成績概要書 (作成平成12年1月)
課題の分類:根釧農試 研究課題名:生乳中の栄養・機能性成分の動態解明並びに乳脂肪組成がラットの生理 ・代謝に及ぼす影響 (高血圧ラット「SHR」を利用した飼養条件と牛乳の機能性品質との関連解明) 予算区分:共同研究 担当科:根釧農試 研究部 酪農第二科・酪農第一科 研究期間:平8−10年度 協力・分担関係:京都大学大学院人間・環境学研究科 |
1.目 的
牛乳の栄養成分であるビタミンE、β−カロチン、カルシウム、リン、マグネシウムの個体乳における動態と変動要因、さらには、生乳中の機能性成分であるラクトフェリンの動態と変動要因を明らかにするとともに、これら栄養・機能性成分と飼養条件等との関連を明らかにする。また、乳脂肪の脂肪酸組成の違いが、ラットの血清脂質性状、体重、血圧上昇および寿命に及ぼす影響を明らかにする。
2.方 法
1)生乳中の栄養・機能性因子の動態と変動要因の解明
(1)放牧草の利用が個体乳における生乳中のビタミンEおよびβ−カロチン濃度に与える影響
(2)個体乳における生乳中のカルシウム、リン、マグネシウム含量の動態と変動要因
(3)生乳中のラクトフェリン濃度の動態と変動要因
2)乳脂肪の脂肪酸組成がラットの生理・代謝に及ぼす影響
(1)乳脂肪の脂肪酸組成が疾患モデルラットの生体反応と寿命に及ぼす影響
(2)乳脂肪の脂肪酸組成がラットのコレステロール吸収・代謝に及ぼす影響
3.結果の概要・要約
1)放牧開始後に濃度が安定状態に達するまでの期間は、ビタミンEは血清中では21日と早く、乳脂肪中では63日と遅れた。β−カロチンは、血清および乳脂肪中のいずれにおいても放牧開始後42日で安定状態に達した(図1)。
2)放牧中止後のビタミンE濃度は、乳脂肪と血清中で同様に減少し、放牧効果の残存率は40日では約40%、60日では約20%程度であった。β−カロチンは、血清中ではビタミンEと同様の減少傾向を示したが、乳脂肪中での減少はより緩慢で放牧効果の残存率は40日では約60%、60日では約40%程度とより大きかった(表1)。
3)分散成分期待値の割合からみると、牛乳中のカルシウム、リンおよびマグネシウム含量の変動に占める個体要因の割合は16〜24%、泌乳期要因の割合は13〜25%であり、季節要因の割合はリンでは18%と大きかったが他のミネラルでは3%前後と小さかった(図2)。
4)生乳中のラクトフェリン濃度の分布は、生乳中の細胞数と同様に正規分布とは異なる、対数正規分布に近似した分布を示した。
5)生乳中のラクトフェリン濃度は細胞数と泌乳期の影響を受けており、細胞数との相関係数は分房前搾り乳、個体乳、バルク乳の順に小さくなった(r=0.75、0.38、0.35、いずれもp<0.01)(図3)。
6)乳脂肪中の脂肪酸組成の差違は、乳脂肪が持っている脳卒中易発症高血圧ラット(SHRSP/Izm)の脳血管障害を予防し寿命を延ばす効果に影響を及ぼさなかった。
7)高コレステロール食を長期間給餌したラットの血清総コレステロール値は時間経過とともに小さくなる傾向がみられ、この傾向は牛脂に比べ、乳脂肪とくに短鎖脂肪酸の多い乳脂肪でより早い時期からみられた。
図1 放牧開始後のビタミンEおよびβ−カロチン濃度の推移
表1 放牧中止前後のビタミンEおよびβ−カロチン濃度の推移と放牧効果の残存率
-30日 | -5日 | 40日 | 60日 | -5日に対する t検定p値 |
放牧開 始直前 値 |
放牧効果 残存率(%) | |||
40日 | 60日 | 40日 | 60日 | ||||||
乳脂肪(μg/ml) | ① | ② | ②’ | ③ | ④ | ④’ | |||
ビタミンE β−カロチン |
29.9±3.4 8.4±0.9 |
30.2±3.3 9.0±2.4 |
23.2±4.1 7.0±2.1 |
20.4±1.9 5.7±1.4 |
0.08 0.36 |
<0.01 0.07 |
18.2 3.7 |
42 62 |
18 38 |
血清(μg/ml) | |||||||||
ビタミンE β−カロチン |
12.0±1.6 15.9±1.2 |
12.0±2.2 17.9±1.5 |
7.6±0.7 9.8±1.4 |
6.5±0.3 7.7±1.7 |
0.03 <0.01 |
<0.01 <0.01 |
4.7 5.2 |
40 36 |
25 20 |
4.成果の活用面と留意点
1)放牧期間中の脂溶性ビタミン濃度の推移は、併給粗飼料が乾物2kg程度以下でかつ放牧草が十分に摂取された条件での結果であり、併給粗飼料が多い場合や放牧草量が不足した場合は異なる可能性がある。
2)生乳中ミネラル含量の変動要因別の分散成分期待値割合は、限られたデータから得られたもので、牛群構成や飼養形態の影響を強く受けている可能性がある。
3)一般的に、ラットにおける物質の代謝速度や作用濃度はヒトと異なる。
5.残された問題とその対応
1)生乳中の水溶性ビタミン類、カリウムおよびナトリウムの動態と変動要因
2)生乳中のミネラル含量に対する遺伝的要因の影響