成績概要書 (作成 平成12年1月)
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北海道 |
作 物 |
園 芸 |
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研究課題名:やまのいも交雑育種における交配親の栽培条件および効率的な種子獲得技術 (ヤマノイモの種間交雑によるウィルス抵抗性因子導入に関する育種技術) 予算区分:共 同 担当:十勝農試 研究部 園芸科、新潟大学農学部
十勝農業協同組合連合会 研究期間:平9−11年度 協力・分担関係:なし |
1.目的
やまのいも類の交雑育種において、交配親のポット栽培条件、交配条件および培養方法を検討し、効率的な種子獲得のための基礎技術を確立する。
2.方法
1)
温室内における交配親のポット栽培条件の検討
(1)
やまのいも雌株(いちょういも)の植付時期:平10(4月22日、5月7日)、平11(4月30日、5月10日)。種いもは定芽を含む200g。加温ガラス温室ポット栽培。土壌容量35㍑。窒素施肥量6g/株。6月中旬以降25℃に加温。
(2)
やまのいも雄株(ながいも)の種いも条件
① 種いもの芽の種類2(定芽、胴部不定芽)。平10。十勝農試圃場(淡色黒ボク土)。農試慣行栽培。種いもの重さは約90gで共通。調査株数:定芽515株、不定芽458株。
② 種いもの重さ4(100、150、200、300g)。平11。加温ガラス温室ではポット栽培、1区2株。窒素施肥量3g/株。植付日は5月10日。圃場では1区4〜9株。基肥は無施用とし、萌芽後30日前後に窒素・リン酸・カリ=2・3・2㎏/a施肥。植付日は5月20日。種いもの芽は「定芽」で共通。
(3)
やまのいも雄株(ながいも)のポット栽培条件
① 窒素施肥量6水準(0、1、2、3、4、5g/株)。2個体。植付日:5月20日。リン酸とカリ施肥量は、3gと1g/株で共通。種いもは「定芽」を含む約100g。
② 土壌容量6水準(15、20、25、30、35、40㍑)。3個体。植付日:5月20日。窒素・リン酸・カリ=2・3・1g/株で共通。
2)
交雑種子の形成促進を目的とした交配条件の検討
(1)
交配前後の温度条件:気温の異なる栽培場所3(新潟大学農学部実験農場、十勝加温ガラス温室、十勝農試ビニールハウス)。雌株3系統。雄株は、ながいも十勝選抜系統で共通。雌株の栽培法は1)-(1)に同じ。
(2)
交配時における雌花の開花後日数:開花後日数4(当日、1日、2日、3日)。
(3)
花序あたり蒴果数:1花序あたりの蒴果数3水準(1、3〜4、6〜8個)
3)
培養法を用いた交雑種子の発育促進の検討
蒴果の採集時期2(交配後30日、登熟後(交配後80〜90日))。培地は、1/2MS基本培地、ショ糖70g/㍑、ゲランガム2g/㍑、pH5.7。温度25℃、照度約3000lx・16時間照明下で、蒴果が登熟するまで培養した。
3.結果の概要・要約
1)
ながいも雄株においては、定芽を用いて育成した株が不定芽で育成した株に比べて花序形成株率が顕著に高く、花序数は重さ150gおよび200gの種いもを用いて育成した株で多かった(表1)。
2)
200gの種いもを用いて育成した場合、いちょういも雌株は開花までに約80日、ながいも雄株では約60日を要し、ながいも雄株ではいちょういも雌株に比べて開花が約3週間早かった(表2)。
3)
ながいも雄株においては、着花を目的とした場合、窒素施肥量は、地上部の生育とのバランスを考慮して株あたり1〜2gが適当であった。
4)
温室内のポット栽培における交配雄親(ながいも)の栽培条件を示した(表3)。
5)
いちょういも雌株でも、ながいも雄株の栽培法に準じたポット栽培を行ったが、本試験の範囲では、着花に問題はなかった。
6)
