成績概要書
研究課題名:牛胚性判別技術の現場応用
       (農家の庭先における牛胚の性判別実証試験)
予算区分:共同
担当科:新得畜試 生産技術部 生物工学科
研究期間:平10年度 協力分担関係:北海道家畜改良事業団

1.目的
 PCRによる牛胚の性判別技術の普及・定着をめざし、北海道全域をカバーするために、性判別を性判別施設で行う胚輸送方式(近距離対応)と、農家の庭先で行う庭先方式(遠距離対応)の2つの方式を設定し、その有効性を検討した。

2.方法
1)胚輸送方式
 農家で回収した胚を性判別施設に輸送し、サンプリング後、再び胚を移植場所へ輸送し、輸送および移植の準備をする間に性判別を行う方法で、性判別施設と胚の回収・移植場所との距離が車で2〜3時間の場所での適用を想定した。
2)庭先方式
 簡易な実験室を設置したマイクロバスに胚回収、移植、胚の性判別用の器材を積載し、農家の庭先まで出かけて胚回収から性判別、移植までを実施する方法で、性判別施設からの距離が車で4時間を超える場所での適用を想定した。
(1)作業効率の検討(庭先方式、胚輸送方式)
 農家での胚回収、ET車内での胚の検索、胚からのサンプリング、胚の培養、PCR、胚移植の一連の作業の効率化を検討した。 
(2)PCR所要時間短縮の検討(庭先方式、胚輸送方式)
 PCRの準備から電気泳動までのPCR所要時間(約4時間)が全体の作業時間に占める割合は高いので、PCRの反応や電気泳動時間の短縮化を検討した。
(3)作業環境の清浄度の検討(庭先方式)
 ET車内ではサンプル処理中における異物混入の可能性が高いので、作業環境の清浄度の検討を行った。

3.結果の概要
1)胚輸送方式
(1)胚回収頭数は12頭、性判別に供試した胚数は125個で、性別判明率は92.0%であった。移植頭数は52頭で、受胎率は50.0%(23/46)であり、調査期間中に分娩に至った産子5頭の性別は判定結果と全て一致していた(表1および表2)。
(2)胚の発育ステージおよびランクによって受胎率は大きく影響を受けた(表3)。
(3)供試胚数30個程度であれば、胚回収から移植までを1日の作業(勤務時間内での対応)として可能と思われた。
2)庭先方式
(1)ET車内(図1)で胚検索、サンプリング、およびPCRなどの作業を3人で分担し並行して行うことにより、最も効率的に作業することができた。
(2)作業環境の清浄度を保つため、ET車内と車外での作業者を分け、ET車は前日に設置して 殺菌灯を点灯した。これまでのところ異物混入による誤判別は発生していない。
(3)胚回収頭数は19頭、性判別に供試した胚数は64個で、性別判明率は90.6%であった。移 植頭数は29頭で、受胎率は20.7%(6/29)であり、分娩に至った産子6頭の性別は判定結果 と全て一致していた。(表4および表5)。
(4)採取した胚は桑実胚が約60%と若い胚が多く、また、胚のランクはBおよびCランクが 50%を占めていた。このことが低受胎率の原因のひとつと考えられた(表6)。
3)サンプリングおよび性判別
(1)PCRおよび電気泳動時間の短縮により、PCR所要時間は4時間から3時間弱にすることができた。
 以上の結果から、PCR作業の間に移植場所まで胚を輸送することにより、性判別施設から車で2〜3時間離れた地域でも性判別技術を利用できることが示された。また、ET車とPCRの組み合わせにより、農家の庭先で胚回収から性判別、移植までの一連の作業が実施可能であることが実証された。


図1.ET車平面図
(北海道家畜改良事業団所有)
凍:凍結機   記:胚形態記録装置
実:実体顕微鏡 Hp:ホットプレート
M:マイクロマニピュレータ

4.成果の活用面と留意点
1)低品質胚および若齢胚の性判別後の受胎率は低いので、良質で適切な発育ステージの胚の利用を基本とする。
2)移植する胚がない場合(胚が回収されない、胚の品質が悪い、胚の発育ステージが若すぎる、判別結果が雄ばかりなど)を想定して、凍結胚の準備などをあらかじめ計画しておくこと。
3)インキュベータの設置や顕微鏡下での作業を安定して行うために、ET車の設置場所は極力水平で屋根や囲いのある場所を用意する。

5.残された問題とその対応
1)性判別胚の凍結保存技術の確立