成績概要書    (平成12年1月)

課題の分類
研究課題名:シクラメンの輸送における灰色かび病(花シミ)発生防止法
           (移出野菜・花きの鮮度保持、輸送技術)
予算区分 :道単
担当:花・野菜技術センター研究部花き第二科
研究期間 :平8〜11年度
協力・分担関係:
1.目的
  シクラメンの道外移出においては、輸送中に灰色かび病により花弁に暗黒色ないし灰白色の斑点(花 シミ)が発生し商品性を喪失する事故が起きることがあり大きな問題となっている。このため、花シミ の発生条件を解明し、防止法を明らかにする。

2.試験研究方法                 
 1) 輸送実態調査:1)鉢物輸送専用トラック(除湿機付)栗山町→愛知県豊明市 2)鉢物輸送専用トラック(除湿機無し):旭川市、伊達市→埼玉県鴻巣市 トラック内の温・湿度条件、着荷状態を調査
2) 栽培実態調査:旭川市、栗山町 ハウス内の温・湿度条件を調査
 3) 花シミの発生条件: 1)温度・湿度条件:5、10、15、20、25℃ 50、70、90、100%  2)通風:有、無(0.05mmポリエチレン袋で被覆) 3)水滴付着持続時間 1、3、6、12、24時間 3)灰色かび病胞子密度: 1.0×106、105、104、103、102、0個/mlの胞子液(病虫科調製)を鉢当り10gハンドスプレーにより花弁に噴霧、対照は水道水 供試品種は「バイオレット」、「ハイライト(赤)」、4号鉢(藤島園芸より購入)、1区3〜5鉢
4) 調査方法:花弁上の花シミ発生程度を観察により判定、無 0〜激 5の6段階

3.結果の概要
1) 輸送実態
    除湿機付き専用トラック輸送(10月):鉢の間の気温は吹き出し口の気温よりも1〜5℃高く、全輸 送期間をつうじて12〜18℃の範囲で変動した。鉢の間の相対湿度は、70〜90%の間で変動した。花シミの発生、花や葉のしおれはなく、着荷状態は良好であった。(11月);吹き出し口からの風の湿度は約80%、吹き出し口近辺の段ボール箱の近くで85%前後であったが、同段ボールのシクラメンの花の間は90 %、葉の間では95〜100 %であった。除湿操作の適否もあるので一概にはいえないが、除湿機付きトラックでも湿度条件は万全とは言えないようであった
 普通トラック輸送(10月):トラック内(運転席の後部、床面近辺、もっとも湿度の上昇しやすい個所)の湿度は、積み込み終了後ただちに上昇し始め、10時間後には100%に達し、市場到着まで著しい高湿度状態が持続した。途中5回の換気により、一時的に10%程度の低下がみられた(図-1).複数の生産者について、積み荷の一部に花シミの発生がみられた。
 2) 栽培環境
(9月中下旬): 夜温はかなり低下し、夜間の湿度は100%であった。(10月中旬):夜間は20℃に加温されていたが、湿度は100%で著しく高かった。
3) 花シミの発生条件
  1) 温度・湿度条件:花シミの発生に対する温度の影響は小さく、10〜11月出荷における実際の輸送温度である10〜20℃の範囲では大きな差は生じなかった。
湿度の影響はきわめて大きく、胞子液噴霧後直ちに通風のない状態で相対湿度を90%以上に保つと24時間以内に著しい発症が認められた。しかし、高湿度であっても通風があり水滴が短時間で消失すると、高密度の胞子液が付着しているにもかわらず花シミの発生は著しく減少した(図-2)。また、高密度の胞子が付着した花弁は水蒸気が飽和状態の環境下におかれると花シミ発生が進行した。相対湿度70%以下では発生は僅かであった。
2) 胞子密度:水滴の付着が持続する条件下では、胞子密度1.0×102個では水と同程度であったが、
1.0×103個では2日後、1.0×104個では1日後から花シミの発生が目立った(図-3)。花シミの発生を防止するためには胞子密度を一定水準以下に抑えることが必要と考えられる。
  3) 水滴付着時間:高密度の胞子液を噴霧した場合でも花弁上に水滴状態で残る時間を短かくすると花シミの発生は抑制された。本試験においては、花シミの発生は水滴付着時間がが6時間以内では少なく、12時間以上では著しく多くなった(図-4).花シミ発生防止のためには花弁への結露防止が重要であると考えられた。
4) シクラメン輸送における「花シミ」発生防止の指針をまとめた(表−1) 。

シクラメンの輸送における灰色かび病(花シミ)発生防止の指針

栽培・出荷時:花弁の胞子密度を低下させる 輸送時:花弁に水滴を付けない
1.湿度 70%を目標とする

・除湿機、加温機を活用する
・送風機により空気を攪拌する
1.温度 10〜20℃

・結露を防止するため車内温度を
露点温度以下にしない
2.栽培管理 ・枯葉、老化花を除去する
・灰色かび病の防除を徹底する
2.湿度管理
と結露防止
70%を目標とする

・除湿機を装備する
・送風機を装備する
・外気導入により通風換気する
 (ベンチレータを装備する)
・ ドアを開放し換気する
3.出荷 ・直前の潅水は控える
・潅水、降雨等により水滴が付いた
ときは完全に乾燥させてから積み
込む

 

4.成果の活用面と留意点
  シクラメンの長時間輸送に適用する。

5.残された問題点とその対応
1)花卉表面の胞子密度の簡易な測定
2)鉢花輸送用トラックの湿度管理に有効なベンチレータの開発