種子含有蒴果割合と1蒴果種子数は、交配前の平均気温と正の相関が認められた(表4)。
7)
効率的に種子を獲得するための交配条件を示した(表5)。
8)
蒴果培養法は、植物体上で蒴果を登熟させる場合に比べて、種子数および培養可能な大きさである「L」種子数が増加した(表6)。
表1.種いもの重さと花序数の関係
種いもの 重さ(g) |
株あたり 花序数 |
100 |
66 |
150 |
120 |
200 |
160 |
300 |
103 |
表2.いちょういも雌株及びながいも雄株における開花に要した日数の比較
種 類 |
着蕾始め(月.日) |
開花始め(月.日) |
開花に 要した日数 |
いちょういも |
6.24 |
7.26 |
77 |
ながいも |
6.17 |
7.7 |
58 |
注)平成11年。種いもは定芽を含む200g。植付日は5月10日で共通。
表3.温室内での交配雄親(ながいも)のポット栽培条件
項 目 |
栽 培 の 目 安 |
種いもの芽・重さ |
定芽を含む部分を用い、重さは200g程度。 |
植 付 期 |
5月10日頃から1週間おきに3回に分けて植え付ける。 |
窒素施肥量 |
株あたり1〜2g。施肥量が多すぎると正常に開花しない場合があるので、肥料入りの育苗用土を用いるにあたっては、肥料添加量を考慮して施肥する。 |
土壌容量 |
株あたり20リットル程度。 |
温度管理 |
植え付け以降は平均気温20〜25℃、着蕾期以降は最低気温25℃以上。着蕾期以降の極端な高温は避ける。 |
表4.交配前後の平均気温と種子含有蒴果割合の相関
交配当日 |
交配前7日間 |
交配後7日間 |
0.504* |
0.832*** |
0.079 |
注) * は5%、**は1%、***は0.1%水準で有意であることを示す。
表5.効率的な種子獲得のための交配条件
項 目 |
内 容 |
温度条件 |
着蕾後は最低気温25℃以上を確保する。着蕾2週間後から交配期間中は、最高気温も30℃を越えるように設定し、平均で30℃程度になるよう調整する。 |
交配時の雌花の 開花後日数 |
当日開花〜開花後3日目の小花を選ぶ。 |
交配小花数および花序あたり蒴果数の調整 |
交配は、1花序あたり6〜7個の小花に対して行う。交配後10日目以降に蒴果の肥大状況を観察し、肥大の旺盛なものを残して1花序3個程度になるよう摘果する。 |
表6.種子数に及ぼす蒴果培養の影響
雌株 収集記号 |
交配日 (月.日) |
蒴果 採集日 |
供試 蒴果数 |
種子含有蒴果割合(%) |
種子数 |
1蒴果 種子数 |
1蒴果 「L」種子数 |
||
L |
S |
計 |
|||||||
N4 |
7.29 |
30日目 |
18 |
89 |
14 |
8 |
22 |
1.22 |
0.78 |
登熟後 |
18 |
78 |
9 |
9 |
18 |
1.00 |
0.50 |
||
8.5 |
30日目 |
27 |
67 |
13 |
13 |
26 |
0.96 |
0.48 |
|
登熟後 |
24 |
42 |
7 |
7 |
14 |
0.58 |
0.29 |
||
91B |
8.7 |
30日目 |
12 |
67 |
11 |
7 |
18 |
1.50 |
0.92 |
登熟後 |
11 |
73 |
9 |
4 |
13 |
1.18 |
0.82 |
注)種子数の内訳:「L」=種子の縦径3㎜以上。胚を含有している可能性がある。「S」=種子の縦径3㎜以下。
4.成果の活用面と留意点
やまのいも類の育種を行うにあたっての交配親の栽培条件から交雑種子獲得までの手法に関する資料とする。
5.残された問題点とその対応
1)
雌株のポット栽培条件と種子形成の関係
2)
蒴果培養・種子培養・胚培養における適切な培養時期および培地条件
3)
えそモザイクウィルス抵抗性の簡易な検定法
4) 獲得された交雑実生の特性調査