蒸発量を推定した。
3.結果の概要
1)土木工事用コンクリートパネルを用いて、3.5m×3.5m×1.65mの貯留容量20.2m3の簡易貯留槽を設計、製作した(図1)。パネルの組み合わせによって、貯留量の増加は可能である。この簡易貯留槽は各種ばっ気槽、レセプションピットとして利用したが、壁面からの漏れなどはなく十分実用的であることが確認された。
2)解体された大型気密サイロの壁面パネルを用いて、直径15.6m×深さ2.5m(パネル2段)のスラリーストアを設計、製作した(表1)。水道水を貯留して攪拌型のばっ気ポンプを運転した。組立時のパネル継ぎ目のシール不足部からの漏水はあったが、破損や変形はなく実用可能であることが確認できた。パネルを3段とすることで貯留容量は745m3とできる。この時の施工費用は約550万円である(投入・搬出設備は除く)。
3)根釧農試内の簡易被覆ラグ−ンの降雨による貯留量を実測し、農試内アメダスデ−タの降雨量との対比から蒸発水量を推定した(表2)。5月28日から11月28日まで観測の観測によれば蒸発水量の割合は気温や日照の影響で大きく変動した。全期間の積算降雨量は806.4mmで、換算貯留量は504m3となった。実測貯留量は404.13m3で、蒸発水量は99.87m3と計算され、降雨量の20%であった。
図1 コンクリートパネルによる簡易貯留槽
形 式 |
気密 サイロ |
実規模 モデル |
設計 のみ |
直径(m) | 7.8 | 15.6 | 20.0 |
1段のパネル数 | 9 | 18 | 24 |
実際の直径(m) | 7.8 | 15.6 | 20.6 |
平面積(㎡) | 48 | 191 | 333 |
深さ1mあたりの容量(m3) | 48 | 191 | 333 |
2段の時の容量(h=2.5m) | 120 | 478 | 833 |
3段の時の容量(h=3.9m) | 187 | 745 | 1299 |
総パネル枚数(2段) | 18 | 36 | 48 |
総パネル枚数(3段) | 27 | 54 | 72 |
表2 降雨量と簡易被覆ラグ−ンの貯留量および蒸発水量(1997)
期間 |
降雨量 (mm) |
降雨貯留量 (m3) |
実貯留量 (m3) |
蒸発水量 (m3) |
蒸発/降雨 (%) |
水分蒸発量 (kg/m2・日) |
日照時間 (h) |
平均気温 (℃) |
5/28〜 6/30 | 101.0 | 63.13 | 52.61 | 10.52 | 17 | 1.11 | 76 | 11.7 |
7/ 1〜 7/28 | 24.0 | 15.00 | -1.07 | 16.07 | 107 | 1.94 | 116 | 17.8 |
7/29〜 8/25 | 216.5 | 150.31 | 117.00 | 33.31 | 22 | 3.83 | 46 | 14.7 |
8/26〜 9/25 | 145.5 | 90.93 | 69.43 | 21.50 | 24 | 1.93 | 82 | 14.5 |
9/26〜10/27 | 156.4 | 97.75 | 74.07 | 23.68 | 24 | 1.93 | 150 | 9.0 |
10/28〜11/28 | 161.0 | 100.63 | 94.58 | 6.05 | 6 | 0.46 | 135 | 4.7 |
全期間 | 806.4 | 504.00 | 404.13 | 99.87 | 20 | 1.60 |
4.成果の活用面と留意点
①廃サイロ利用のスラリーストアは十分な強度を持つように設計すること。
②雨水の混入する糞尿貯留槽は、少なくとも貯留期間の降水量の60%(全道平均)〜80%(根釧地域)を貯留容量に加えて設計する。
5.残された問題とその対応
①簡易貯留施設での簡易な雨水分離技術の検討。