成績概要書                            (作成 平成11年1月)
課題の分類:北海道   生産環境      土壌肥料
                畜産・草地     草地−
研究課題名: 堆肥、スラリー、尿の養分含量推定法と肥効率の設定
(予算課題名:家畜糞尿利用技術開発事業
      Ⅰ.環境容量の設定 (2)牧草地・畑作・野菜に対する糞尿還元量の設定 ①牧草地)
予算区分:道費
研究期間:平成9〜10年度
担 当 科:根釧農試研究部土壌肥料科
      新得畜試生産技術部環境資源科
      十勝農試研究部土壌肥料科
      天北農試研究部土壌肥料科,泥炭草地科
      中央農試環境化学部土壌生態科
協力分担関係:

1.目的
 家畜糞尿の積極的な活用を促進するため,簡易な分析機器を用いて糞尿処理物中の養分含量を推定する手法を明らかにする.また,草地へ還元した糞尿に含まれる養分のうち,牧草に利用される割合すなわち「肥効率」を糞尿処理物の形態別に設定する.

2.方法
堆肥,スラリー,尿の養分含量推定法

表1 堆肥、スラリー、尿の養分含量を推定するための簡易分析方法

測定項目 対 象 物 分 析 方 法
電気伝導度
(EC, mS/cm)
25℃補正値
堆肥 堆肥(現物)100gに脱塩水500mlを添加.30分間振とう後,懸濁液のECを測定.
スラリー スラリー(現物)50gに脱塩水50mlを加え,良く混和した後,懸濁液のECを測定.
尿 尿(原液)のECを測定.
アンモニア態窒素
(NH4-N)
堆肥,スラリー 1. 試料現物に10% KClを加え,30分間振とうした後,濾過.
 (堆肥:100g+10%KCl 500ml,スラリー:20g+10% KCl 200ml)
2. 使用する試験紙の濃度範囲に合わせて濾液を適宜希釈.
3. 簡易型反射式光度計の所定の方法によりNH4濃度を測定.
4. 標準液を用いた補正係数と希釈倍率に応じてNH4-N含量を算出.
乾物率 (DM,%) 堆肥, スラリー, 尿 糞尿処理物(現物)を105℃で24時間以上乾燥後,重量割合を算出.

堆肥,スラリー,尿の肥効率の設定

供試草地:チモシー「ノサップ」単播草地, 供試土壌:火山性土(根釧),台地土・泥炭土(天北)
糞尿施用量:堆肥(4, 8t/10a),スラリー(T-N換算で18〜40kgN/10a),尿(T-N換算で7〜28kgN/10a)
施用時期:秋全量,春全量,秋・春分施,1番草収穫後(尿のみ)
調査項目:牧草収量,養分吸収量,糞尿処理物の化学成分と肥効率の関係(堆肥 24,スラリー 22種)

3.結果の概要

(1)EC(電気伝導度)の測定により,堆肥のK,NH4-N含量,スラリーのT-N,NH4-N,K含量,尿のT-N,NH4-N,K含量の推定が可能であり,これにDM(乾物率)を加えた重回帰式によって堆肥のT-Nおよび堆肥,スラリー,尿のP含量の推定ができる(表2,図1).
(2)簡易型反射式光度計の利用により,ECとDMを変数とした推定式よりも高い精度で,堆肥,スラリー中のNH4-N含量の推定ができる(図2).
(3)春施用した堆肥の窒素肥効率(NR %, 年間)は,概ね17%前後であったが,秋施用では春施用と比べ5割程度低下し,1番草における肥効率に大きな差が認められた.スラリーでは施用時期により10〜33%と大きく変動し,火山性土および台地土では春施用≧秋・春施用>秋施用,泥炭土では秋・春施用>春施用>秋施用の順に高い値を示した.尿では土壌の違いに関わらず春施用>秋施用の関係が認められた.このように,糞尿処理物の窒素肥効率は施用量よりも施用時期により大きく変動する(図3).
(4)糞尿処理物の化学成分とNRの関係を検討したところ,堆肥では水分(MC, %)との間にNR=0.0187MC2−2.179MC+72.945(R2=0.392), ECとの間にNR=−0.9594EC2+7.2709EC+5.2855 (R2=0.387)の関係が認められ,スラリーでは乾物中のアンモニア態窒素含量(NH4-N/DM, %)との間にNR=−1.128(NH4-N/DM)2+10.62(NH4-N/DM)+5.3306 (R2=0.539)の関係が認められた(図4).
(5)本試験で得られた肥効率と既往の報告から,草地に施用した乳牛糞尿処理物の基準肥効率(Rs, %)を設定した(表3).Rは施用量(A),施用時期(T),品質(Q)などによって大きく変動するので,R=Rs×A×T×Q×・・・によって求めることができ,これに糞尿処理物の養分含量(C, kg/t)を乗ずることにより,糞尿処理物から供給される養分量(Y, kg/t)を評価することができる(Y=C×R).


