成績概要書 (作成 平成12年1月)
課題の分類 研究課題名:北海道の採草地における牧草生産の現状と課題 Ⅱ.採草地からのTDN自給可能割合の試算 予算区分:農政部事業 担当科:5農畜試8研究科(事務局 天北、根釧農試)、10 支庁・28農業改良普及センター、7農試7専技室、 農政部酪農畜産課、農地整備課、農業改良課 研究期間:平成9〜11年 協力分担: |
1.目 的
前課題「Ⅰ.収量及び栄養価の現状」において得られたチモシー主体採草地における牧草収量及び栄養価を用いて採草地からのTDN自給可能割合の試算を行う。更に試算されたTDN自給可能割合を達成するために必要とされる草地面積を、現状での一戸当たり飼養頭数規模と収量から試算し、草地面積および収量の過不足について考察し、飼料自給率向上の資料とする。
2.方 法
1)試算のための基礎数字
前課題「Ⅰ.収量及び栄養価の現状」(Gプロ・作況ほ調査事業)において得られた以下のデータを基礎数字として用いた(北海道内調査5ブロックそれぞれの平均値)。
・刈り取り管理成績:牧草の生育ステージ、農家刈り取り日
・乾物収量:農家刈取り実態、出穂始め刈り体系(1番草:出穂始期、2番草:1番刈り後50日目)
・牧草栄養価:NDF含量(%,日変化量1番草0.58,2番草0.19ポイントとして出穂始刈り体系および農家刈取り実態での含量を推定)、TDN含量(%,Iで示した各時期の推定値を採用)
2)試算方法
(1)牧草からのTDN自給可能割合の試算
試算に当たっては、「乳牛に牧草を最大限摂取させ、その上で不足するエネルギーを濃厚飼料から補う」という考え方を前提に、TDN自給可能割合(%)=(牧草からのTDN摂取可能量)/(TDN要求量)×100とし、各地域毎に試算し、考察を加えた。右下のフローチャート参照。
図1 TDN自給可能割合=(TDN摂取可能量)/(TDN要求量)×100の計算手順
標準乳牛:305日乳量8400kg、乾乳期間60日、日平均TDN要求量12.95kg、基準牧草(NDF6.9%)の日平均乾物摂取可能量12.4kg。評価対象牧草の乾物摂取可能量算出には、まず各牧草のめん羊による自由採食量を推定(DMI(kg/MBW)=157.2-1.52NDF)。基準牧草のDMIを1とする相対的な指数(DMII)に変換。DMIIに標準乳牛による基準牧草の摂取可能量を乗じることにより算出。
3.結果の概要
(1)牧草からのTDN自給可能割合の試算
①牧草の乾物摂取量指数(DMII)は農家刈取時期の違いにより地域によりばらつき、根釧、道北で小さく、十勝で大きかった。(表1)
②TDN自給可能割合:出穂始め刈り体系(1番草出穂始め、2番草50日目)では1番草全道平均で62%(58〜63%)が見込まれた。農家刈取実態では全道年間平均で51%となり、また、地域間でばらつきが大きく、根釧で最も低く47%、十勝で最も高く56%であった(表2)。
(2)草地面積と飼養規模の関係試算
草地需給割合は農家刈取り実態では道北、網走、根釧の3地域で草地需給割合が100%を越え、特に道北と根釧で大きかった(各144%、129%)。これらの地域では現状より早刈りが可能と考えられたが、道央道南および十勝では草地需給割合は100%を下回り(各85%)、現状においても草地が不足気味であることが確認された。出穂始め刈り体系では草地需給割合が100%を越えるのは道北のみで、最も低いところは道央・道南の65%であった(表3)。
以上のことから、飼料自給可能割合を高めるためには栄養価の向上とともに単収の向上が不可欠と考えられる。
表1 NDF含量から推定した乾物摂取量指数(DMII)
(3カ年平均値)
ブロック名 | 出穂始刈取り体系 | 農家刈取実態 | ||
1番草 | 2番草 | 1番草 | 2番草 | |
道央・道南 | 0.95 | 1.05 | 0.85 | 0.98 |
道北 | 1.05 | 1.12 | 0.86 | 1.06 |
網走 | 1.03 | 1.08 | 0.88 | 1.02 |
十勝 | 1.01 | 1.07 | 0.93 | 1.02 |
根釧 | 0.95 | 1.08 | 0.80 | 0.99 |
全道 | 1.00 | 1.08 | 0.86 | 1.02 |
表2 出穂始刈取り体系および農家刈取実態における
標準乳牛へのTDN自給可能割合(%,3カ年平均値)
ブロック名 | 出穂始刈取り体系 | 農家刈取実態 | ||||
1番草 | 2番草 | 年間 | 1番草 | 2番草 | 年間 | |
道央・道南 | 57 | 61 | 58 | 48 | 54 | 50 |
道北 | 63 | 63 | 63 | 48 | 56 | 50 |
網走 | 64 | 62 | 63 | 50 | 56 | 52 |
十勝 | 64 | 61 | 63 | 56 | 56 | 56 |
根釧 | 59 | 61 | 60 | 45 | 53 | 47 |
全道 | 62 | 61 | 62 | 49 | 55 | 51 |
表3 酪農家一戸当たり平均飼料畑面積と草地需給割合の試算(現状と必要面積の比較)
ブロック名 | 現状の平均① 飼料畑面積(ha) |
平均必要採草地面積(ha)② | 草地需給割合(①/②*100,%) | ||
出穂始刈取り | 農家刈取り | 出穂始刈取り | 農家刈取り | ||
道央・道南 | 22.3 | 34.4 | 26.5 | 65 | 85 |
道北 | 53.6 | 52.8 | 38.5 | 102 | 144 |
網走 | 33.7 | 44.2 | 31.3 | 76 | 108 |
十勝 | 36.9 | 53.9 | 44.1 | 68 | 85 |
根釧 | 54.8 | 62.5 | 43.2 | 88 | 129 |
全道 | 44.2 | 53.8 | 39.4 | 82 | 113 |
4.成果の活用面と留意点
①今後の飼料自給率向上戦略の参考となる。
②TDN自給可能割合は、あくまでも乳牛に牧草を最大限摂取させるという特定の飼養条件において達成可能なTDN自給率である。現状の酪農家で行っている飼養方法とは異なる。
③今回の試算では放牧地およびトウモロコシ畑も全て採草地換算して試算している。
5.残された問題点とその対応
①集約放牧技術、トウモロコシ栽培、集約的土地利用等による飼料自給率の向上効果を数値化し、地域 毎に自給飼料生産の戦略を構築する必要がある。
②牧草からの乳生産効率を明かにし、土地基盤からの乳生産が最大となる条件を示す必要がある。