成績概要書         (作成 平成11年 1月)

課題の分類
研究課題名:酪農地帯における糞尿処理・利用技術導入促進の条件
(酪農地帯における糞尿処理・利用技術導入の経営経済的評価)
予算区分:道 費(糞プロ)
担 当 科 : 根釧農試 経営科
研究期間:平9−10年度
協力・分担関係: 十勝農試 経営科

1.目 的
  糞尿処理・利用技術導入を地域全体ですすめ、糞尿による環境負荷の軽減と地域酪農の展開を実現するための条件を検討する。

2.方 法
①糞尿問題深刻化の要因と対策状況整理、②技術導入に対する酪農経営行動の特質把握、③技術非導入の要因解析と投資意思額の計測、④技術の類型化と技術選択行動の特質把握、方式別の費用・労働負担の計測、費用負担の妥当性検証。

3.結果の概要

 1)糞尿問題深刻化は、生乳や個体価格低落を背景に、酪農経営が飼養管理部門に労働や資金を集中し多頭化・高泌乳化を進める中で構造的に生じた。糞尿対策は、同時に構造的問題を緩和し酪農経営の展開を押し進めるものでなくてはならない。
2)今日、糞尿対策として補助率の高い公共事業等が実施されてきた。しかし、新たな技術導入経営は一部にとどまり、今後も地域全体をカバーしない。
3)酪農経営の多くは「対策の必要性の意識はあるが行動には結びつかない」<モラトリアム>にある。環境問題の解決と地域酪農の維持発展には、<モラトリアム>経営への技術導入、および技術導入経営の経営成長が課題となる。
4)<モラトリアム>の要因は、①環境問題の重要性の弱い認識、②適切な解決手段欠如、③他経営課題より低い優先順位にある。要因はファミリィサイクルに規定されて生じ啓蒙による誘導には限界がある。<モラトリアム>経営の糞尿処理への投資意思額は想定事業費の10%程度にとどまる。
5)スラリー方式は、労働・費用負担が堆肥舎方式や固液分離方式より軽く導入が見込まれる(図1)。しかし、スラリー方式でも酪農経営の費用負担は増大し、導入想定頭数規模の経営のうち費用負担可能経営は5割にとどまる(表1、表2、図2)。施設機械の更新や追加投資時における補助金の有無は経営に大きな影響を与えかねない。
6)糞尿処理技術導入促進には、①酪農経営の意識向上のための経営単位の環境負荷量計測・推定手法の開発、②環境保全に対し権限を持った地域組織体制構築と最小限の技術導入の任意性排除、③スラリー方式の低コスト化及び未熟糞尿散布に伴う作業上の制約や環境問題の技術的解決、④技術導入経営の展開の可能性・方向の提示と酪農経営の費用負担能力向上、⑤補助事業の持続性検討等の総合的取り組みが重要となる。
また酪農経営は技術導入にあたり特に持続した費用負担の可否を考慮すること。


図1 生乳1kg当り糞尿処理費用
○点線は事例から推定された長期平均費用曲線
 スラリー方式が最も低コストとなる。
 t〜堆肥舎方式、s〜スラリー方式、k〜固液分離方式

 


図2 費用負担可能区分線
○各点はA町の個々の酪農経営を示す。
 各線分の上部に位置する経営が費用(名目額−従来費用)負担可能経営(表1、表2から特定)。
 t〜堆肥舎方式、s〜スラリー方式、k〜固液分離方式

 

表1 酪農経営の費用負担限界

 ○数値は各頭数・乳量階層での年間費用負担限界額

 

表2 技術導入に伴う費用増加額

○安定した技術導入には補助金を含めた(名目額−従来費用)の負担が必要となる。

 

4.成果の活用面と留意点
 本研究は、糞尿流通の困難な酪農専業地帯を対象に、今後の取り組みの方向を示すものである。

5.残された問題とその対応
本研究で提示した各課題は、糞プロ・パートⅡ等で対応の予定。