成績概要書 (平成12年1月)
1.課題の分類 分類番号 整理番号 2.場所名 北海道立北見農業試験場 3.系統名 たまねぎ細胞質雄性不稔系統「S7946-10-05A」 およびその維持系統「S7946-10-05B」 |
4.育成経過
細胞質雄性不稔系統「S7946-10-05A」およびその維持系統「S7946-10-05B」は、北見農試が昭和54年に育成を開始した。基礎集団とした「北見黄」から63球を選別して自殖を行った。そのうちの自殖系統S7946より得られた10球を選別し、昭和56年にウィスコンシン大学育成の雄性不稔系統「W202A」を種子親として第一次検定交配を行い、交配番号を81TC15A、81TC15Bとした。昭和58年に交配番号81TC15A-05、81TC15B-05として、第二次検定交配を行った。このとき種子親側である81TC15A-05に稔性個体がみられず、維持系統となる81TC15B-05の稔性に関する核内遺伝子型が確定されたため、両系統を「S7946-10-05A」、「S7946-10-05B」と命名した。昭和60年から集団採種へ移行し、育成を完了した。その後集団採種により、「S7946-10-05A」、「S7946-10-05B」の維持増殖を行った。
5.特性の概要(F1品種「北もみじ」、花粉親品種「KMS7320-12M」との比較)
1)種子特性 「S7946-10-05A」の種子千粒重は4.4g程度、「S7946-10-05B」は4.1g程度である。
2)葉部特性 「S7946-10-05A」の初期生育と草勢は「北もみじ」にやや劣るが、草姿はやや直立である。葉色と均一性は同等であり、葉先枯れはやや多い。「S7946-10-05B」もほぼ同様であるが、草姿はさらに直立し、葉先枯れの発生は多い。
3)早晩性 両系統ともに「北もみじ」に比較して4〜5日遅い中晩生である。
4)耐病虫性 両系統ともに乾腐病の発生は「北もみじ」より多い。また年次によりボトリチス属菌による母球の病害発生がやや多く、「肌腐れ」症状もやや多い。
5)耐抽台性 両系統ともに「北もみじ」と同程度である。
6)球肥大性 「北もみじ」に比較して、両系統ともに規格内率は同等であるが、一球重は小さいため、規格内収量は劣る。
7)球品質 球形は両系統ともに地球型である。「北もみじ」に比較して球は硬く、揃いはほぼ同等である。皮色と皮むけ程度はやや優る。
8)貯蔵性 両系統ともに「北もみじ」より貯蔵後健全率が優り、高貯蔵性である。
9)採種性 両系統とも採種栽培時の草勢(生育量)は、「KMS7320-12M」よりやや劣るが、均一性と花茎のねじれは中程度である。両系統の開花期は揃うい、稔性変化はわずかである。
10)組合せ能力 「S7946-10-05A」は、オランダの育成系統など遠縁の花粉親との組合せにより、収量性が高く、球品質(球のしまり、皮張り)に優れ、高緯度地域に適するF1品種の種子親となる。
6.試験成績概要
表1 母球特性 (北見農試)
品種 および 系統名 |
倒伏期 (月日) |
乾腐 病率 (%) |
規格内 球重 (㎏/a) |
同左 比 (%) |
総 収量 (㎏/a) |
一球 重 (g) |
規格 内率 (%) |
球径 指数 |
同左 CV(%) |
貯蔵後 健全率 (%) |
球品質 | |||||
硬 さ |
皮 色 |
揃 い |
皮 ムケ |
球型 | 総 合 | |||||||||||
S7946 -10-05A |
8.16 | 4.3 | 363 | 67 | 390 | 147 | 93 | 95.0 | 6.6 | 59.7 | 6.8 | 6.9 | 5.3 | 6.2 | O3-4 | 4.6 |
S7946 -10-05B |
8.16 | 3.9 | 294 | 54 | 349 | 118 | 93 | 98.6 | 6.2 | 69.1 | 6.8 | 6.9 | 5.8 | 5.9 | O3-4 | 4.2 |
北もみじ | 8.11 | 1.1 | 540 | 100 | 580 | 197 | 94 | 91.1 | 7.9 | 28.8 | 5.4 | 5.1 | 5.5 | 5.4 | O3-4 | 4.9 |
表2 採種時の生育及び採種性 (北見農試)
系統名 | 草姿 | 生育 量 |
均一 性 |
花茎 ネジレ |
開花期 (月日) |
抜取 株率 (%) |
稔性変 化株率 (%) |
花茎数 (本/株) |
稔実 程度 |
採種量 (g/個) |
千粒重 (g) |
S7946-10-05A | 5.1 | 4.0 | 5.0 | 5.1 | 7.28 | 10.8 | 0.2 | 2.4 | 3.0 | 2.0 | 4.36 |
S7946-10-05B | 5.1 | 3.6 | 5.1 | 5.1 | 7.27 | 10.1 | 0.0 | 2.3 | 2.9 | 1.2 | 4.10 |
表3 組合せ能力 (平成7年、アドバンタ社)
系統 | 総収量 (kg/a) |
非皮むけ球率 (%) |
正品収量 (kg/a) |
成熟日数 (日) |
球のしまり | 備考 |
供試系統平均(n=52) | 351 | 80.5 | 283 | 116 | 3.3 | |
VDH94075 | 113 | 113 | 126 | 118 | 116 | 有望F1系統 |
VDH94080 | 92 | 93 | 85 | 113 | 107 | |
VDH94310 | 99 | 102 | 99 | 116 | 98 | |
VDH94322 | 102 | 101 | 104 | 118 | 113 | |
VDH94353 | 87 | 75 | 66 | 115 | 87 | |
CORONA(比較品種) | 99 | 65 | 63 | 113 | 63 | |
COPRA (比較品種) | 90 | 112 | 101 | 118 | 122 |
6.成果の活用面
「S7946-10-05A」はオランダの育成系統のような遠縁の花粉親との組み合わせ能力に優れ、F1品種育成のための親系統としての利用が期待できる。
7.栽培上の注意
母球養成世代では、両系統ともに乾腐病の発生がみられ、また年次によりボトリチス属菌による病害の発生がやや多く、「肌腐れ」症状等もやや多いことがあるので、圃場の選定に留意するとともに適正防除に努める。
8.維持保存方法
「S7946-10-05A」および「S7946-10-05B」による集団隔離採種で維持する。