成績概要書          (平成12年 1月)
1.課題の分類
2.場所名    中央農試 果樹部 果樹第二科
3.品種名    ぶどう新品種候補「藤稔」

4.来歴および試験経過
 1978年、神奈川県藤沢市の青木 一直氏が「井川682号」×「ピオーネ」の組み合わせで交配、1982年初結実。1985年に種苗法に基づく品種登録がなされた。
 中央農試では、平成8年度から「生食用ぶどう優良品種選定試験」として場内および余市町園芸試験場のハウスにおいて適応性の検討を行ってきた。

5.特性の概要
(1)形態および樹性 幼梢先端の色は薄赤、綿毛の密度は中位。熟梢の色は褐色。成葉は5角形で、3、5片葉が混在。葉柄裂刻は開き、上裂刻の形は閉じる。葉柄は淡紅色で、葉の綿毛は無〜極粗。樹勢は「キャンベル アーリー」(以下「キャンベル」)よりも強い。樹体生育は「キャンベル」より旺盛だが「紅伊豆」よりは弱い。
(2)生育相 発芽期は「キャンベル」と同時期、開花期は「キャンベル」よりやや遅い。
(3)成熟期 成熟期は中央農試では9月下旬〜10月上旬で「キャンベル」より1〜2週間遅い。余市では9月中下旬で「キャンベル」より2〜3週間遅く「紅伊豆」とほぼ同時期。
(4)生産性 1樹当たり収量は初結実から3年間の合計では「キャンベル」と同等。「紅伊豆」より樹冠拡大が遅いため1樹当たり収量は劣るが、樹冠占有面積当たりでは多い。
(5)花振い 花振いは「キャンベル」より多いが、「紅伊豆」より少なく、つくりやすい。
(6)果実特性 粒着はやや密。果粒形は短楕円形、果皮色は紫黒色、果皮と果肉の分離は容易であり食べやすい。果肉特性は崩壊性と塊状の中間で果肉の硬さは軟らかい。弱いフォクシー香が感じられる。裂果はわずかだが、収穫が遅れると発生することがあるので注意が必要。果粒は極大、糖度は高く酸は低い。
(7)食味 食味調査を行ったところ、「藤稔」を食味が「良い」もしくは「非常に良い」とした回答が80%であった。
(8)耐病虫性 年間3回程度の病害虫防除を行ったが、特に問題となる病虫害の発生は見られなかった。

6.試験成績概要

表1 新梢および葉の形質
品種名 幼梢 熟梢
の色
成葉
先端
の色
先端
綿毛
葉形 裂片数 葉柄裂刻
の形状
上裂刻
の形
葉柄の
葉の綿毛
の多少
藤稔 薄赤 5角 3〜
5片
開く 閉じる 淡紅 無〜
極粗

表2 果実形質
  花振い 粒着 果皮色 はく皮 果肉
特性
果肉
硬度
香気 裂果
藤稔 わずか やや密 紫黒 中間 微フォクシー わずか
キャンベル アーリー なし 紫黒 塊状 フォクシー なし
紅伊豆 やや密 赤紫 中間 フォクシー わずか

表3 食味調査結果(有効回答数40)
  1:非常に悪い 2:悪い 3:普通 4:良い 5:非常によい
藤稔 12 20
キャンベル アーリー 18 14
紅伊豆 16 16

表4 中央農試における主要試験成績(根域制限栽培 500樹/10a)
 
開花期
(月日)
成熟期
(月日)
樹勢
*1〜5
果房数
**
収量
**(kg)
果房
重(g)
果粒
重(g)
糖度
brix
酸度
(g/100ml)
藤稔 H9 3 7.4 10.13 4.0 5.6 1.3( 650) 329 12.3 16.7 0.66
H10 4 6.25 9.25 4.0 7.4 1.8( 900) 261 12.2 16.8 0.52
H11 5 6.30 10.4 3.1 6.5 1.8( 900) 301 12.9 17.1 0.55
***平均・積算 6.30 9. 30 4.4 19.5 4.9(2450) 281 12.5 17.0 0.53
キャンベル
アーリー
H9 3 6.30 10.13 3.0 10.1 1.0( 500) 122 5.1 16.0 0.54
H10 4 6.23 9.16 3.0 19.0 2.2(1100) 137 4.9 16.7 0.84
H11 5 6.28 9.20 3.0 17.5 2.0(1000) 148 5.0 16.5 0.78
***平均・積算 6.27 9.18 3.8 46.6 5.2(2600) 143 5.0 16.6 0.81
紅伊豆 H9 3 7.1 10.13 5.0 5.6 1.2( 600) 267 12.4 16.7 0.92
H10 4 6.24 9.25 4.5 7.4 1.2( 600) 239 12.1 16.4 0.93
H11 5 6.29 10.4 3.3 6.9 1.5( 750) 266 12.2 16.8 0.88
***平均・積算 6.28 9.30 4.1 19.9 3.9(1950) 253 12.1 16.6 0.90
 *1(弱)〜5(強)**1樹当たり(10a当たり)
***開花期(H9〜11)、成熟期 果房重〜酸度(10,11)、樹勢(8(データ略)〜11):平均値
  果房数、収量:積算地

表5 余市町における主要試験成績 (地床栽培 20樹/10a)
 
開花期
(月日)
成熟期
(月日)
樹勢
*1〜5
果房数
**
収量
**(kg)
果房重
(g)
果粒重
(g)
糖度
brix
酸度
(g/100ml)
藤稔 H9 3 6.21 9.26 4.0 7.0 1.9(38) 279 10.2 18.8 0.52
H10 4 6.13 9.16 4.0 28.3 10.7(214) 431 14.8 18.3 0.41
H11 5 6.20 9.20 5.0 66.8 27.5(550) 484 14.8 18.0 0.48
***平均・積算 6.18 9.21 4.3 102.2 40.1(802) 458 14.8 18.1 0.44
キャンベル H9 3 6.17 9.05 4.0 6.0 1.6(32) 284 5.2 15.0 0.87
H10 4 6.10 8.31 3.0 47.6 23.0(460) 491 5.7 15.1 0.66
H11 5 6.19 9.03 4.8 43.7 14.8(296) 456 5.0 16.5 0.62
***平均・積算 6.15 9.02 3.7 97.3 39.3(786) 473 5.3 15.8 0.64
紅伊豆 H9 3 6.20 9.26 4.0 9.0 2.8(56) 326 11.5 19.1 0.69
H10 4 6.12 9.16 4.0 38.3 11.5(230) 340 13.8 19.4 0.52
H11 5 6.19 9.20 5.0 104.0 33.6(672) 427 12.9 19.1 0.68
***平均・積算 6.17 9.21 4.5 151.3 47.9(958) 383 13.4 19.3 0.60
 *1(弱)〜5(強)**1樹当たり(10a当たり)
***開花期 成熟期(H9〜11)、果房重〜酸度(10,11)、樹勢(8(データ略)〜11):平均値
  果房数、収量:積算値

7.普及対象地域および普及見込み面積
  生食用ぶどう栽培地域のハウス栽培
  20ha(果樹振興計画、大粒系品種17年度目標面積の半分)

8.保有種苗  種苗登録品種で、多くの業者から販売されているため入手に問題はない。

9.栽培上の注意事項
・寒害を防ぐため、冬期は枝おろしを行う。
・剪定は四倍体品種で樹勢が強いため、間引きを主体として極力弱くする。
・着果過多は果粒肥大不足、熟期の遅れ、品質低下、耐寒性の低下など悪影響が大きいた め注意する。