新品種候補 (作成 平成12年1月)
課題の分類 新品種候補名 てんさい「Kawe-J7123」 試験場所名 道立十勝農試、北見農試、中央農試、上川農試、根釧農試、北海道農試 北海道てん菜協会(日本甜菜製糖㈱、北海道糖業㈱、ホクレン農業協同組合連合会) |
1.来歴および試験経過
「Kawe-J7123」は、ドイツのクラインワンツレ−ベン育種株式会社が育成した二倍体単胚の一代雑種である。二倍体単胚雄性不稔種子親系統「MS 2A0019」と、二倍体多胚花粉親系統「PS 1R 7597」を交配し、平成5年に育成された。
平成8年に日本甜菜製糖株式会社が輸入し、同年に同社が「MC96-09」の系統名で輸入品種予備試験を行った。
平成9年から11年に「Kawe-J7123」の系統名で、北海道立十勝、北見、上川、中央農業試験場並びに北海道農業試験場において輸入品種検定試験、てん菜協会において品種連絡試験を行った。
平成10年から11年に、十勝農試において栽培特性検定試験、褐斑病抵抗性特性検定試験、根腐病抵抗性特性検定試験、中央農試において耐湿性特性検定試験、根釧農試において抽苔耐性特性検定試験、全道17カ所において現地検定試験を行った。
2.特性及び奨励品種として採用する理由
1)「Kawe-J7123」は、葉姿は「スト−ク」の“やや開平”に対し“直立”で、葉長は“やや短”で「スト−ク」よりやや短く、葉数は“やや多”で「スト−ク」よりやや多い。葉形は「スト−ク」の“楕円”に対して“皮針”で、葉面縮は“中”で「スト−ク」並である。葉身の大きさは“やや小“で「スト−ク」よりやや小さい。クラウンの大きさは“小”、根周は“やや大”で「スト−ク」よりやや大きく、根形は「スト−ク」と同じ“やや短円錐”である。分岐根は“少”である。
2)根重は「スト−ク」よりかなり多く、根中糖分は「スト−ク」より低い。糖量は「スト−ク」よりかなり多い(表1)。
アミノ態窒素は「スト−ク」よりやや低く、カリウム、ナトリウム、不純物価は「スト−ク」並で、品質は良好である(表2)。
抽苔耐性は「モノホマレ」、「スト−ク」並の“強”である(表2)。
褐斑病抵抗性は「モノホマレ」よりやや弱く、「スト−ク」並の“弱”である(表2)。
耐湿性は「モノホマレ」並で、「スト−ク」よりやや弱い“やや弱”である(表2)。
根腐病抵抗性は「モノホマレ」よりやや弱い“弱”である(表3)。
黒根病の発生は「モノホマレ」並からやや多く、「スト−ク」並である(表3)。
現地試験の結果、根重が「モノホマレ」、「スト−ク」より多く、根中糖分は「モノホマレ」よりやや高く、「スト−ク」よりやや低い。糖量では「モノホマレ」、「スト−ク」より多い。(表4)。
3)以上のことから、「Kawe-J7123」を「スト−ク」に替えて北海道一円に普及することにより、農家の収益性向上に大きく寄与できる。
表1 農試及びてん菜協会における成績(平成9〜11年)
場 所 |
系統または 品種名 |
根腐症 状株率 |
抽苔 株 率 |
根重 (t/10a) |
根中糖分 ( % ) |
糖量 (kg/10a) |
「モノホマレ」比 | ||
根重 | 糖分 | 糖量 | |||||||
農 試 |
Kawe-J7123 | 0.9 | 0.0 | 7.13 | 17.36 | 1,235 | 107 | 103 | 110 |
モノホマレ | 1.0 | 0.0 | 6.65 | 16.92 | 1,123 | 100 | 100 | 100 | |
スト−ク | 1.9 | 0.0 | 6.20 | 17.99 | 1,111 | 93 | 106 | 99 | |
協 会 |
Kawe-J7123 | 0.6 | 0.0 | 7.10 | 16.69 | 1,185 | 105 | 102 | 107 |
モノホマレ | 0.1 | 0.2 | 6.73 | 16.41 | 1,104 | 100 | 100 | 100 | |
スト−ク | 1.5 | 0.1 | 6.23 | 17.15 | 1,068 | 93 | 105 | 97 | |
全 平 均 |
Kawe-J7123 | 0.8 | 0.0 | 7.12 | 17.11 | 1,216 | 107 | 102 | 109 |
モノホマレ | 0.7 | 0.2 | 6.68 | 16.73 | 1,116 | 100 | 100 | 100 | |
スト−ク | 1.8 | 0.1 | 6.21 | 17.68 | 1,095 | 93 | 106 | 98 |