図1 スラリーのECとNH4-N,K20含量の関係

表2 EC,DMを変数とした糞尿中養分含量(現物中 %)推定式
糞尿種類 項 目 回 帰 式 ( R2 ) ( n )
堆 肥 T-N ① 0.0627 EC + 0.4175
② 0.0459 EC + 0.0124 DM + 0.1249
0.187**
0.510**
128
128
NH4-N ③ 0.0256 EC−0.0153 0.562** 128
P2O5 ④ 0.0363 EC + 0.3073
⑤ 0.0238 EC+0.0092 DM+0.0918
0.113**
0.433**
128
128
K2O ⑥ 0.1428 EC + 0.1601
⑦ 0.1341 EC + 0.0071 DM−0.0041
0.610**
0.687**
128
128
スラリー T-N ⑧ 0.0445 EC−0.0438
⑨ 0.0314 EC + 0.0172 DM−0.0553
0.792**
0.882**
183
183
NH4-N ⑩ 0.0009 EC 2 + 0.0091 EC+0.008
⑪ 0.0201 EC + 0.0037DM−0.0412
0.800**
0.827**
183
183
P2O5 ⑫ −0.0008 EC 2 + 0.0281 EC0.0247
⑬ 0.0069 EC+0.0119 DM+0.0090
0.376**
0.518**
183
183
K2O ⑭ 0.0387 EC + 0.0268
⑮ 0.0338 EC + 0.0063 DM + 0.0236
0.684**
0.698**
183
183
尿 T-N ⑯ 0.0148 EC−0.0366 0.909** 129
NH4-N ⑰ 0.0086 EC−0.003 0.858** 36
P2O5 ⑱ 0.0036 DM 2 + 0.0025 DM+0.0138 0.670** 129
K2O ⑲ 0.0235 EC−0.0268 0.914** 70


図2 簡易型反射式光度計によるスラリー中
   NH4-N含量の測定値と実測値の関係


図3 スラリーの施用時期、施用量と窒素肥効率の関係


図4 スラリー乾物中のNH4-N含量と
   年間窒素肥効率の関係

表3 草地に施用した乳牛糞尿処理物の基準肥効率(Rs)
  肥効率(%)
N P2O5 K2O
当年 2年目 3年目 (当年) (当年)
堆  肥 25 10 5 30 90
スラリー 40 30 90
牛  尿 70 30 90

4.成果の活用面と留意点
1) 肥効率の設定は採草地の維持段階を対象とし,「北海道施肥標準」および「土壌診断に基づく施肥対応」に準拠する.
2) 堆肥,スラリー,尿の分析にあたっては,現物を代表する均一な試料を採取する.

5.残された問題点とその対応
1) 推定法の対象とする畜種および肥効率に基づいた施肥対応を可能とする作物種の拡大.
2) 環境保全を考慮した適正な糞尿施用時期の設定と肥効率向上のための施用方法の改善.
3) 草地更新時に施用した糞尿処理物の肥効率変動要因の解析と施肥対応.