成績概要書                         (作成平成12年1月)
>研究課題名:酪農地帯における新規就農者の成功要因の解明
予算区分:道費               担当科:根釧農試 研究部 経営科
研究期間 :平成9〜11年度          協力・分担関係:なし
1.目的
 本研究では、新規就農した酪農経営の所得水準や初期投資、追加投資などの状況を調査し、新規就農経営が安定的に営農を継続するための要因を明らかにすることを目的とした。
 
2.方法
1)内容
 新規就農した酪農経営の聞き取り、関連資料収集
2)調査対象地
 中標津町、別海町、浜中町
 
3.結果の概要・要約
1)新規就農経営の営農方針・営農方式は一様ではなく、様々な問題を抱えている(表1)。新規就農経営は、大きく中小規模で泌乳水準が低〜中である経営と、大規模で高泌乳の経営に分けられる。新規就農経営の所得水準を比較すると、中小規模経営、大規模経営双方ともに高い所得を実現する経営と低い所得の経営が存在する(表2)。このことは、新規就農経営で多様な営農方針が選択されているとともに、中小規模経営でも大規模経営でも成功の可能性があること、一方で同じ展開であっても失敗する場合があることを示している。全体として新規就農経営では、現状の経営状況に満足する事例が多く、一定程度の成果をあげられたといえる。
2)小規模、大規模の双方で、高い所得と低い所得の経営を比較し、差異発生の要因を検討した(表3)。①小規模経営で、高い所得を実現するAおよびH経営では、10年の長期実習による技術習得の上で低投入方式を志向し就農したのに対し、低い所得のG経営では就農当初、低投入方式を志向したわけではない。G経営は就農農場の牛舎規模が狭小(30頭以下)で十分な所得が得られなかったこと、資金的制約により追加投資が困難だったことから、低投入方式への転換を余儀なくされた。しかし、草地の生産性が低い、また実習期間が1年と短く技術力が伴わないことから、充分な経営成果があげられていない。②大規模経営で、高い所得を実現するK経営と平均的所得のM経営では、K経営は多頭化による収益追求を明確な指針とし、フリーストール施設の導入を重視したのに対し、M経営は必ずしも明瞭ではなく、追加投資として飼料作機械の更新を重視したため、その後の生産拡大が遅れている。また、新規就農経営に共通して携行資金は無しから600万円で少額であることが多い。以上から、成功の要因として、①就農段階で明瞭な営農方針をもつこと、②営農方針に即した技術能力を保有すること、③営農方針や技術水準に見合った適正な農場が準備される必要があることが示される。
3)このことは、新規就農経営が経済的成功を実現するためには、就農者の事前評価の徹底による安易な就農の抑制、および営農方針に即した農場選定が重要なことを示している。事前評価として、営農方針の確認、技術能力の評価、携行資金額を確認し、誰でも受け入れる状況を排除すること、また農場選定として、農場の生産力、規模や施設の営農方針への適合性、必要となる追加投資額を事前掌握することが必要である。
 
表1 新規就農時の問題点(新規就農経営15戸)
 
表2 新規就農経営の経営収支(平成8〜10年過去3ヶ年平均)

注3)営農方針で,低投入は小規模でゆとりを,所得は所得拡大,大規模は生産拡大による所得拡大を第一目標とする
 
表3 経営間の相違点
 小規模で高い所得(AおよびH経営)小規模で低い所得(G経営)
就農環境

追加投資


営農方針


技術習得
 
農地狭く草地状態不良
A経営では小規模牛舎
育成舎設置・機械更新、草地整備(1000万円程度)、A経営では牛舎改造し頭数増加

明確な低投入志向、借地や頭数削減で1頭あたり面積の確保、草地生産性の向上、A経営ではライフサイクルに対応した生産増加対応
10年程度の長期農家実習での高い経営技術習得、酪農技術の自己学習
拡張困難な30頭規模の牛舎
草地状態不良
育成舎設置・機械更新(300万程度)
就農以前の貯蓄で農場買い取り資金の繰り上げ償還、投資全体の抑制
草地改良進まず、高泌乳から低投入そしてさらに粗放的な営農方針に変化
営農方針と技術選択が整合していなかった
1年未満の短期間の農家実習(作業手順)
 
 大規模で高い所得(K経営)大規模で平均的所得(M経営)
就農環境
追加投資
営農方針

技術習得
 
農地狭く草地状態不良、不十分な機械装備
多頭化を目指した牛舎改造(フリーストール化)
多頭化と省力化の追求(育成牛の保有せず)など明確な経営方針、安定的な泌乳水準
農家実習1年と農家集団からの技術情報入手
農協牧場への勤務経験2〜3年
草地状態一部不良、機械能力低い
作業効率優先の機械施設投資
多頭化の追求ではなく高泌乳化だが乳量の増減ある
農家実習1年と酪農ヘルパー2〜3年
 
 
4.成果の活用と留意点
1)地域の支援体制によって新規就農経営の状況が異なることを考慮する必要がある。
 
5.残された課題
1)新規就農経営の離農発生要因については今後の課題である。