成績概要書(作成 平成12年2月4日)

課題の分類
研究課題名:チゼルプラウ耕起と給排水明渠による圃場の乾燥促進技術
      (乾田化促進のための圃場管理技術の開発)
予算区分:実用化促進(地域総合)
担当研究室:北海道農試 総合研究部 総研1チーム
担当者:大下泰生・粟崎弘利・渡辺治郎・湯川智行・平岡博幸
研究期間:平成8〜11年
協力・分担関係:

1.目 的
 乾田播種早期湛水栽培(乾田直播)は畑状態で播種するため、播種時の砕土性が播種精度に大きく影響する。砕土性を高めるためには圃場をできるだけ乾燥させる必要があり、融雪後の乾燥促進や降雨後の迅速な排水は重要な要素である。そこで、従来のロータリ耕うん作業機(ロータリ)に比べて作業速度が速く、圃場の乾燥促進に効果のあるチゼルプラウによる簡易耕起(荒起し)と、圃場表面水の排水や給水時の円滑な入水に効果のある給排水明渠の特性を明らかにした。

2.方 法
(1)チゼルプラウによる荒起し:融雪後にチゼルプラウおよびロータリを用いた簡易耕起を行い、作業時の所要動力、土壌含水比、矩形板沈下量等を調査した。チゼルプラウ:CSA-701、作業幅約2m、7本爪、チゼル爪間隔30cm、設定耕深15㎝。ロータリ:KA201、作業幅2m、設定耕深13㎝。矩形板沈下量:矩形板(5×10㎝)を接地圧1kgf/㎝2で地面に押し込み、その沈下量でトラクタ車輪の沈下量の目安とした。供試圃場:北農試淡色黒ボク土水田および無機質表層高位泥炭土水田。
(2)給排水明渠の給水・排水特性:畦畔沿いに明渠を作溝した圃場と明渠のない圃場で給水および排水時間を測定した。さらに、落水後の土壌含水比、矩形板沈下量等を調査した。供試圃場:北農試灰色低地土造成水田、明渠作溝圃場(5a、10×50m)、明渠なし圃場(5a、10×50m)。明渠寸法:溝上幅28㎝、溝底幅25㎝、深さ20㎝。

3.結果の概要
(1)チゼルプラウは、チゼルと呼ばれる細い鉄の爪を25〜30cm間隔で配列し、トラクタでけん引して作土層をひっかくように耕起する作業機である(図1)。爪で耕起された部分は細かく砕土され孔隙が大きく、爪と爪の間の部分は大きな土塊となる。
(2)融雪後、チゼルプラウで荒起しを行うと土塊の間隙が大きく、排水が良いため、ロータリ耕起やまったく荒起しをしない圃場に比べて土壌水分が早く低下した(図2)。また、降雨後も表層および下層とも土壌水分が短期間に低下した(図3)。
(3)チゼルプラウで耕起すると大きな土塊が縦方向の荷重を支持するため、土塊を細かく砕土するロータリ耕起に比べて矩形板の沈下量が少なくなり、トラクタ等の走行性の向上が期待できる(図3)。
(4)チゼルプラウは作業速度による砕土率の変化が少なかった。一方、ロータリは耕うん軸の回転数が一定であることから、作業速度が早くなるにつれて耕うんピッチ(耕うん爪1回転当たりの進行距離)が大きくなり、限界速度を超えると砕土性が急激に低下した。同一出力のトラクタであればチゼルプラウはロータリの約2倍の速度で作業が可能であった(図4)。
(5)明渠を作溝した圃場は明渠のない圃場に比べて入水時の用水量が多く、給水時間も長くなった。しかし、明渠のある圃場では表面水を迅速に集水して排水口に排出するため、排水時間は明渠のない圃場に比べて短くなった(図5)。さらに、落水後も表面水がほとんどなく、明渠のない圃場に比べて土壌含水比が低く、土壌硬度が高くなるなど、乾燥が促進された(表1)。

 

 


 図2 融雪後の土壌含水比の推移

 


図3 降雨後の土壌含水比と矩形板沈下量の推移

 


 図4 チゼルプラウとロータリの所要動力と砕土率

 


 図5 明渠の有無による排水時間の比較

 

 

4.成果の活用面と留意点
(1)チゼルプラウによる荒耕しや給排水明渠は乾田直播のみならず湛水直播や移植栽培にも利用できる。
(2)チゼルプラウの耕深が大きいと耕盤を破砕し、乾田直播では漏水が多くなるため耕深を15㎝程度に留める必要がある。

5.残された問題とその対応
 荒起しが可能な土壌水分などの作業条件を明らかにする必要がある。