オホーツク沿海地域における持続可能型輪作体系の確立 イ)輪作体系確立のための新規作物導入と土壌管理技術の改善 (ア)新畑作物導入技術改善 ②秋作による小粒種ばれいしょ生産技術 予算区分:国費補助(地域基幹) 担当科:北見農試 研究部 馬鈴しょ科 研究期間:平9〜11 協力・分担関係 |
1.目的 秋作採種栽培における小粒塊茎の生産量、アブラムシの発生推移および秋作で生産された小粒種いもの生産力等を検討し、秋作による小粒種いも生産技術を確立する。
2.方法
a 供試品種 「ワセシロ」「男爵薯」「とうや」
b 試験方法
(1)秋作による小粒種ばれいしょ生産技術
種いもは41-60gの全粒いもを使用。種いも消毒後、網かごの上に広げて浴光し、6月からアブラムシの飛来を避けるため寒冷紗で覆った。植付は7/31〜8/20。霜枯凋後に収穫(10/20〜27)。
塊茎規格は、10g≦(3S)≦20g<(2S)≦40g<(S)≦60g<(M)≦120g<(L)。
種いも供給数は(S、2S規格いも数)+2×(M規格いも数)で、翌年植付可能な種いも数を示す。
(2)秋作種いもの利用に関する試験
秋作採種栽培で生産された41-60gの種いもを全粒で植付けた(比較の春作種いもも同じ)。
5月中旬に植付。7月下旬〜8月上旬に早掘り調査、8月下旬〜9月上旬に普通掘り調査。
塊茎規格は、20g<(S)≦60g<(M)≦120g<(L)≦190g<(2L)≦260g<(3L)。
3.結果の概要
(1)秋作による小粒種ばれいしょ生産技術
①秋作採種栽培の生育・収量(図1、2、表1)と収益性
秋作採種栽培の種いも供給数は春作採種栽培比82〜93%と少なかったが、翌年全粒植え可能なS、 2S規格のいも数は「ワセシロ」、「男爵薯」では春作採種栽培の約2倍あった。秋作採種栽培の上いも収量は春作採種栽培の5〜7割と少ないことから、収益性向上のためには小粒規格の種いもの単価を高く設定する価格体系が求められる。
②アブラムシ寄生とウイルス病対策、その他の病害
アブラムシの寄生は気温の低下に従い減少するものの、多発条件下では9月下旬まで確認された。防除は発生状況を把握した上、萌芽始から9月上旬までの間隔を短めとし、これ以降も適宜防除を行う必要がある。ほ場の設置については「ジャガイモYモザイク病の簡易検定技術と防除対策」(平成5年、指導参考)と同様な配慮が必要である。秋作でのYウイルス病の病徴(モザイク症状)の発現程度は、春作と同程度であった。疫病、塊茎腐敗の発生は試験を行った4年間では低かったものの、気象条件を考慮すると常に注意が必要である。
③植付期(図3)、施肥量、栽植密度
種いも供給数を多く得るための植付適期は8月上旬〜8月15日であり、この範囲の後半でS、2S 規格のいも数が多く生産された。施肥量・栽植密度では、「ワセシロ」は春作採種栽培と同等(N :6kg/10a・密植)、「男爵薯」は春作採種栽培と同等かやや多肥(N:6〜8kg/10a・密植)が適した。
④秋作栽培用種いもの植付前管理
冷蔵貯蔵後植付の1ヶ月前から浴光催芽を始めた種いもを使用した場合の収量性は、出庫後から長期間浴光した種いもを使用した場合と同等であった。3S規格の多い「男爵薯」では芽の数の多い種いもの芽をいくつか取り除くことにより、規格率が向上する。
(2)秋作種いもの利用に関する試験
①秋作種いもの生産力(表2)と種いもの大きさ
秋作種いもは初期生育がやや遅く、茎数が少なかった。上いも数はやや少なく、平均1個重は大きい。でん粉価はやや低かった。早掘りでは、上いも収量はやや劣り、M−2L規格内収量は同等だった。普通掘りでは、上いも収量は同等だが、大粒化して3L規格が増えすぎることがあった。
種いもの大きさでは、M半切、S全粒及び2S全粒の規格内収量及びでん粉価は同等であった。
多肥は避け標準肥とし、普通掘りでは標準植〜密植(10a当たり4,500〜5,500株)とし、平均1個重 や規格内歩留まりに留意して収穫するのが望ましい。
②前進栽培調査
前進栽培(べたがけ栽培、浴光前加温処理)は、初期生育を促進し、平均1個重、規格内収量及びでん粉価を向上する効果があった。秋作種いもは大粒化しやすく、早掘り栽培に利用できることから、でん粉価の上昇に注意して収穫するのが望ましい。
図2 「ワセシロ」の規格別いも数の推移
(括弧内は、10a当たり種いも供給数)
表1 「ワセシロ」の収量性
栽培法 | 種いも 供給数 |
規格 率(%) |
上いも 数 (/株) |
平均 1個重 (g) |
上いも 収量 (kg/10a) |
でん粉 価 (%) |
規格別いも重(kg/10a) | ||||
(/10a) | (比) | 2S | S | M | L | ||||||
秋作栽培 | 43,097 | ( 94) | 81 | 5.7 | 67 | 2,245 | 12.8 | 283 | 441 | 1,071 | 450 |
春作栽培 | 46,088 | (100) | 68 | 6.7 | 96 | 3,760 | 15.1 | 96 | 307 | 1,566 | 1,788 |
表2 収量調査(普通掘り調査、供試品種及び供試年全体の平均)
種いも 種類 |
上いも 数 (/株) |
平均 1個重 (g) |
上いも収量 | 規格別いも重割合(%) | M−2L 規格内収量 |
でん粉 価 (%) | ||||||
(ka/10a) | (比) | S | M | L | 2L | 3L | (kg/10a) | (比) | ||||
秋作種いも | 7.7 | 128 | 4,356 | (100) | 6 | 27 | 33 | 18 | 15 | 3,422 | ( 95) | 14.8 |
春作種いも | 9.0 | 108 | 4,348 | (100) | 10 | 36 | 32 | 15 | 8 | 3,592 | (100) | 15.2 |
4.成果の活用面と留意点
1 本試験で作成した「ワセシロ」、「男爵薯」、「とうや」を用いた秋作による採種栽培体系は網走管内に適用する。
2 集団専門栽培を前提とし、保毒虫の飛び込み感染防止のために秋作採種ほ場を保毒源から数キロメートル以上離すのが望ましい。また秋作採種ほ場周辺の一般ほ場では、有翅虫を発生させないため、アブラムシ防除を徹底する。
3 8月下旬までアブラムシの発生量が多く、ウィルス感染の危険性が高いので、ほ場をよく観察し、防除、異株の抜き取りには留意する。
4 疫病及び塊茎腐敗の発生が懸念されることから、疫病の防除はアブラムシ防除と同時に行い、生育中期には塊茎腐敗に効果のある薬剤を使用する。
5 秋作用の種いもは、植付まで雨除け寒冷紗ハウス等で浴光し、アブラムシの飛来を避ける。
6 茎葉枯凋後すみやかに収穫し、なるべく傷を付けないよう皮むけや打撲に注意する。小粒いもが多いので、掘り残しに留意する。
7 秋作採種栽培で生産された種いもは、塊茎の肥大が早く、早掘り栽培に利用できる。
5.残された問題点とその対応
1 秋作採種栽培の防疫検査体制の確立
2 他の品種の秋作栽培適性の評価
3 3S規格の秋作種いもの利用法
4 疫病、塊茎腐敗の効果的な防除法の検討