成績概要書              (作成 平成11年2月3日)
課題の分類     北海道  総合研究  農業物理−
             北海道  生産環境  土壌肥料
                  畜産・草地    草地−
研究課題名:乳牛ふん尿のばっ気処理技術の確立
予算区分:共同研究(道立相互)
担  当  科:根釧農試研究部酪 農施設科、土壌肥料科
研究期間:平成 8年〜10年度
協力分担関係:工業試験場 資源エネルギー部
          省資源プロセス科

1.目的
 近年、経営規模の拡大等による飼養頭数の増加に伴い、家畜糞尿による悪臭などの環境汚染が問題となっている。スラリーは生状態での散布が多く、糞尿の取り扱い性、散布時の臭気および散布後の牧草収量等に多くの問題が指摘されている。そこで、適正な曝気処理で糞尿の臭気低減と取り扱い性の改善を図るとともに、実規模施設による運転方法と曝気効果を明らかにする。さらに、乳牛スラリーに対する曝気処理の影響を、牧草地に対する施肥効果の面から評価する。

2.試験方法

1)曝気処理装置の構造と性能特性

2)バッチ処理方式による曝気処理効果

3)連続投入方式による曝気処理効果

4)曝気処理糞尿の散布と草地再生状況等調査


図1 実規模曝気施設の概略図

                               

3.結果の概要

1)遠心吸引式曝気ポンプは、撹拌力が弱く総括酸素移動容量係数はエジェクタ式の約63%であった。撹拌力と総括酸素移動容量係数からみて、エジェクタ式曝気ポンプの方が効率がよいと判断された。
2)曝気槽を空にして分離液14.63m3(水分96.10%)を投入し、送気量168m3/日でバッチ処理方式の曝気をした。急激な発泡が見られたため、サラダオイルを投入して消泡した。この送気条件では、約18時間でオイルの消泡効果は消えた。7日間で急激な発泡期間は終了した。処理液の温度は15℃から徐々に上昇し、6日目で20.1℃となり12日目は17.3℃程度であった。pHは2日目で8.81、10日目で9.01となった。ORPも11日目には+99mVとなった(表1、3)。
3)一般的なバッチ処理運転方法を想定し、汚泥5.73m3を残して、新たに分離液13.35m3(水分95.11%)を投入し、送気量126m3/日で曝気した。急激な発泡はなく、消泡ポンプの運転で十分であった。処理液の温度は、17.8℃から上昇し6日目で25.1℃となり、12日目で22.1℃となった。pHは開始時に8.02で、10日目に8.89となった。ORPは-187mVから一旦低下し、数日間-350mV程度を維持した後、上昇し11日目で+12mVとなった(表2、3)。
4)曝気終了の条件を「臭気の低減が図られ、曝気も安定した状態」とすると、①空の曝気槽に原料を入れて曝気をした場合:積算風量が原物1tあたり約100(乾物1kgあたり2.0)m3になった時、②残汚泥がある曝気をした場合:積算風量が原物1tの約80(乾物1kgあたり1.5)m3になった時を曝気処理終了の目安とできる。しかし、このようにすると、アンモニア態窒素は20%程度低下する。この時のORPは-100mV以上の値で、処理液の色は「暗褐色」から「黒褐色」であった(表3)。
5)希釈法による立ち上げでは、急激な発泡に対して投入を休止して対応したが、安定した状態を維持するのは難しかった。これに対し、あらかじめバッチ処理で立ち上げを終了させてから連続投入試験に移った場合には、1日の投入量(2.25t)に対する積算風量を96〜101倍(216m3/日〜228m3/日)に設定して運転することで、急激な発泡状態を越えた安定した状態を維持できた。
6)曝気処理によって、スラリー中のアンモニアが揮散するため、肥料成分が減少し、牧草の収量低下が認められた。また、スラリーに曝気処理をしても、施用窒素の吸収利用率等には影響がないことが明らかとなった(表4)。

