成績概要書                       (作成 平成12年1月)

研究課題名:農地供給過剰下における農地利用集積の課題と方向
      −21世紀農地利用集積等推進方策策定事業−

予算区分:道費            担当科:中央農試 経営部経営科
                        十勝農試 研究部経営科
                        根釧農試 研究部経営科
研究期間:平9〜10年度       協力・分担関係: なし
 
1.目 的
 本道の主要農業地帯別に中長期の農地の需給見通しを作成するとともに、農地の需給見通しを踏まえた上で農地の利用集積の実態に関する調査を実施し、これにより21世紀に向けた農地利用集積の課題と方向を明らかにする。
 
2.方 法
 1)農業センサスの構造動態調査で示される動態表(経営耕地規模別の相関表)を用いて農業構造(経営耕地規模別農家戸数)の将来予測を行う。
 2)農業構造の将来予測に基づき、14支庁別に農地の需給見通しを検討する。
 3)本道の主要な農業地帯(稲作地帯、畑作地帯、酪農地帯)において農家の農地供給行動および農地需要行動に関する実態調査を行い、農地利用集積の課題を明らかにする。
 4)上記1)〜3)の結果を踏まえて、21世紀に向けた適切な農地の利用集積の方向を検討する。
 
3.結果の概要
 1)2000年および2005年の農業構造予測に基づき(表1)、農地需給の見通しを検討した(表2)。それによると、稲作地帯と酪農地帯では、1995〜2000年において農地供給過剰が顕在化し、2000〜2005年において農地供給過剰の構造が一層強まるものと予測された。稲作地帯では小規模層における離農が、また、酪農地帯では中規模層(20〜40ha層)や大規模層(50ha以上層)における離農が農地供給過剰を引き起こす最大の要因である。
 2)畑作地帯のうち、経営耕地面積が比較的小さい網走では、経営規模拡大意欲が強く、1995〜2000年において順調に農地の需要が見込まれ、2000〜2005年においても農地需給の均衡状態が保たれると予測された。一方、経営耕地面積が比較的大きい十勝では、50ha以上層で離農や経営規模縮小による農地供給過剰の状況が見受けられ、2000〜2005年にかけて農地供給過剰が顕在化するものと予測された。
 3)本道の主要な農業地帯において行った実態調査によると、稲作地帯では10ha以上層においても兼業農家や高齢農家が少なからず存在することから、近い将来に予想される農地供給過剰への対応として、これらの農家を農地の担い手として位置づけて支援していくことが重要であると考えられた。また、農家1戸当たりの経営規模が大きくなっている地域では、従来のように残存農家が離農跡地を簡単に引き受けることができない状況になっていることから、市町村レベルにおける離農跡地の中間保有機能を有する組織の形成が必要になると考えられた。
 4)近年、特に問題となっている米価下落との関連では、オーバーローンに陥るような状態にある農家が見受けられたことから、農産物価格の激変に即応した金融措置が必要になると考えられた。また、小作料水準をめぐって農地の貸し手と借り手の間に葛藤が起きていたことから、賃貸借関係の安定化を図るような対策が必要であると考えられた。
 5)畑作地帯については、2010年までに農家1戸当たり平均経営耕地面積が50haを超える市町村が少なからず出現すると予測される一方で、現状の技術水準では50ha以上への規模拡大は必ずしも経済的メリットがあるとは言い難いという試算結果を得た。畑作地帯における規模拡大を順調に進めるためには、コスト低減や単収の向上といった所得拡大に向けた対策の他、一定以上の規模拡大を実現した者に対する経済的メリット(税制上の特典や助成金など)を付与するような対策を講じる必要があると考えられた。
 6)酪農地帯で農地の供給過剰が問題となるのは、主に大規模酪農が展開する地域であると判断された。これへの対応としては、より大規模な営農が行える技術的条件を早急に整えることは勿論のこと、新規参入の促進などによって新たな農地需要を創出する必要があると考えられた。また、酪農地帯では農地の分散が激しいという問題を抱えていたことから、交換分合などによって農地集積を図ることが重要な課題となろう。
 
表1 経営耕地規模階層別農家戸数の将来予測

 

表2 経営耕地規模階層別農地需給ギャップの推計結果

 

4.成果の活用面と留意点
 本成績は、本道における農地の利用集積や保全管理のあり方などを検討する際に、その基礎資料として活用されることが期待される。また、本成績で試みた農地需給の将来予測に関する手法につては、農業センサスで新たなデータが公表される度に適用が可能である。
 ただし、本成績で試みた予測手法は、データの制約上、全道一円または支庁単位での予測にしか適用できないという制約を有する。
 
5.残された問題点とその対応
 地域的な農地利用の再編を推進する支援組織のあり方に関する検討が残されている。これについては、平成11年度開始の道費課題「農地利用システムの再編による多様な担い手の形成」において検討する予定である。