成績概要書(作成 平成12年2月4日)
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1.目的
低コストかつ簡易に堆肥化を進めるための施設および資材開発の一環として、野外に堆積した高水分乳牛糞尿の堆肥列に対するシート被覆効果をシートの種類、被覆方法、切り返しの有無の条件別に検討した。
2.試験方法
1)シートの水蒸気透過性試験(試験1)
有効容積2Lの円筒容器(直径14cm)に蒸留水を1L投入し、直径12cmの開口部に供試シート(通気性シートO、A、B、Cおよび防水シート)を張付け、20℃に設定した恒温室内に静置した。その後、容器内からの蒸留水の減少量を6日間、定時に測定し、この値をシート被覆区では水蒸気透過量、無被覆区(対照区)では蒸発量とした。
2)高水分乳牛糞尿に対するシート被覆試験(試験2〜5、表1)
(1) 供試堆肥:敷料混入乳牛糞尿、水分78〜82%
(2) 測定項目:①堆 肥 列:温度、重量、体積、水分、肥料成分含有率
②れき汁重量:れき汁水分、れき汁中の肥料成分含有率
③気象条件 :外気温度および降水量(根釧農試アメダス観測値による)
表1 試験区の概要
試験番号 |
試験期間 |
堆肥列規模 |
供試シート |
被覆方法 |
切返し |
れき汁回収 |
||
通気性シート |
防水シート |
|||||||
2 |
1997/7/12 〜11/5 |
:117日間 |
約6t |
O |
− |
密閉 |
なし |
なし |
3 |
1998/8/10 〜10/30 |
: 81日間 |
約5t |
A 、B |
− |
密閉 |
なし |
なし |
4 |
1999/5/28 〜10/1 |
:126日間 |
約4t |
C |
○ |
密閉、裾上げ1) |
3 回2) |
なし |
5 |
1999/5/28 〜10/1 |
:126日間 |
約3t |
C |
○ |
密閉 |
なし |
あり |
3.結果の概要・要約
1)供試シートの透気度は74〜1972sec/100ccと大きな差があったが、①無被覆区の蒸発量に対する水蒸気透過量が16〜18%のもの(通気性シートA、B、C)と②水蒸気透過性の低いもの(防水シート、通気性シートO)の2種類に分類された(表2)。
2)高水分乳牛糞尿の堆肥列を通気性シートおよび防水シートで被覆した結果、重量および体積減少率、堆肥中の水分および肥料成分含有率のいずれについても被覆効果にシート間の差は認められず、切り返しを加えた条件でも同様であった(表3、4)。
3)シート被覆における堆肥列の重量減少率は無被覆に比べ9ポイント高かった。また、堆肥列の温度は無被覆に比べ高くかつ安定して推移した。これはシート被覆で堆肥列への雨水浸入が抑制されたことにより、温度の上昇と有機物の分解が促進されたと推察された。また、体積減少率はシートの有無による差は3ポイントとわずかだったが、重量減少率が高いことから堆肥列の発酵が良好に進むための指標である「かさ密度」はシート被覆により低く維持されたと考えられた(表5、図1)。
4)試験終了時における水分含有率は、シート被覆の有無で大差はなく、窒素の減少率でも差は認められなかった。しかし、リンおよびカリウムではシート被覆により含有率が高く維持され、肥料成分の損失も抑制された(表6)。
5)堆肥列をシートで被覆することにより、排出されるれき汁量は無被覆の22〜33%に抑制でき、肥料成分の排出も抑制された(表7)。
6)以上のことから、高水分乳牛糞尿の堆肥列をシートで被覆することにより①堆肥列への雨水の浸入を防止する効果、②堆肥列の温度を上昇させ安定させる効果、③堆肥列重量を減少させる効果、④肥料成分の流亡を抑制する効果、⑤降雨によるれき汁量の増加を抑制する効果が期待できる。
表2 供試シートの物性値および水蒸気透過量
供試シート名 |
透気度1) |
引裂強度1) |
引張強度1) |
蒸発量・水蒸気透過量2) |
(sec/100cc) |
(kgf) |
(kgf) |
(g/cm2/ 日) |
|
無被覆 |
− |
− |
− |
0.85 (100) |
通気性シートO |
73.7 |
2.0 |
6.5 |
0.02 ( 2) |
通気性シートA |
298.4 |
7.0 |
16.0 |
0.14 ( 16) |
通気性シートB |
1972.2 |
2.0 |
10.7 |
0.14 ( 17) |
通気性シートC |
322.5 |
6.0 |
14.0 |
0.16 ( 18) |
防水シート |
− |
− |
− |
0.00 ( 0) |
表3 被覆シートの種類と堆肥列の重量および体積減少率
項 目 |
通気性シート | 防水シート1) |
重量減少率 (%) | 50 |
53 |
体積減少率 (%) | 53 |
55 |
1) 試験4〜5のシート密閉被覆区の平均値を用いた。
表
4 被覆シートの種類と堆肥中の水分および肥料成分含有率成分 | 開始時(%) | 終了時1) |
|
通気性シート | 防水シート2) | ||
水分 | 81.6 | 80.3( 98) | 81.5(100) |
T-N | 0.52 | 0.45 ( 87) | 0.48 ( 93) |
P2O5 | 0.23 | 0.35 (150) | 0.47 (202) |
K2O | 0.54 | 0.77 (143) | 0.74 (138) |
NH4-N | 0.19 | 0.09 ( 47) | 0.09 ( 45) |
1)( )内は開始時の値を100とした指数
2)試験4〜5のシート密閉被覆区の平均値を用いた。
表5 シート被覆の有無と重量および体積減少率
項 目 |
被覆1) |
無被覆 |
重量減少率 (%) | 45 |
36 |
体積減少率 (%) | 46 |
49 |
1) 試験2〜5におけるシート密閉被覆区の平均値を用いた。
表6 シート被覆の有無と堆肥中の水分および肥料成分含有率
成分 | 開始時(%) | 終了時1) |
|
被覆2) | 無被覆 | ||
水分 | 80.5 | 80.3 (100) | 81.4 (101) |
T-N | 0.56 | 0.52 (93) | 0.46 (83) |
P2O5 | 0.27 | 0.41 (149) | 0.37 (135) |
K2O | 0.72 | 0.84 (118) | 0.60 (84) |
NH4-N | 0.17 | 0.08 (45) | 0.08 (45) |
表7 れき汁による積算肥料成分排出量1)
処 理 |
れき汁量 |
肥料成分排出量 (g) |
||||
T-N |
P2O5 |
K2O |
CaO |
MgO |
||
無被覆 |
2775 |
795 |
392 |
5296 |
1123 |
369 |
通気性シート密閉被覆 |
609 |
557 |
51 |
1470 |
641 |
182 |
防水シート密閉被覆 |
922 |
672 |
93 |
2127 |
747 |
197 |
4. 成果の活用面と留意点
1)被覆資材は、経済性と耐久性を考慮して選択する。
2)シート被覆した堆肥列は地下浸透を防止した場所に設置し、れき汁の貯留施設を併設する必要がある。
5. 残された問題とその対応
1)発酵促進効果の高い被覆資材および実規模堆肥列に対するシート被覆技術の開発
2)れき汁回収を考慮した簡易な堆肥の貯留法
3)シート被覆した堆肥列の圃場堆積が環境に与える影響