成績概要書 (作成 平成12年1月)
課題の分類 研究課題名 てんさいの組織培養における系統間差とin vitroでの維持および増殖法 (新しい育種技術に対応するてん菜の効率的培養系の確立) 予算区分 受 託 担当科 中央農試 生物工学部・細胞育種科 研究期間 平成9〜11年度 協力・分担関係 なし |
1.目 的
てんさいの組織培養における系統間差を明らかにするとともに、系統(遺伝子型)に左右されな い再分化系を確立する。さらに培養苗の安定的な維持法および効率的な増殖法を検討する。
2.試験方法
1)てんさい育成系統の組織培養における系統間差異の検討
供試材料は北海道農業試験場育成の12系統(表1)。てんさい実生の下胚軸あるいは培養苗の葉 片を1mg/l BAPを含む培地で培養しカルスを形成。カルスは1mg/l BAP、1mg/l ABA、1mg/l TIBAを 含む培地で不定胚を誘導。カルスおよび不定胚形成、葉片培養では直接不定芽形成も調査。
表1 供試材料
自殖種子親系統 | NK-195mm-O(F-1)、NK-219mm-O(F-2)、NK-220mm-O(F-3)、 NK-229mm-O(F-4)、NK-237BRmm-O(F-5)、NK-244BRmm-O(F-6) |
自家不和合性種子親系統 | NK-169mm-O(I-1)、NK-222BRmm-O(I-2)、NK-252mm-O(I-3)、 NK-280mm-O(I-4) |
花粉親系統 | NK-212BR(K-1)、NK-217BR(K-2) |
3.結果の概要
1)北海道農業試験場育成によるてんさいの6自殖種子親系統、4自家不和合性種子親系統、2花粉親 系統の計12系統を用いて、てんさいの組織培養における特性を比較したところ、著しい系統間差異があることが明らかになった(図1、図2、図3)。
2)特に自殖系統内においては、調査したカルス形成、不定胚形成および直接不定芽形成のいずれの特性においても系統間差が大きかった。「NK-219mm-O」はいずれにおいても高い形成能を示す一方で、「NK-195mm-O」、「NK-229mm-O」および「NK-237BRmm-O」の3系統は全くカルスを形成せず、「NK-220mm-O」は極めて低い不定胚形成率であり、「NK-237BRmm-O」および「NK-244BRmm-O」の2系統は直接不定芽形成を示さないなど、培養の困難な系統が多かった。自家不和合性系統内の系統 間差は比較的小さかった。
3)カルス形成における系統間差異を克服することを目的に、全くカルス形成をしない「NK-195mm-O」および「NK-229mm-O」の2系統を用いて、カルス形成培地へのオーキシンの追加や新たな植物ホルモンの使用により、カルス形成が可能となるかを検討したが、カルス形成は見られなかった。
4)不定胚形成率が著しく低い系統「NK-220mm-O」の葉片由来カルスを用いて、不定胚形成培地の3種類の植物ホルモン、BAP、ABA、TIBAの濃度を変更することで、不定胚形成率の向上が見られるかを検討したが、全く効果はなかった(表2)。
5)培養苗の維持は、植物ホルモン無添加の培地で2ケ月毎に継代することで容易に可能であった。培養苗の増殖は、0.1mg/l BAPを含む培地を用い腋芽の伸長を促すことで可能となり、増殖率は3〜4倍程度となった。その際、キャップは、メンブレン付キャップの使用が必須であった(表3)
表2 不定胚形成培地の植物ホルモン濃度の影響1)
植物ホルモン(mg/L) | 不定胚形成 カルス2) |
同左率 (%) | ||
BAP | ABA | TIBA | ||
1 | 1 | 1 | 1/139 | 0.7 |
1 | 1 | 3 | 0/139 | 0 |
1 | 3 | 1 | 1/139 | 0.7 |
1 | 3 | 3 | 0/139 | 0 |
3 | 1 | 1 | 1/139 | 0.7 |
3 | 1 | 3 | 3/139 | 2.2 |
3 | 3 | 1 | 1/139 | 0.7 |
3 | 3 | 3 | 1/139 | 0.7 |
表3 培養苗の増殖に及ぼす培養瓶のキャップの影響
キャップ1) | 初代培養 苗数 |
2ヶ月後の状態 | 4ヶ月後の状態 | ||||
ビトリ苗率2)(%) | 増殖率3)(%) | 継代数 | ビトリ苗率(%) | 増殖率(%) | 継代数 | ||
A | 13 | 0 | 292 | 38 | 68 | 87 | 33 |
M | 13 | 0 | 262 | 29 | 12 | 345 | 70 |
キャップ | 6ヶ月後の状態 | 8ヶ月後の状態 | ||||
ビトリ苗率(%) | 増殖率(%) | 継代数 | ビトリ苗率(%) | 増殖率(%) | ||
A | 82 | 70 | 23 | 44 | 204 | |
M | 29 | 351 | 60 | 15 | 430 |
4.成果の活用面と留意点
1)てんさいのバイオテクノロジー育種を進める際の基礎資料となる。
2)培養苗の維持および増殖法は、てんさい育種におけるの有用母本のin vitroでの保存および有用個体の大量増殖に利用できる。
5.今後の問題点
1)遺伝子型に左右されない培養系の確立。
2)てんさい育種におけるバイオテクノロジー技術の積極的な利用。