成績概要書                 (作成 平成12年1月)
研究課題名:食用ゆりのえそ病の伝染経路の解明とその対策
予算区分:道費
担当科:中央農試 病虫部 病理科
研究期間:平成8−11年
協力・分担関係:

1.目的
 食用ゆりのえそ病は、チューリップモザイクウイルス(TBV)とユリXウイルス(LVX)との重複感染によって激しいえそ症状を呈するウイルス病で、北海道全域で発生している。これら病原ウイルスの伝染経路を解明し、その対策を確立する。

2.方法
 1)発生実態調査
 2)被害解析(えそ病およびTBV,LVX,LSVの各単独感染)
 3)伝染経路(虫媒伝染、接触伝染)
 4)対策(種球のウイルス検定方法,栽培時の対策)

3.結果の概要
  TBVとLVXの重複感染によって発病する食用ゆりのえそ病について、伝染経路を解明し、その対策を明らかにした。
 1)発生実態
 (1)道内の食用ゆりでは、合計で12%のえそ病の発生が認められた。病原ウイルス別では、TBV(32.7%)、LVX(14.5%)が多く、LSV(6.2%)、CMV(2.4%)は少なかった。
 2)被害解析
 (1)食用ゆりのりん茎重は、えそ病(TBV+LVX)の次代感染株で著しく(35〜45%)減少し、TBV次代感染株ではやや(19%)減少した。
 (2)LVXおよびLSVの次代感染株では、りん茎重は減少しなかった。
 3)伝染経路
 (1)TBVはアブラムシによって高率に伝搬されるが、LVXは虫媒伝染しない(表1)。
 (2)LVXは、りん片繁殖、植え付け、摘蕾作業などによって、接触伝染する(表1)。
 (3)LVXが種球伝染および接触伝染した後、無被覆栽培でTBVがアブラムシによって媒介され、LVXとTBVが重複感染して、えそ病は発病する。
 2)対策
 (1)ウイルスフリー球の使用のみでLVXの感染の防止が可能で、えそ病の発生を完全に防ぐことができる(表3)。
 (2)茎頂培養個体の鉢上げ前のウイルス検定では検出率が低いので、種球のウイルスフリー確認は、採種栽培における萌芽2〜6週間後に中〜下位葉をELISA検定して行う。
 (3)ウイルス感染の恐れがある種球が混在する場合は、接触伝染を防ぐため、りん片繁殖、植え付け、摘蕾などの作業を隔離し、ウイルスフリー球の作業を先に行う(表2)。
(4)無被覆栽培期間を販売球栽培の1年のみとすることによりウイルス病による被害を最小限にすることができる(表3)。

表1 食用ゆりのえそ病の病原ウイルスの伝染様式(まとめ)
伝染様式 伝染率(%)
TBV LVX
虫媒伝染 ジャガイモヒゲナガアブラムシ 71〜 92 0
モモアカアブラムシ 73〜100 0
ワタアブラムシ 98〜100 0
その他 0
接触伝染 種球の植付 6
病株との隣接 7
りん片繁殖 りん片かき 0 1
りん片挿し 0 22
子球分離 0 31
摘蕾作業 19
−:未試験

表2 ウイルスフリー球にLVX保毒球を混入させて栽培した場合のLVXの伝染
作業 LVX感染率(%)
伝染率からの推定
(混入率5%の場合)
現地調査
農家A 農家B
摘蕾作業 摘蕾前 5.0 16.5 10.0
摘蕾後 6.8    
りん片繁殖 りん片挿し 9.6    
子球分離 15.0    
植付作業 植付後 16.5    
収穫時 18.4 32.0 45.1

表3 無被覆栽培期間とえそ病の発病との関係
種球 無被覆期間 えそ病
発病株率(%)
TBV
次代感染株率(%)
ウイルスフリー種球 1年 0 0
2年 0 40.0
3年 0 64.0
LVX保毒種球:10% 1年 0 0
2年 4.0 36.0
3年 6.4 57.6
LVX保毒種球:30% 1年 0 0
2年 12.0 28.0
3年 19.2 44.8
無被覆栽培によるTBVの伝染率を40%とした

4.成果の活用面と留意点
 1)食用ゆりのえそ病の伝染経路を解明し、その対策を示した。
 2)食用ゆり栽培におけるウイルス病の対策に活用できる。
 3)ウイルスフリー球生産に活用できる。

5.残された問題点とその対応  CMV(ユリ系)が食用ゆりに及ぼす影響