成績概要書 (作成 平成12年1月)
課題の分類 研究課題名:ねぎの小菌核腐敗病の発生生態と防除対策 (道南野菜の安定生産技術確立試験②軟白ねぎの生産阻害要因の解明と対策) 予算区分:道費 担当科:道南農試研究部病虫科 研究期間:平9〜11年度 協力・分担関係:上川農試研究部 |
1.目 的
露地の春まき夏秋どり作型に多発する小菌核腐敗病の発生実態、発生生態を明らかにするとともに、耕種的および化学的防除法を確立する。
2.方 法
(1)ボトリチス属菌によるねぎ葉鞘部腐敗の発生実態調査(大野町ほか、道内各地)
(2)小菌核腐敗病菌の伝染源の形成と生存試験
(3)小菌核腐敗病の発病条件および耕種的対策
(4)小菌核腐敗病の化学的防除法
3.結果の概要
(1)生産者へのアンケート調査から、葉鞘部を腐敗させるボトリチス性病害の発生は露地の10月・11月どり、越冬ねぎ、排水不良地、連作、冷涼多雨年にそれぞれ多い傾向がうかがえた。
(2)各地に発生しているボトリチス性病害は4症状に分けられ、病原菌としてそれぞれ
Botrytis squamosa(小菌核腐敗病菌), B. porri(白かび腐敗病菌), B. byssoidea(菌糸性腐敗病菌), B. cinerea(灰色かび症菌)が同定された。なお、後者3菌種は北海道のねぎでは初めて確認された。
(3)小菌核腐敗病は主に露地の夏秋どりに、白かび腐敗病と菌糸性腐敗病は主にハウスの冬〜早春どりに発生し、収量・品質の低下をもたらした(表1)。
(4)このうち最も発生分布が広く、被害も大きい小菌核腐敗病を中心に発生生態と防除対策を検討した。
(5)罹病葉鞘部に多数形成された小菌核腐敗病の菌核は、畑地の地表面では1年間程度生存するが、水田では3カ月以内、畑地の土中では8カ月以内に死滅することが解った。
(6)本病は菌核からの直接感染もあるが、菌核などに形成された分生子による感染がより重要であることが解った。なお、菌核からの分生子はねぎ栽培全期間を通じて形成されるが、感染・発病するか否かは環境条件によるところが大きかった。
(7)本病の感染・発病には20℃以下、土寄せなどによる保湿・高土壌水分が好適する。このことは白かび腐敗病(B. porri)、菌糸性腐敗病(B. byssoidea)でも同様であった(図1)。
(8)本病に対する抵抗性は、ねぎの品種・系統間で差があり、「冬扇2号」や「彩輝」などのF1品種は「元蔵」や「長悦」などの自殖品種より強いものが多かった(表2)。
(9)本病に対する有効薬剤をミニプランター法で探索し、さらに圃場での散布試験から、ベノミル水和剤1,000〜2,000倍とイプロジオン水和剤1,000倍が有効であり、実用性があると考えられた(表3)。これら薬剤は白かび腐敗病、菌糸性腐敗病にも効果があった。
(10)散布薬剤の持続効果はベノミル水和剤2,000倍が約3週間、 イプロジオン水和剤2,000倍が約2週間であった。
(11)ベノミル水和剤500倍液のチェーンポット苗へのかん注処理は本病に有効で、実用性がある。なお、その効果は約2カ月間と考えられた。
表1 ねぎ葉鞘部を腐敗させるボトリチス性病害4種の発生時期、地域、被害程度
病名(病 原 菌) | 主な発生時期 | 発生が確認された地域 | 被害 程度 | |
ハウス | 露地 | |||
小菌核腐敗病 (B. squamosa) | 冬 | 春、秋 | 函館市,大野町,伊達市,旭川市 | +++ |
白かび腐敗病 (B. porri) | 冬 | 春、秋 | 大野町 | ++ |
菌糸性腐敗病 (B. byssoidea) | 冬 | 秋 | 函館市,大野町,上磯町,伊達市,紋別市 | ++ |
灰色かび症(B.cinerea) | 冬 | 秋 | 大野町,上磯町,伊達市,紋別市 | + |
表2 小菌核腐敗病に対する
ねぎ品種間の発病差異
供試品種 | プランター 試験 |
圃場試験 | |
大野 | 比布 | ||
発病 * 指数 |
発病 個体率 |
発病 個体率 | |
冬扇2号 | 1.2 | 0.6 | 19.7 |
彩輝 | 1.9 | 2.2 | 25.8 |
雄山 | 2.1 | 3.8 | 32.1 |
元蔵 | 2.4 | 9.4 | 37.5 |
図1 土寄せ、栽培温度と小菌核腐敗病の発生
表3 小菌核腐敗病に対する薬剤散布の効果
供試薬剤 (成分量) |
希釈 倍数 |
散布 回数 |
プランター試験 | 圃場試験 発病個体率(%) | ||
発病指数 * | 試験1 | 試験2 | 試験3 | |||
ベノミル水和剤(50%) | 1,000 | 2 | 1.6 | 5.5 | ||
〃 | 2,000 | 1 | 0.2 | 6.1 | ||
イプロジオン水和剤(50%) | 1,000 | 1-2 | 0.2 | 2.0 | 2.7 | |
無散布 | − | − | 3.7 | 15.6 | 8.5 | 31.9 |
4.成果の活用面と留意点
(1)露地ねぎの春まき夏秋どり作型に適用する。
(2)病原菌の菌核密度低下のため、ねぎの連作を避け、完全な反転耕起を行う。
(3)本病の感染・発病は20℃以下の冷涼・多湿下で土寄せなど葉鞘部被覆によって生じるため、土寄せ後に平均気温が20℃以下になるような栽培では土寄せ前に薬剤散布を行う。
(4)さらに、圃場の透排水性の改善に努める。
(5)チェーンポット苗の定植前にベノミル剤をかん注処理した場合には約2カ月間薬剤散布を必要としない。ただし、現在未登録である。
(6)本病の常発地では品種の選定も考慮する。
5.残された問題点とその対応
(1)小菌核腐敗病に対する薬剤の苗根浸漬による防除法の検討
(2)ハウス軟白ねぎにおけるボトリチス性病害の防除体系の確立