成績概要書(作成平成12年2月)

課題の分類
研究課題名:土壌流亡の緩和手法と河畔林の緩衝機能評価
     (農村地帯における河畔環境の再生に関する研究)
予算区分:共同研究
担当:中央農試農業土木部農村環境科
研究期間:平成9〜11年度
協力・分担関係:道立林業試験場、道立水産孵化場

1.目的
畑作丘陵地帯は、土壌流亡の被害で悩まされているが、これは営農上多大な損害を与えるのみならず、近年の環境保全の高まりから、水系への負荷など生態系に対する影響も問題となっている。 本試験の目的は、土壌流亡を圃場において緩和する手法を確立するとともに、河畔林等の林帯が、圃場から系外への流亡土壌を緩衝する機能を明らかにするものである。

2.方法
1)調査圃場    由仁町古山    レキ質褐色森林土    勾配は5〜10%
         京極町川西    表層多腐植質黒ボク土  勾配は5%前後
         留寿都村三豊   淡色黒ボク土      勾配は5%前後

2)調査項目    試験区の土壌特性(断面、支持力、硬度、飽和透水試験、粒径組成)、
         土壌流亡量、地表流の水質

3.結果の概要
(1)作業機械の踏圧履歴が多いほど、圃場の堅密度は増加し、圃場の浸透能は低下し、土壌流亡量は増加した。(図1)
(2)作付け前の心土破砕と作付け後の畦間サブソイラーを併用することで、圃場の土壌流亡緩和効果を、作付け後も維持出来ると考えられる。(図2、表1)
(3)降雪前にプラウにより溝切りを行うことで、凹部に集まる地表流を分散させてガリーの発達を緩和出来、融雪期の流亡土量を大幅に減少させる効果が確認された。(表2)
(4)溝切りにより、勾配の緩い溝に流れ込んだ表土がそこに堆積する効果の大きい事が明らかとなった。そしておおむね0.5〜1%程度の溝勾配が効果的であった。
(5)融雪前に、心土破砕を施工する事でも、融雪期のガリー侵食が緩和され(表2)、また融雪後も心土破砕の膨軟効果の持続性があることが確認された。
(6)降雨初期の弱い雨量強度では、林帯での地下浸透量が多かったが、降雨後期に雨量強度が上昇するにつれ、林帯での浸透量が減少していった。
(7)林帯での濾過土砂重は、流れ込んだ土砂重と正の相関が確認された。(図3)
(8)林帯による土砂濾過率は逆に、そこに流れ込んだ土砂重より、林帯に流れ込んだ地表流量に、より強く影響された。(図4)
(9)粗粒質画分(粗砂)は、そのほとんどが植生濾過により濾過されていたが、細粒質画分(粘土)は、全体的に浸透濾過の占める割合が高かった。
(10) 林帯の緩衝機能は、シルト以上の粒径濾過に関しては同面積の沈砂池より大きな機能があり、林帯の粘土コロイドの濾過能力も踏まえると、さらに大きな緩衝機能が認められた。


図1 降雨強度の違いによる、踏圧履歴と土壌流亡量の関係


図2 対照区を100とした場合の、心破区、畦間サブソイラー区の流亡率の経時変化

 

表1 作付け期の対策の効果一覧

工法名

緩和効果

持続性

施工性

施工時期

備考

心土破砕

作付前のみ

双方を組み合わせれば効果的

畦間サブソイラ

随時

流亡抑制穴

×

随時

機械作業困難

 

表2 融雪期の対策の効果一覧

工法名

緩和効果

持続性

施工性

適応可能地形

備考

プラウ溝切

どこでも○

排水流末完備が前提

心土破砕

凹地は△

排水条件はないが手間


図3 林帯流入土砂重と濾過土砂重との関係

 


図4 林帯流入流量と土砂濾過率との関係

 

4.成果の活用面と留意点
(1)作付け期は表1、融雪期は表2の対策により、土壌流亡を緩和出来る。
(2)プラウで溝切りすることによって、融雪期のガリー侵食を緩和する工法は、溝切りしたあとの流末排水の整備がされている必要がある。
(3)今回調査した林帯の林床はササである。
(4)心土破砕の適応に当たっては凹地などの地形条件に配慮する。
(5)融雪期の対策工法は、多雪・土壌非凍結地帯を対象としている。

5.残された問題点とその対応
(1)心土破砕を降雪前に施工することによる融雪直後の圃場の乾き具合・支持力等については、まだ検証を行っていない。
(2)林帯の評価に当たっては、林帯の浸透の解明等など、さらに検討が必要である。