成績概要書                            (作成 平成11年1月)
課題の分類:北海道  生産環境  土壌肥料−
               畜産・草地 草  地
研究課題名:草地に対する適正な糞尿還元量の設定
(予算課題名:家畜糞尿利用技術開発事業
Ⅰ.環境容量の設定 (2)牧草地・畑作・野菜に対する糞尿還元量の設定 ①牧草地)
予算区分:道費
研究期間:平成6〜10年度
担当科:根釧農試 研究部 土壌肥料科,酪農第二科
       天北農試 研究部 泥炭草地科
協力分担関係:

1.目的
酪農地帯の環境保全を前提に,家畜糞尿の有効利用と品質・収量を満足する適正な糞尿還元量を設定する.

2.方法
供試草地:チモシー「ノサップ」単播およびシロクローバ「カリフォルニアラジノ」との混播草地
供試土壌:黒色火山性土(根釧農試場内)
糞尿施用量:堆肥(0, 4, 6, 8, 12, 18t/10a),スラリー(T-N換算で10〜40kgN/10a),対照区(糞尿無
施用および施肥標準区)
調査項目:牧草収量,草種構成,養分吸収量,牧草体ミネラル含量,土壌中硝酸態窒素残存量,
乳牛に対するサイレージ給与の影響(飼料摂取量,乳量,乳成分,血液成分)

3.結果の概要


(1)12t/10a以上の堆肥を表面施用することにより,牧草茎数の減少および草種構成の悪化と牧草体カリウム含量の上昇を招き,吸収されなかった硝酸態窒素が収穫跡地土壌に残存した(表1,図1).
(2)スラリー施用量が全窒素換算で30kg/10aを超えた場合,牧草収量の増加は頭打ちとなり,牧草体カリウム含量の上昇に伴ってミネラル組成が悪化した(表2).その牧草をサイレージ調製して乳牛に給与したところ,乳量および血中マグネシウム濃度が低下した(表3, 4).
(3)堆肥に含まれるリン酸,カリウムは施用後速やかに放出され,その肥料効果は速効的であり,窒素は有機物の分解に伴って放出され,その肥効は施用後の日数経過に伴って徐々に発現した(図2).
(4)チモシー単播草地(マメ科率による区分4)において,北海道施肥標準で設定した目標収量は,4t/10aの堆肥を連用したうえで8kg/10a,または8t/10aの堆肥を連用したうえで4kg/10a程度の窒素を補うことでほぼ達成できる.その場合,不足分のリン酸,カリウムを補うことが必要である.
(5)維持管理時のチモシー単播草地に表面施用された堆肥から供給される窒素の配分を対照区との差し引きにより求めたところ,約34%は牧草に利用され,約32%は草地表面に蓄積し,残り34%の行先は不明であった.
(6)維持管理時の混播草地に対し,堆肥を4〜6t/10a連用する場合,不足するミネラルの補給を適正に行うことによって,マメ科率の維持および施肥標準区と同等の収量確保が可能であり,その場合,肥効率を考慮したうえで堆肥から牧草に供給されるカリウム量を把握し,施肥標準相当量以上のカリウムを供給しないことによって粗飼料のミネラル組成悪化を防ぐことが可能である.不足する養分を補填するには,施肥標準量に対する不足量を早春と1番草収穫後に2:1に分けて施用するか,カリウム低減型施肥法(平成10年 指導参考事項)に従って算出した施肥量に対する不足分を1番草収穫後に全量施用することが適当である(図3, 4).
(7)以上の結果に基づき,適正な糞尿還元量を①牧草地としての生産性を維持し,②牧草ミネラル組成が施肥標準に準じて栽培した場合より悪化せず,③土壌中の硝酸態窒素残存量を最小限にとどめる範囲と位置づけ,施用した家畜糞尿から牧草に供給される養分量(N, P, K)のいずれかが施肥標準量に達するまでの量とし,牧草生育に必要な養分量のすべてを糞尿から供給される養分で代替する場合をその上限量とする.
(8)適正な糞尿還元量と施肥対応は次に示す手順によって設定する.①施用する糞尿処理物の現物1tから牧草に供給される養分量Y(kg/t, FM)を窒素,リン酸,カリウムの各養分毎に ア)実測,イ)推定,ウ)有機物施用に伴う施肥対応 のいずれかの方法により把握する.②「北海道施肥標準」に従い,対象草地の必要養分量F(kg/10a)を各養分毎に設定する.③糞尿処理物の施用量をA(t/10a, FM)とし,Y×A = Fとなる量を草地に対する適正な糞尿還元量の上限とする.④糞尿から供給される養分量Y×A(kg/10a)と,施肥標準量Fとの差を化学肥料の施用量とする.


図1 堆肥を施用した草地土壌における硝酸態窒素残存量

表1 TY・WC混播草地における堆肥施用量
    と牧草収量および茎数の関係
堆 肥
(t/10a)
乾物収量 kg/10a 茎数1)本/m2
1番草 2番草 年間 TY WC
0 437ac2) 293a 730a 958b 1761b
6 510bc 371b 882b 1008b 2369c
12 514c 460c 973c 814b 1433a
18 442c 431d 873b 553a 1078a
標肥 625bc 402cd 1026d 1258c 2267bc

表2 スラリーの施用量とサイレージ原料草の
   ミネラル組成(乾物%、1994〜97年の平均)
処 理1) N P2O5 K2O CaO MgO
Ctrl 2.02 0.62 3.25 0.26 0.18
N10 2.02 0.69 3.11 0.40 0.23
N20 2.18 0.71 3.39 0.34 0.22
N40 2.73 0.84 4.11 0.36 0.20

表3 GS1)給与試験における乾物摂取量および乳量
年 次 処 理 乾物摂取量 kg/日 乳 量
(kg/日)
GS 濃厚飼料 総摂取量
1995 N10 12.4 6.0 18.4 22.2a2)
N40 11.7 6.0 17.7 20.8b
1996 N10 9.3 8.5 17.8 23.7
N40 9.8 8.5 18.3 23.4
1997 N10 12.7 5.3 18.0 19.3
N40 10.4 5.3 15.7 18.7

表4 サイレージ給与後の血中マグネシウム濃度
    の経時変化(mg/dl,1997年)
処 理 サイレージ給与後の経過時間 (h) 平均
給与時 (0) 3 6 9
N10 2.60 2.60 2.62a1) 2.67a 2.62a
N40 2.23 2.21 2.29b 2.15b 2.22b


図2 草地に埋設した堆肥の分解率および養分放出率の推移

図3 TY・WC混播草地に連用した堆肥施用量
   と乾物収量(1995〜98年の平均)

図4 カリウムの施肥量および施肥配分と牧草体
   カリウム含量の関係(1995〜98年の平均)

4.成果の活用面と留意点
1) 維持管理時の採草地に適用し,植生診断や土壌診断などの基本技術との連携を図る.
2) 糞尿処理物中の養分量には大きな変動があるため,供給される養分量の把握に努める.

5.残された問題点とその対応
1) 草地更新時における適正な糞尿還元量の設定.
2) 家畜糞尿から供給される窒素の挙動解明と,環境負荷を低減する肥培管理技術の確立.
3) 家畜糞尿を主体的に利用した草地管理技術の体系化.