成績概要書  (作成平成12年1月)
課題の分類 北海道 家畜 衛生 豚 微生物感染共通−滝川畜試
研究課題名:咳・くしゃみ回数の計測による豚呼吸器感染症のモニタリング
  (養豚場における簡易ヘルスチェックシステムの開発)
予算区分:道費
研究期間:平9〜11年
担当科:滝川畜試 研究部 衛生科・養豚科
協力・分担関係:なし

1.目的

 豚の呼吸器感染症は、今日の養豚における主要な生産阻害要因であり、その予防は経営上欠かすことのできないものとなっている。しかし、その実態は農場ごとに異なっており、予防対策を決定するためには、疾病検査による実態把握が必要である。呼吸器感染症の検査は、抗体検査、病原検査、病変検査により行われるが、検査材料の採取から分析にいたる煩雑な作業が必要であり、その費用も安くない。したがって、一つの農場で頻繁に検査を実施することは困難な状況にあり、これらの検査を補完する簡易診断技術の開発が望まれる。そこで本試験では、呼吸器感染症の一症状である咳・くしゃみに注目し、単位時間、単位頭数あたりの回数を記録することにより、病原の浸潤や発病程度の客観的な指標として利用可能か否かについて検討した。

2.方法

1)咳・くしゃみ回数の計測法の検討

(1) 咳・くしゃみ回数の分布 (2) 計測の長さ (3) 計測する時間帯

2) 豚呼吸器感染症のモニタリング手法としての咳・くしゃみ回数の有効性

(1) 呼吸器感染症の浸潤と咳・くしゃみ回数との関連

(2) 咳回数を用いた呼吸器感染症対策効果のモニタリング

3) 咳・くしゃみのチェックシート作成

3.結果の概要

  1. (1) 咳・くしゃみ回数は正規分布しないため、測定値を統計処理する場合、100頭・10分間あたりの回数の平方根を用いることとした。
    (2) 咳・くしゃみの計測時間は、5分間では咳回数のばらつきが大きいため10分間とした。
    (3) 咳・くしゃみ回数は日内変動する可能性が示唆されたため、計測は1日の管理作業が終わり、豚の落ち着いた時間帯に実施するのが良いと考えられた。
  2. (1) 北海道内の8養豚場の離乳・肥育前期・肥育後期の各豚舎で、呼吸器感染症病原の浸潤状況調査および咳・くしゃみ回数の計測を行った。そして、病原の浸潤状況から農場を陰性農場、低汚染農場、高汚染農場に分類して、咳・くしゃみ回数との関連を検討した。その結果、呼吸器感染症の陰性農場では、陽性農場よりも有意に咳・くしゃみ回数が少なかった(図1および表1)。このことから、咳・くしゃみ回数は、陰性農場における新たな病原の浸潤をモニタリングする方法として利用できると考えられた。また、呼吸器感染症の高汚染農場は、低汚染農場と比較して、肥育後期に有意に咳回数が増加した(図1)。このことから、咳回数は陽性農場における病原浸潤または発病の指標としても利用できることが示された。
    (2) 豚マイコプラズマ肺炎(MPS)不活化ワクチンの接種を開始した2農場で、咳回数を定期的に計測したところ、その減少が観察された。特に肥育後期の咳回数の減少は、と畜場におけるSEP(MPS様肺病変に相当)による肺の廃棄率の減少と一致し、同ワクチンの効果を判定できると考えられた(図2)。またこのうちの1農場では、咳回数が一定値までしか減少せず、次に対策を検討すべき疾病の存在を示唆できた。
  3. 以上のことから、咳・くしゃみ回数の計測は、豚の呼吸器感染症のモニタリング手法として有効であることが明らかとなった。そこで、生産現場での利用を考慮したチェックシートを咳・くしゃみそれぞれについて試作した(図3)。

 


図 1 病原浸潤と発育ステージによる咳回数の変化
  ABC異文字間、**間に有意差(P<0.01)


図 2 豚マイコプラズマ肺炎不活化ワクチンの接種による咳回数と出荷豚の肺廃棄率の推移
*矢印以降全頭ワクチン接種済み
SEPおよび胸膜炎は肺の廃棄理由


図 3 試作した咳回数のチェックシート

4.成果の活用面と留意点

  1. より正確に呼吸器感染症の実態を知るためには、病原浸潤検査や病変検査を受診し、それらの成績と咳・くしゃみ回数を総合して用いること。
  2. 疾病対策の変更にあたっては、獣医師と相談すること。

5.残された問題とその対応

  1. 咳・くしゃみ回数による診断精度の向上
  2. 呼吸器感染症以外の疾病のモニタリング手法
  3. 疾病発生に関連のある飼育管理法のモニタリング手法