表2 品質調査、特性検定試験(平成9〜11年)
系統名 または 品種名 |
品質調査(H9〜11年) | 褐斑病抵抗性 発病程度(十勝) |
抽苔耐性(根釧) 抽苔率(%) |
耐湿性(中央) 腐敗 | |||||||||
有害性非糖分 (meq/100g) |
不純 物価 (%) | ||||||||||||
アミノN | K | Na | 9上 | 10上 | 判定 | H10 | H11 | 判定 | H10 | H11 | 判定 | ||
Kawe-J7123 | 1.78 | 3.98 | 0.45 | 3.97 | 0.82 | 3.83 | 弱 | 0.0 | 0.0 | 強 | 68.1 | 88.0 | ヤヤ弱 |
モノホマレ | 2.08 | 4.49 | 0.57 | 4.66 | 0.68 | 2.96 | ヤヤ弱 | 0.0 | 0.0 | 強 | 69.1 | 91.9 | ヤヤ弱 |
スト−ク | 2.01 | 3.98 | 0.44 | 4.01 | − | − | (弱) | - | - | (強) | − | − | (中) |
表3 根腐病抵抗性特性検定試験、黒根病調査(平成9〜11年)
系統名 または 品種名 |
根腐病発病程度 (十勝農試) |
黒根病発病程度 | ||||
中央農試 | 現地試験 | |||||
H10 | H11 | 判定 | H9〜11平均 | H10 | H11 | |
Kawe-J7123 | 3.64 | 3.73 | 弱 | 0.5 | 0.49(0.31) | 0.50(0.11) |
モノホマレ | 3.55 | 2.62 | やや弱 | 0.5 | 0.35(0.21) | 0.20(0.08) |
スト−ク | − | − | − | 0.4 | −(0.24) | −(0.30) |
表4 現地検定試験成績全道平均(平成10〜11年、17カ所)
系統名 品種名 |
年次 | 根腐症状 株率(%) |
根重 ( t/10a) |
根中糖分 (%) |
糖量 (kg/10a) |
対「モノホマレ」比(%) | ||
根重 | 根中糖分 | 糖量 | ||||||
Kawe-J7123 | H 10 | 0.8(0.0) | 6.62(7.13) | 15.74(15.89) | 1136(1151) | 107(106) | 102(102) | 109(107) |
H 11 | 6.1(3.1) | 6.21(7.33) | 15.71(15.49) | 1013(1178) | 102(105) | 101(104) | 104(109) | |
平均 | 3.4(1.3) | 6.41(7.21) | 15.73(15.72) | 1074(1163) | 105(105) | 102(103) | 106(108) | |
モノホマレ | H 10 | 1.0(0.4) | 6.62(6.73) | 15.74(16.13) | 1043(1074) | 100(100) | 100(100) | 100(100) |
H 11 | 3.1(3.1) | 6.21(6.99) | 15.71(16.09) | 975(1082) | 100(100) | 100(100) | 100(100) | |
平均 | 2.0(1.6) | 6.41(6.84) | 15.73(16.11) | 1009(1077) | 100(100) | 100(100) | 100(100) | |
スト−ク | H 10 | - ( 0.6) | - (6.40) | - (16.72) | - (1076) | - ( 95) | - (105) | - (100) |
H 11 | - ( 5.0) | - (6.45) | - (16.33) | - (1051) | - ( 92) | - (105) | - ( 97) | |
平均 | - ( 2.5) | - (6.42) | - (16.55) | - (1065) | - ( 94) | - (105) | - ( 99) |
3.配布可能種子量
平成12年度 4,000kg 平成13年度以降 6,000kg
4.適応地帯および普及見込面積
北海道一円 平成12年度 4,000ha 平成13年度以降 6,000ha
5.栽培上の注意
1)褐斑病抵抗性は“弱”なので、適期防除に留意する。
2)根腐病抵抗性は既存品種と同様“弱”なので、適期防除に留意する。
3)排水不良な圃場での栽培を避ける。