成績概要書                      (作成平成12年1月)
課題の分類  根釧農試
研究課題名 リステリア菌のサイレージにおける増殖条件と生乳への混入防止対策
        (牧草サイレージの蛋白質分解性および発酵品質に関する試験)
予算区分:道費
担当研究室:根釧農試 研究部 酪農第二科・酪農第一科
研究期間:平成9〜10年度
協力・分担関係:なし

1.目 的
 人畜共通の病原菌であるListeria monocytogenes(以下、リステリア菌またはL.m菌)が生乳を汚染する原因と考えられるサイレージについて本菌の増殖実態を調査し、生乳への混入防止対策を検討する。

2.方 法
 試験Ⅰ. 実験的小規模サイレージによるリステリア菌の増殖条件の検討
 試験Ⅱ. 各種サイレージのリステリア菌の分布調査
 試験Ⅲ.現地のロールベールラップサイレージ(以下、ラップサイレージ)におけるリステリア菌の分布調査
 試験Ⅳ.乳頭の消毒・清拭によるリステリア菌の生乳への混入防止対策

3.成果の概要
 試験Ⅰ.実験的小規模サイレージによるリステリア菌の増殖条件の検討
 1)高水分、中水分、低水分サイレージとも梱包したビニール袋に傷穴がない場合はリステリア属菌(以下、L属菌)は増殖しなかった。
 2)サイレージを梱包したビニール袋に傷穴がある場合は穴の周辺はpHが高く、カビの発育があり、L属菌が分離された。穴の数が多いほどpHは高くなり、カビの発育面積は広く、L属菌の分離部位数と分離菌数とが多くなった。
 3)L属菌の増殖を許す最大の要因は傷穴である。
 試験Ⅱ.各種サイレージのリステリア菌の分布調査(表1)
 1)ラップサイレージのpHはタワーおよびバンカーサイレージより高い。
 2)ラップに傷穴のあるロールからのL属菌分離率および平均pHは31%、5.7であり、傷穴のないロールの12%および5.2より高かった(p<0.01)。
 3)傷穴のないロールではラップの巻き数が多くなるとL属菌の分離部位数は減少する傾向にあるが、8重巻きでも分離されるロールがある。
 4)越冬したロールからもL属菌が分離され、気温の高い時期を迎えると菌数の多い部位があった。
 5)タワーサイレージ、バンカーサイレージは表層と壁際にL属菌が発育しており、カビの発育は特に壁際にみられる。
 6)どのサイレージでもpHの高い部位およびカビの発育部からのL属菌の分離率は高い。
 試験Ⅲ.現地のラップサイレージにおけるリステリア菌の分布調査
 1)現地のラップサイレージからリステリア菌が確認されたことから、現地のサイレージにはリステリア菌が広く分布しているものと考えられる(表2)。
 試験Ⅳ.乳頭の消毒・清拭によるリステリア菌の生乳への混入防止対策
 1)マニュアルどおりに乳頭を消毒・清拭してから搾乳すれば生乳へのリステリア菌汚染は防げる(表3)。
 2)プレディッピング法および消毒タオル一回清拭でもかなりの効果がある。
 3)搾乳前に乳頭を清拭しなければ、リステリア菌が生乳へ混入する危険性がある。

4.成果の活用面と留意点
 1)生乳にリステリア菌が混入していても加工時に殺菌されるため製品は安全であるが、自家消費および加工では生乳を殺菌してから使用し、二次汚染に注意する。
 2)リステリア菌の増殖防止にはサイレージ調製の基本技術を遵守し、良質サイレージの調製に留意する。
 3)搾乳衛生に十分配慮することで生乳へのリステリア菌の混入は防止できる。
 4)カビの発育したサイレージを敷料に利用することは避ける。

5.残された問題とその対応
 1)サイレージ由来リステリア菌の病原性の確認
 2)他の地域、他の草種でのリステリア菌の分布

表1 各種サイレージのpH域別の検体数とL属菌1)分離率
  pH域 ラップサイレージ タワーサイレージ バンカーサイレージ 合計
検体数 4.5以下 32( 11%) 66( 77%) 11( 58%)  
4.6〜6.5 242( 83%) 10( 12%) 3( 16%)
6.6以上 19( 6%) 10( 12%) 5( 26%)
L属菌分離率 4.5以下 2( 6%) 15( 23%) 5( 45%) 22( 20%)A
4.6〜6.5 50( 21%) 4( 40%) 1( 33%) 55( 22%)A
6.6以上 8( 42%) 9( 90%) 5(100%) 22( 65%)B
1)Listeria monocytogenes(L.m菌)とListeria innocua(L.i菌:非病原性)を含む
A-B間で有意差あり(p<0.01)
注)ラップサイレージは傷穴のあるものを含む

表2 各地域のロールベールラップサイレージからのL属菌分離成績
ロール
No.
採取地 ロールの
梱包状態
ロール当り
検体数
L属菌の分離検体数 平均分離菌数1)
L.m L.i L.m+L.i L.m L.i
1 A 良好(傷穴なし) 12 0 0 0    
2 不良(傷穴多い) 15 1 7 2 5.0 4.4
3 B 良好(補修跡あり) 12 0 2 1 5.0 5.0
4 不良(傷穴1個あり) 9 3 1 5 5.1 4.0
5 C 良好(傷穴なし) 10 0 3 0   2.7
6 不良(傷穴1個あり) 11 1 3 1 5.0 6.0
7 D 不良(ラップを通しキノコ発育 11 0 0 0    
8 不良(傷穴3個あり) 13 0 0 0    
9 E 良好(傷穴なし) 11 0 0 0    
10 不良(傷穴3個あり) 14 0 5 0   3.6
全体 良好ロール(4個) 45 0 5 1    
不良ロール(6個) 73 5 16 8
1) サイレージ20gに陰性を0、陽性を1、さらに100個/gを2、以下同様に106個/gを8と補正して計算

表3 乳頭の搾乳前処置別による生乳中のリステリア菌数
乳頭のL.m菌
塗布菌数
乳頭の搾乳前処置別による生乳中のL.m菌数
マニュアル1) プレディッピング2) タオル清拭3) なし4)
107 +〜- +〜- +  
106 - +〜- +〜- 2〜3
105 - - - +〜0
104   - - +
103       -
102       -
《乳頭ごとの菌数表示》
 -:生乳20ml中に陰性
 +:生乳20ml中に陽性
 0〜3:100〜103個/ml

1)前搾り→消毒剤タオル清拭(1乳頭1枚)→ペーパータオル清拭(1乳頭1枚)→搾乳→ディッピング
2)前搾り→ディッピング→ペーパータオル清拭(1乳頭1枚)→搾乳→ディッピング
3)前搾り→消毒剤タオル清拭(1乳頭1枚)→搾乳→ディッピング
4)前搾り→搾乳→ディッピング
     搾乳前の乳頭の消毒・清拭作業