表1 空状態からのバッチ処理試験(電力には消泡用も含む、1998)
月日 日数
(日)
外気温
(℃)
処理液
(℃)
水分
(%)
粘度
(mPa・s)
pH ORP*
(mV)
DO*
(mg/L)
積算電力
(kWh)
10月27日 0 6.1 15.1 96.10 34.0 7.94 -341 0.48 0
10月29日 2 5.8 18.2 96.45 28.5 8.81 -243 0.28 58.1
11月2日 6 3.4 20.1 96.49 29.5 8.92 -109 0.73 171.5
11月6日 10 2.4 17.7 96.78 37.5 9.01 -44 0.53 287.7
11月8日 12 8.1 17.3 96.59 35.5 9.02 116 2.61 344.4
 *:ORP:酸化還元電位、DO:溶存酸素濃度

表2 残汚泥ありのバッチ処理試験(電力には消泡用も含む、1998)
月日 日数
(日)
外気温
(℃)
処理液
(℃)
水分
(%)
粘度
(mPA・s)
pH ORP
(mV)
DO
(mg/L)
積算電力
(kWh)
10月12日 0 12.1 17.8 95.11 37.0 8.02 -187 0.39 0
10月14日 2 13.1 24.4 95.75 33.0 8.50 -333 0.08 57.9
10月18日 6 10.9 25.1 95.92 27.0 8.76 -349 0.12 177.4
10月22日 10 6.0 23.8 95.88 28.0 8.89 -170 0.12 299.4
10月24日 12 5.7 22.1 96.02 26.0 8.90 16 0.42 359.9

表3 バッチ処理での送気空気量とORP、T−N、NH−N変化
日数 空状態からのばっ気処理試験 残汚泥ありのバッチ処理試験
ORP Va/Vt* Va/Vs* T-N NH4-N ORP Va/Vt* Va/Vs* T-N NH4-N
0 -341 0.0 0.0 0.357 0.151 -187 0.0 0.0 0.322 0.172
6 -109 52.8 1.1 0.350 0.132 -349 39.6 0.8 0.302 0.170
10 -44 88.1 1.8 0.341 0.121 -170 66.0 1.4 0.298 0.144
11 99 96.9 2.0     12 72.6 1.5    
12 116 105.7 2.2 0.294 0.119 16 79.2 1.6 0.300 0.119
 *Va:積算送気量(m3)、Vt:分離液投入量(m3)、
  Vs:原料乾物量(kg)、乾物・積算風量比(積算風量m3/原料乾物重kg)

表4 乾物収量 kg/10a
処 理 処 理 1996 1997 1998
1番草 2番草 年間 1番草 2番草 年間 1番草 2番草 年間
1 対 照 74 67 72 18 55 26 17 41 21
2 原 料 575 284 858 463 118 581 475 96 571
3 第1曝気槽 99 95 98 79 78 79 88 88 88
4 第2曝気槽 91 87 90 76 78 77 77 63 75
5 沈 降 槽 89 84 87 76 97 80 80 71 78
 注)原料区は実数,他は各々の原料区を100とした指数表示

4.成果の活用面と留意点

1)乳牛糞尿の曝気処理をする場合には、固液分離液を用いる。
2)曝気処理施設は、アンモニア揮散や臭気の拡散防止のため、ビニールハウス等で覆い、さらに各曝気槽をビニールで覆う必要がある。
3)曝気処理をしたスラリーを草地に施用する場合は、養分含量を把握して適正な施肥対応を実施する。
4)立ち上げ時には特殊な菌などを用いなくとも、約2週間で種汚泥を形成することができる。
5)急激な発泡で消泡が困難な場合には、処理液量の0.05%容量の天ぷら油等を投入すると、消泡が容易になる。
6)オーバーフロー用のパイプは、寒冷時に凍結するので、断熱・保温をする必要がある。
7)臭気が低下した曝気処理液でも、嫌気状態で貯留されると臭気強度が上昇するので、少量の曝気を継続する必要がある。

5.残された問題とその対応

1)曝気処理時のアンモニア揮散防止。
2)曝気処理による大腸菌数、菌群数等の推移。