成績概要書  (作成平成12年1月)
課題の分類
研究課題名:肉眼観察によるトマトの栄養障害診断法
予算区分 :道 費
研究期間 :平成10〜11年度
担当科:原環センター 農業研究科
協力・分担関係:中央農試 農産化学部 品質評価科

1.目 的

現場段階におけるトマトの栄養障害の迅速な診断および初動調査に必要な「ビジュアル(カラー写真)情報集」を作成し、さらに葉診断の重要性を示すために根群および果実の補助的な情報も可能な限り加える。

2.方 法

1)試験場所:原環センター農業研究科ポリカーボネート製ハウス(加温15℃、換気温30℃)

2)供試品種:トマト「桃太郎」

3)水耕装置:育苗後の苗を一辺が7.5cmの立方体状のロックウールに移植し、ロックウールごとプラスチック製ザルにのせて、培養液の入った1/2000aワグネルポット上部に設置し、エアレーションを行った。以下の試験を開始するまでは市販(渡辺パイプ株式会社)のトマト養液栽培用肥料(ロックン肥料)を用いて水耕栽培した。

4)試験の構成:各種栄養障害の症状を明らかにするために、以下の試験を行った。

試験1 第4〜6本葉展開期以降の欠如処理による多量要素および微量要素欠乏の症状

 処理区:完全区と多量要素欠如系列(-N,-P,-K,Ca,-Mg,-Si)および微量要素欠如系列(-Fe,-Mn,-Cu,-Zn,-B)の計12処理区、4反復。処理開始時の苗齢は1998年が4葉期、1999年が6葉期。基本培養液組成:N;200(100),P;40,K;100,Ca;100,Mg;70,Si;20,Fe;1,Mn;0.25,Cu;0.05,Zn;0.05,B;0.05,Mo;0.05,Ni;0.05(mg L-1)、括弧内は1999年のみ。完全区では基本培養液を、要素欠如系列では基本培養液から目的とする要素を欠如させた培養液を用いてトマトを栽培した。

試験2 着果期以降の欠如処理による多量要素欠乏の症状

 処理区:完全区と多量要素欠如系列(+N,+P,+K,-Ca.,-Mg,-Si)の計7処理区、4反復。第1果房の果実の大きさが鶏卵大になった頃に試験1と同じ方法により欠如処理を行った。

試験3 第4〜6本葉展開期以降の過剰処理による多量要素および微量要素過剰の症状

 処理区:完全区と多量要素過剰系列(+N,+P,+K)および微量要素過剰系列(+Mn,+Cu,+Zn,+B,+Ni)の計9処理区、4反復。処理開始時の苗齢は試験1と同じ。要素過剰系列は目的とする要素のみを次の濃度になるように加え、他の要素は試験1の基本培養液と同じ。N;300,P;145,K;300,Mn;100,Cu;80,Zn;50,B;16,Ni;10(mg L-1)。

試験4 着果期以降の過剰処理による多量要素過剰の症状

処理区:完全区と多量要素過剰系列(+N,+P,+K)の計4処理区、4反復。第1果房の果実の大きさが鶏卵大になった頃に試験3と同じ方法により過剰処理を行った。

3.結果の概要・要約

1)水耕栽培法でトマト葉身部に多量要素(N,P,K,Ca,Mg)欠乏症、微量要素(Fe,Mn,Cu,Zn,B)欠乏症および微量要素(Mn,Cu,Zn,B,Ni)過剰症を発現させ、各症状の特徴を明らかにした(表1)。

2)栄養障害による症状の特徴を整理し、肉眼観察による栄養障害診断のための情報一覧(表1)および典型的な症状から検索するフローチャートを提案した。さらに、各種障害の典型的な葉身部症状の図版(カラー写真56葉)および診断の参考のために果実に発生した異常果の図版(カラー写真11葉)を提示し(写真1、2)、診断の際の便宜を図った。

3)トマトの地上部生育量と根群の発達程度は密接に関係していた。すなわち、地上部生育量および根群発達程度はいずれも生育初期からのN,P,Ca欠乏およびMn,Cu,Zn,Ni過剰条件下で著しく劣り、続いてK,Mg,Fe,B欠乏条件下で劣ることを明らかにした。

4)トマトの栄養障害による異常果の代表例である尻腐れ果は、Ca欠乏に多発したが、Si欠乏およびN,K過剰についても発生が認められた。また、P,Fe欠乏(Mn,Zn過剰に伴うFe欠乏も含む)では着果性が劣り、加えて果実の発育が抑制されたことから異常果の発生が認められた。

5)1998年に余市町の農家ハウスで発生した葉縁枯れ症状(写真3)は、本試験で検討した各種栄養障害の症状と照合した結果、K欠乏症と診断された。

   
写真1 鉄欠乏症状

  写真2 マンガン過剰
症状
  写真3 現地で発生した
葉縁枯れ症状
(K欠乏症と診断)

          

 

4.成果の活用面と留意点

1)現場段階における栄養障害の迅速な診断および初動調査に活用する。

2)診断に当たっては、聞き取り調査結果および圃場環境等を勘案して、精度を高める。

3)正確に診断し得ない場合には、土壌および作物体の分析が必要である。

4)栄養障害の症状は「桃太郎」のものである。他品種への適応は葉形などの相違による症状の変化を考慮して利用する。

5.残された問題とその対応

1)複数にわたる要素の過不足による複合栄養障害の症状把握。

2)トマトの各種栄養障害に対する対応策の検討。